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神話物語 | 霧の女②


前話はこちら(↓)

「霧の女」に出会ったことがないから、なおさら私は興味を持った。

 誰一人として、複数人が同時に「霧の女」を目撃してはいない。霧の女の目撃者はみんな、一対一で霧の女と遭遇しているのだ。つまり、霧の女はいつも、一晩に一人の男に目撃されるだけなのだ。だから、本当に目撃した女が同一人物かどうかは、確認のしようがない。

 そういう意味では、霧の女は、かつて流行した「口裂け女」と似ていなくもない。まぁ、霧の女は口裂け女と異なり、人を恐怖させるのではなく、夢見心地にさせる女なのたが。

 今年の夏が過ぎた頃から、霧の女の目撃情報はパタリと途絶えた。一時期、あれだけセンセーショナルな話題だったのに、目撃情報がなくなるや否や、急に誰も話題にしなくなった。

 あたかも、今でも霧の女のことを気にしているのは、私だけなのではないか?、と思うほどになっている。


 私は霧の女が無性に気になって、現れた場所・日時を時系列的に分析しはじめた。
 すぐにわかったことは、霧の女が現れる場所は東だったり西だったり、南だったり北だったり、距離の隔たりには無関係に出没することである。
 時間的に移動することが絶対に不可能だとは言わないが、これだけ毎日毎日動ける人はいないのではないか?やはり、霧の女は霊的な存在なのだろうか?


 私はさらに調査を進めた。
 霧の女が現れる前まで、いわゆる「都市伝説」的な話にはまったく興味がなかったのだが、遠い過去にも、もしかしたら、霧の女がいたのかもしれない。そう思って調べ続けたら、「霧の女」という名前でこそ呼ばれていないが、霧の女のような女性が過去にも、周期的に現れていたことがわかってきた。

 ザックリ言うと、霧の女は30年前にも忽然と現れて忽然と消えていた。さらに遡って調べてみたら、(残されている資料は乏しいのだが)60年前にも出没して消えていることがわかった。

 あくまでも類推でしかないが、どうやら霧の女は、30年周期で現れるようだ。

 私は、霧の女の目撃情報があった街の図書館を訪れては、「郷土史コーナー」に入り浸り、資料を片っ端から読んでいった。

「すみません、そろそろ閉館になります」

 一心不乱に資料を読んでいた私は、図書館の閉館時間が近づいていたことに気がついていなかった。

「申し訳ありません。いま帰ります。また明日参ります」

 そこに立っていた図書館員の女性は、明らかに霧の女に似ていた。



…つづく


第3話はこちら(↓)



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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします