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信仰の彼方に (悪徳薬剤師・美鈴の物語)


「神を信じないくせに、自分は信じられるですって? 笑わせるな。人間なんてさ、自分の力で生きてるんじゃないよ。他人や環境、過去の積み重ね——ありとあらゆるものから与えられた恵みをさ、自分の力だと勘違いしてるだけなんだから。ああ、本当に滑稽だね」

 女は嘲るような笑みを浮かべながら、処方箋に目を走らせた。その冷ややかな表情は、患者の命を預かる薬剤師の顔にはまるで似合わなかった。薬局のカウンターに置かれた釣り雑誌が、ちらりと視界に入る。

 女の名は佐藤美鈴。休日になると決まって近くの川で釣り糸を垂らし、夕方にはパチンコ店の喧騒に身を委ねるのが日課だった。魚を釣り上げる瞬間と玉が揃う刹那に感じる高揚感。それが彼女の生きがいだった。

「売春婦の方がよっぽどマシだよ。自分の力で稼いでる分、まだ潔いじゃないか。キリストだってそう言ってるよ。マグダラのマリアを側近にしたのはさ、賢者ぶる愚かなエリートを笑いものにするためなんだって。聖書くらい読んだらどうだい?」

 美鈴は処方箋を手に取ると、薬棚へと向かった。その足取りは信仰深い者とは程遠く、むしろ俗っぽい欲望にまみれた人間そのものだった。棚の奥から薬を取り出しながら、彼女は独り言のように続けた。

「真菌と心筋梗塞? 名前が似てるだけだろ。まあ、心筋梗塞の方がマシだったかもね。どうせ死ぬなら、苦しまずにポックリ逝った方が楽でいいさ」

 薬を袋に詰め、処方箋と一緒に患者へ手渡す。その手つきは事務的で、患者の苦しみを和らげようとする気配は微塵もない。ただの作業だ。

「お大事に」

 美鈴は笑顔で患者を見送った。だがその笑みには、温かさのかけらもなかった。健康を願う薬剤師の表情ではなく、愚かな人間を嘲る狂気じみた色が滲んでいた。

 美鈴は新興宗教にどっぷり浸かっていた。その教えは既存の宗教とは一線を画し、現世での利益を追求するものだった。彼女はそこに共感し、熱心な信者として活動していた。

「人間はさ、自分の力で生きてるんじゃないよ。神から与えられた力で生かされてるんだ」

 信者仲間との集まりで、彼女はそう熱っぽく語っていた。けれどもその言葉とは裏腹に、美鈴は自分の稼ぎで贅沢を楽しみ、パチンコで勝った金で高級な釣り竿を買い揃えていた。矛盾だらけの生活。それでも彼女は気付かない。

「神を信じれば、必ず救われるよ」

 美鈴はそう信じていた。だがその信仰は、患者の命を軽んじる態度を正当化する口実でしかなかった。

 ある日、常連の患者がやってきた。五十代の男性で、心臓疾患を抱えている。処方箋を受け取りながら、美鈴はいつものように冷たく言い放つ。

「また心筋梗塞の薬か。気をつけないと、そのうち釣りしてる最中に倒れるよ。私なら魚に餌やるよりマシだけどね」

 患者は苦笑いを浮かべたが、美鈴の目には嘲笑しか映らない。彼女にとって、患者はただの「愚か者」だ。薬剤師としての良心は、とうにどこかへ消えていた。患者の命を救うことより、自分の信仰と欲望が優先だった。

 週末、美鈴は川辺に立っていた。新しいロッドを手に、静かな水面を見つめる。魚が食いつくのを待つ間、彼女の頭にふとよぎるのは、薬局での出来事だ。患者の疲れた顔。処方箋に書かれた病名。そして、自分が投げつけた冷たい言葉。

「私は神に選ばれた人間だよ。だから、他の連中とは違うんだ」

 そう呟きながら、彼女は糸を巻き上げる。だがその傲慢さは、患者への無関心と結びつき、彼女をますます孤立させていた。

 夜、パチンコ店で玉を弾く音が響く中、美鈴は一人の信者仲間と話していた。

「神様のおかげでさ、昨日は五万円勝ったよ。やっぱり信仰って大事だよね」

 仲間は笑って頷くが、美鈴の胸に小さな違和感が芽生えた。神を信じることで得られるもの——それは本当に救いなのか? 患者を見下し、自分を高みに置くことが、神の意志なのか?

 その夜、彼女は眠れなかった。ベッドの横に置かれた釣り竿と、パチンコの景品が目に入る。贅沢な暮らしも、信仰の名の下に正当化してきた傲慢さも、どこか虚しく感じられた。

 翌日、薬局で再びあの患者が現れた。男性は咳き込みながら処方箋を差し出す。美鈴はいつものように薬を用意しながら、ふと手を止めた。

「…ちゃんと飲んでね。じゃないと、釣りも楽しめなくなるよ」

 言葉に少しだけ温かみが混じる。患者は驚いたように彼女を見たが、やがて小さく微笑んだ。

「ありがとう。気をつけるよ」

 その一言に、美鈴の心が揺れた。自分が失っていたもの——薬剤師としての使命、人としての優しさ。それがほんの一瞬、確かにそこにあった。

 美鈴は自分の罪に気付き始めていたのかもしれない。信仰に溺れ、患者を蔑み、欲望に身を委ねてきた日々。だが、正しい道に戻れるかどうか、それはまだわからない。川の流れのように、彼女の心は揺れ動いていた。いつか、釣り糸を垂らすその手が、誰かを救う手になる日が来るのだろうか。答えは、未来だけが知っている。


後書き


この小説はすべてAIが書いたものです。
Geminiとgrokを使用しました。私はいっさい手を加えていません。

小説に登場する人名、およびエピソードはすべてフィクションということです。

こんな医療従事者は存在しないと信じたいところですが、妙にリアリティがありました。

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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします