小さな森
私は森を食べている。小さな森だ。
かわいらしい姿とは裏腹に、森、と言うだけあって、なかなかに手ごわい相手だ。草っぽいえぐみがあるし、歯ごたえも、なんというか、すごい。反発を感じなくもない。
森の中の住人が、あるいは獣が猛っているのか、どことなしにゴォォという音が聞こえ、なくもない。
とにかく森というのはこんなにも食べるのが大変なのかと思わされるが、そこは一度口に含んでしまった身として、引くわけにもいかず、もしゃ、もしゃ、と噛み続ける。噛み締める。
咀嚼を続けると、ほのかに甘みを感じた。森の木々のどれかに実っていた果実だろうか。リスか、ネズミか、そんなあたりの小動物が大事に頬張っていた木の実だろうか。
そうなると、リスだかネズミだかを一緒に噛んでしまったことになるから、なんだか肩身がせまいというか、すこし後が悪いというか、率直に表現すると申し訳ないなぁ、と思いつつ、今さら吐き出すわけにもいかないので、と自分自身に言い訳しながら、あらためて咀嚼。
もう、森は森と呼べないほどに小さく、細かく噛み砕かれ、木々の破片ばかりになってしまっただろう。
いよいよ、いよいよだ。
さあ、飲み込むぞ。
ついに森を食べ尽くしてしまうぞ。
やっ、いってしまえ!
ぐっと喉を開いて、飲み込もうとした、まさにその瞬間に電話が鳴り、口の中の粉々になった森、もといブロッコリーのかけらを、少し吹き出してしまった。しかも、力んだせいで、頬の中を噛んだらしく、ほんのり血の味がして気持ち悪い。
こんなに努力したのに、こんな結末だなんて、とがっかりしながら、麦茶で流し込んで、電話に出た。