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神話物語 | 霧の女③
前話はこちら(↓)
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「あなたが霧の女なのですか?」
私は目の前にいる図書館員に尋ねた。
「『霧の女』とは何者でしょうか?」
「一時期、目撃情報が相次いだ女のことです。私は霧の女の目撃情報があった街の図書館を訪れています。ネットには、載っていない『霧の女』の情報を探しているのです」
「あぁ、そう言えば、ちょっと前まで、そういう噂がありましたね。『霧の女』っていうのですね」
図書館員はあまり霧の女には、関心がなかったようだ。しかし、目の前にいる彼女は、霧の女のイメージと酷似していた。
「ひょっと、あなたが『霧の女』なのでしょうか?」
彼女は微かな笑みを浮かべた。
「私には私が霧の女だという意識はありません。存じ上げない方ですし。私の知らないところで、私が『霧の女』と言われていないとは言えませんが。ははは」
「変なことを聞いてしまいました。閉館でしたね。また明日出直します」
「そうですか。ではまたお待ちしております」
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明くる日、私はまた図書館へ向かった。昨日と同じ席に陣取り、読みかけの郷土史の資料を読み始めた。
読んだ部分のほとんどは、当然のことながら、霧の女とは関係のない街の歴史に関するものだった。
しかし、今から30年前、60年前の箇所を入念に読んでいたら、明らかに霧の女と思われる記述が見つかった。
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「196×年8月には、青い発光体のような女性がたびたび目撃された。しかし、いつの間にか、忽然と消えてしまうようだ。未だに、実在の人物かどうかは謎に包まれている」
「199×年夏、西蒲生4丁目字3の6で初めて目撃されたのを皮切りに、たびたび女性の形をした青い発光体が目撃された。発光体が何であったのか、特定には至らなかった」
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「だいぶご熱心にお読みですね。『霧の女』は発見できましたか?」
「あなたは、図書館長さんでいらっしゃいますか?」
「左様でございます。実は今朝、伝言を預かりまして」
「伝言とは?」
「もし、今日も郷土資料室にやってくる男性がいたら、これを渡してほしいと頼まれました。『霧の女』と言えば分かると」
「あぁ、昨日の図書館員の女性ですね」
私の返事を聞いて、図書館長の顔が少し曇った。
「恐れ入りますが、この図書館には、女性の図書館員はいないのです」
驚いたのは私のほうだった。
「いえ、昨日の閉館の間際、たしかに私は女性の図書館員に会いましたよ」
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「いえ、本当にこの図書館には、(非常に珍しいことですが)女性職員はいないのです。今までもこの部屋で『霧の女を見た』という報告を受けております。この伝言は、今朝、回収ボックスに投函されていた手紙です。あなたで、3人目になります。悪いことは言いません。あまり、霧の女には関わらないほうがよろしいかと」
「誰か、何かの被害にでも逢われたのですか?」
「申し上げにくいのですが。おそらくその手紙には『私のことを嗅ぎ回るな!』と書かれているかと存じます。もちろん、私は中身を見たわけではありません。しかしながら、あなたの前にこの部屋で『霧の女』を調べていた2人の男性は、いずれも意識を取り戻していません。ただ、病院に運ばれていくとき、うわ言のように『霧の女』と叫んでいたとのことです」
「事故かなにかですか?」
「図書館の帰り道で、『霧の女』が現れて、よそ見をしているうちに2人ともトラックでひかれました。それぞれの方は、別々の日に事故に遭い、別々の日に病院に搬送されましたが」
私は恐怖を感じた。
「悪いことは言いません。あなたもゆうべ、この部屋で、霧の女に会ってしまったのでしょう。お早めにお帰りになったほうがよろしいかと。閉館間近になりますと、事故に遭遇するかもしれませんから。では、私はこれで」
そう言い残すと、館長は部屋から出ていった。
私は恐怖を覚えつつも、今晩また霧の女に遭遇できるかもしれない、という期待感も同時に膨らませていた。
…つづく
第4話はこちら(↓)
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