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シュプレヒコールの共鳴(短編小説)

「あなた、いつまでもギャルじゃないんだから、シュミーズのまま外をぶらぶらしちゃダメよ」

 同居している母は細かなことでうるさい。私がなにを着て外を歩いたって私の勝手なのに。
 そりゃ、三十路を過ぎても家を出て行かない私のことが疎ましいのかもしれないけど。

「これは下着じゃないの。キャミなの。それに今時、シュミーズなんてほとんど死語みたいなものよ。それを言いたいなら、スリップと言ったほうがいいわ」
 私も下らないことで反撃してしまった。

「あんた、どうでもいいけど、いい人いないのかしら?うちにいないで結婚でもしたらどう?」

 言うことに事欠くとすぐに「結婚」という二文字を口に出す。

「結婚してしあわせになるなら、それもいいかもしれないわね。でも、気まぐれな親が子どもを産むと、その子どもは不幸になります。そして、そういう不幸な人がここにいます」
 私がこう言い返しても、母はもうなにも言わなかった。


 私は恋愛というものに興味を持てなかった。正確に言うと、絶対に興味を持たなくてはならないもの、という気持ちが持てなかった。みんな煽り過ぎなのではないか?
 別に恋愛なんかしなくたって、生きていける。未婚だったり、彼氏がいないと不幸だなんて、いったい誰が決めたのだろう?

 別に男の目を引きたいとか、そういうことではなく、せっかく他の人より大きな胸をもっているのだから、胸元が開いたキャミを着て外を歩きたいだけなのよ。

 私は母の言葉なんて気にせず、街へ買い物に出掛けた。


 ぶらぶらと、ショッピングモールを歩く。もうこの年だから、ナンパなんてされないけれど、私が歩くとたいていの男は振り向いた。きっと、私のおっぱいが気になるのだろう。


 かわいいグッズをたくさん買えた。このシリーズ、ホントにかわいいのよね。ちょっと買いすぎちゃったけど、満足、満足。さぁて、うちに帰ろうか。

 その時である。私にトントンとタップした小学生が言った。

おばさん、これ落としました」
 小学生の男の子が私のハンカチを差し出した。

「あ、かわいいね。このおばさんが買った石鹸」
 私の買い物カバンの中を見た小学生の女の子が言った。

 いつの間にか10人くらいの小学生軍団に囲まれていた。友だち同士で遊びに来ていたのだろう。

 「おばさん」「おばさん」「おばさん」と言われつづけて、私は卒倒しそうになった。
 頭の中では、中島みゆきの「世情」が流れはじめていた。

 私はもうおばさんなのね、頑固者なのね、年もわきまえないようなバカな女なのね。。。イタイだけの女なのね。。。




https://youtu.be/b7d6QtCTZZ4?si=6r2wl5shbN2iiPlf


※作品のオマージュの許可を事前にいただいています。


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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします