青春時代 第12話
さて、県大会に向けて、審査員の方々からのアドバイスを生かして色々と見直した。
ミュージカルなんだから歌と踊りは重要な要素だ。
ダンスにもっとメリハリをつけて動きで魅せるようにする為、柔軟運動と耐久力をつける運動の時間を増やし、ダンスの練習に時間を割くようにした。
音楽に負けない声を出せるよう、腹筋も鍛えるようにして、発声練習も強化した。
演出面でも、舞台全体ではなく、会場全体を使うと言う発想に切り替えた。
まず主役のリーダーの俺は、舞台から登場しない。
会場中央付近にある入場口から現れる事にした。
神出鬼没な誘拐犯を演出するためだ。
観客席からの登場。
これはインパクトがあるだろう。
さらに、ヒロインが連れ去られるのも、舞台から飛び出して、観客席まで連れて行くようにした。
こんな感じで大幅に変更を加えていった。
その分、練習する時間が足りなくなる。
危険性も高まるし、質は落ちてしまうかも知れない。
でも、みんなで話し合ったのだ。
他の学校は、まず殆どが演技で勝負に来るはず。
演技で同じ様に勝負したら、ミュージカルの部分が中途半端になり、ミュージカルとしての魅力が薄れてしまう。
そして、演技もミュージカルも中途半端になり、最悪の結果になるかも知れない。
だったら、いっそのこと、演技で勝負するのではなく、ミュージカルで勝負しようと。
これは、ヌー先生と俺が、なぜ地区大会で優勝したかを考察した結果、審査員が「将来性にかけたと判断した」と言う結論に至った経緯からも来ている。
曲の方も、全曲撮り直した。
中には作り変えたものもある。
元の台本の曲の中に一曲ほど時代的に古い感じのものがあったので、俺の個人的趣味で派手なロックにしたった。
あと、全体的になるべく多重録音して重厚感のある楽曲にしたつもり。
こうして、ミュージカルを全面に押し出した構成にして、練習に励み、県大会に挑んだ。
県大会はT県で行われる。
宿泊施設が併設された大きな劇場で、みんなで泊まりの準備をして旅立った。
会場に着くと、各自荷物を部屋に置いて、早速リハーサルを始めた。
舞台は一つしかないので、どの高校がいつ使えるか決められているのだ。
何のシーンを練習するのかも重要だ。
舞台の大きさなどを把握しておかなければならないシーンを慎重に選んでおく。
この辺りは演出家のIさんが抜け目なくやってくれている。
時間をめいいっぱい使ってリハーサルを終えた俺らは一旦宿泊施設へ戻った。
俺は彼女の部屋へと向かい、ドアをノックした。
「ねえ、会場の出入り口(登場する場所、退場する場所)のチェックをするついでに、他の学校のリハーサルでも見てみない?」
彼女が部屋から出てきて頷いた。
二人で舞台へと向かう。
舞台のエリアは薄暗く、灯りが殆ど無いが、俺たちが入って行くと、そこに居た他校の女子達が反応した。
「ねえ、あれシロー(俺の役名)じゃない?」
「ほんとだ!シローよ!」
「やだ!うそ!」
「どうしよう?!」
ん?!なになに?!何で俺の事バレてんの?
あ、そか。リハーサル先にしたからか。
謎は解けた!じっ◯ゃんの名にかけて!
まあ、じゃあどうでもいいや。
そんな女の子達を無視しつつ、彼女と話しながら素通りして、他校のリハーサルをチラ見した。
うーむ、やっぱうめーー!
わかってたけど、各地区予選を勝ち抜いてきた強豪ばかりだから、半端なくうまい!
彼女に話しかけた。
「やっぱり、思ってた以上にすごいかな」
「うん、凄いね」
「でも、負けてられないね」
「そうね」
「よし!もう少し見せてもらってから、出入り口チェックして、戻ったら皆んなに報告しとくか」
そして彼女とあれやこれや感想を言い合いながらリハーサルを観察し、帰り際に出入り口チェックをして宿泊施設に戻った。
明日は運命の本番だ。