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死亡遊戯放浪記

 円卓の上にズラりと皿が並ぶ。見たこともない料理……というか俺はそもそも餐厅に入るのも初めてだ。

「俺なんか助けて、何のつもりだ?金なんか無いぞ」

「金、金、金。みんなそればっかりだ」

 女は笑って杯を呷る。
 
「それ以外、俺らの生活に何がある?」

 皿を抱えて飯を頬張りながら女を睨む。

「まぁ考えても見なよ、今君が1万ドル拾ったとする。それでどうなる」

「1万もあれば当面は楽しく暮らせるさ」

「違うね、金を持ち帰ったところでお仲間に囲まれて取り上げられて終わりさ。帰らずに故郷を出たとて、店で金を見せたらそれだけで店員はあんたを疑うし、警察を呼ばれてタコ殴りさ」

「……」

「分かるだろ?金なんざ君を助けてくれるもんじゃない」

 彼女が言うことは俺でも想像がついた。そうだ、俺は地獄で生まれてこのまま地獄で死ぬんだ。無言で彼女の次の言葉を待つ。

「でもね、私があげるのは金じゃない。だから君を助けられる」

「何だ、何をくれるっていうんだ」

 女は満面の笑みで言った。

「愛さ」

 *

『この試練を突破したとき……君たちは知るだろう。人生で必要なもの、それが何か……健闘を祈る』

 定型文を読み上げて音響を切る。

「オイ、参加者9番は3番の同伴か?」

「えっ……今回は無作為に攫ってきた筈ですが……」

「やられたな、他所の運営の潜入だろう。目で合図を送ってた」

「そんな!どうやって……」

「まぁ放置で良い。うちは金で参加者を煽る他の運営とは違う。途中で判断を間違えて脱落するさ。さて俺は出るぞ」

 外套を羽織り、管理室を後にする。

「外出……潜入ですか!?」

「あぁ、今回は大きいぞ。コステロ・ファミリー直参だ」

 俺の職務は2つ。1つ目は遊戯の運営。もう1つは他所の運営への潜入。

「母さんによろしく。Omnia vincit Amor」

「Omnia vincit Amor」

 金への執着を煽る死亡遊戯を愛で以て制覇し敵対運営の縄張を奪取する。あの日母が示した俺の生きる道だ。

(つづく)

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バッティ
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