連載小説(30)漂着ちゃん
「エヴァさん、これはいったい?」
唐突な出来事に私は戸惑った。
「前からチャンスをうかがっていたんです。このAIを止めてやるって」
「所長はいま、どうなって?」
「寝てるみたいな状態ね。誰かが再びスイッチを入れない限り起きることはありません」
「しかしなぜ?エヴァさんはナオミとヨブには、この時代から出ていってほしかったのではないですか?」
「えぇ、そういう気持ちもあります。さっき所長に言った言葉も本心ですから。ただ、マリアのお兄ちゃんであるヨブとマリアを離れ離れにしてしまうのは、かわいそうだと思うんです」
「子供たちのために、エヴァさんの気持ちを抑えた、ということでしょうか?」
「『抑えた』というのが正確かどうかわかりません。何が自分にとって大切なのかということ。いちばん大切なのは、なんと言ってもマリア。ごめんなさいね。あなたも大切だけどやっぱり一番大切なのはマリア」
「ナオミのことは?」
「ナオミさんね、、、。理性的には嫌いじゃない。でも、悔しさというか、嫉妬する気持ちがある。お互いに子供がいなかった時には、親友のような気持ちだった。だけど、実際に私より先にあなたの子供を産んだとき、やっぱり私自身とあなたの血が流れてる子供じゃないとイヤだ!って。もともとナオミさんとあなたが結ばれることは、私が望んだことだったんだけどね」
「所長のことは?」
「面従腹背ってヤツね。この町に住む人で、所長を慕っていた人なんて誰もいなかった。けれども、漂着ちゃんの中から、誰かリーダーを出すことを誰も望んでいなかった。同類で争うよりはむしろ、なんでも機械的に処理してくれるAIにすがることをみんな望んだだけ」
エヴァの話を聞いているうちに、女のしたたかさを感じた。自らの感情に動かされながらも、きちんと理性的な判断をくだしている。
「しかし、これからどうするつもりどすか?指導者不在ということになりますが」
「これからの指導者は….」
「これからの指導者は?」
「あなたがおやりになるのが宜しいかと」
「私ですか?エヴァさんではなく」
「私は一番最初にこの時代に漂着しただけですから」
…つづく