ドリーム・キャッチャー
格付けは、済んだ。
第三世代夢鯨が魚群に食い尽くされていく。
「今……しかなイ…瞬間ヺ……」
若年層向けローン広告のフレーズを言い終えぬまま、夢鯨は消滅した。
「うーむあの第三世代を完全排除とは……」
「デカいのが取り柄ならバラバラにして砕く、簡単なアプローチですよ」
「いやぁよくやってくれた。このピラニアの発表で株価は急上昇だな」
社長が笑顔で俺の肩を抱く。アドブロックの開発ベンチャーは数多あるが、第三世代夢広告の完全排除はうちが世界初だ。
「大学仲間の噂じゃ第四世代のリリースも秒読みらしいですがね」
「羽賀〜今は良いだろ〜成功を祝おうじゃないか」
徹夜明けの頭はテストの成功で興奮していたが、体には限界が来ている。襲いくる疲労と睡魔は否応なく現実を突きつけてくる。
「マジな話、これで株価上げたら会社売ったほうが良いです。今回のプロジェクトで思い知りました。先無いですよ、この業界。広告側は幾らでも攻め手があります」
「まぁ俺はそれでも良いさ」
社長は真面目な顔になって俺に向き合う。
「行き場がなくなるのは技術者、お前だろ」
「別に。大手からのスカウトは止まないんで」
「それが嫌で天才羽賀はここにいるんだろ」
当然だ。夢を広告で埋め尽くす?人間の精神への冒涜だ。夢は限りなく自由で神秘に満ちている。科学者が取り組むべきはその探求だ、そう信じて研究の道に入った。
「なんにせよお疲れ様。帰って寝ろよ、酷い顔してるぜ」
*
帰宅してシャワーも浴びずベッドに飛び込み、端末に入ったメッセージを眺める。同じ志を持っていた仲間。今は企業の配下。いずれは俺も……諦めに呑まれたまま瞼が落ちていく。
気付けば夢の中。ローカルの夢空間。
そこに意図しない影が佇んでいた。
外部からハック?警戒よりも好奇心が勝ち、興味を向けてしまった。影の解像度が上がる。
「俺はドリームキャッチャー」
男が口を開く。
「夢の果てを見たいんだろ?」
(つづく)