
【もやもや、グチャグチャを形に】岩本かおり インタビュー
岩本かおり 個展「眠気と吐き気と少し頭痛、(それと君の優しさ)」開催中です!
9月4日にはXのスペース配信にて、インタビューを行いました。
本記事では、岩本さんご自身についてお伺いした内容をまとめ、お届けいたします!
「アクリルでのドローイングは、そのときの感情をそのままぶつけることができるのが良いですね」
ーー「岩本さん、初めまして!」という方もいらっしゃると思います。簡単な自己紹介をお願いできますか?
岩本かおり(以下、岩本):岩本かおりです。千葉在住で、普段は幼児向け造形教室の講師をしながら、作家活動をしております。
多摩美術大学 版画専攻に在籍後、東京藝術大学大学院で版画を勉強していました。
自分にとって(もしくは他者にとって)身近な出来事を題材に絵を描いています。
最近はアクリル絵具や鉛筆でのペインティングが中心で、版画は制作できていないのですが、そろそろ再開したいなあと思っています。
ーー岩本さんは、ピカレスクが2020年に開催した企画展 和菓子擬人化106人展、フキダシ展にご出展いただき、今回の個展開催につながっています!
岩本:懐かしいですね。ちょうど、コロナの時期でしたよね。
ーー今日はまず、岩本さんの今日までのあゆみを伺おうと思います!
岩本さんは、どういう経緯で美術の道に進んだのでしょうか?
岩本:私が美術に足を踏み入れたのは、今から10年前、まだ奈良に住んでいた頃です。中学生の頃、美術が楽しいなあと思って、県内唯一の美術コースのある高校に進学。3年間美術漬けの生活を送りました。
その後、「大学では初めてのことに挑戦したい!」「本格的な版画を学べたら楽しそう!」「多摩美の版画、いいなあ」ということで、多摩美術大学に進学しました。そのまま藝大の大学院へ進み、展示などもさせてもらえるように…。
絵を描くことと、私が生きることは密着していることなので、それをずっと続けていたら、今に至った!という感じです。
ーー「中学生のころ、美術が楽しいなあと思って」とおっしゃっていましたが、子どもの頃から絵を描いたり、何かを作ることは好きだったのでしょうか?
岩本:幼稚園くらいのときは、絵を描くことはとっても嫌いでした!よく覚えているのは、「敬老の日におじいちゃん、おばあちゃんの絵を描こう!」という時に、全然描けなかったこと。描けなくて泣いてしまって、先生を困らせてしまったんですよね。
ただ、小学生になると、絵を描くことが好きになりました!その頃仲良くしていた近所のお姉さんが、とても絵の上手な子でした。憧れて、真似して描くうちに楽しくなりました。小学生くらいの時って、クラスに一人、絵が上手で「すご〜〜い!」って言われる子がいると思うんですけど、私もそうでした!(笑)…と言えるくらい絵を描くことが好きでしたし、周りの子にも
「上手!」と言ってもらえていましたね。
ーー「嫌い!」だったのが「好き!」に変わって、そのまま美術の道へ進んでいったわけですね!
大学と大学院では版画を学ばれていましたが、今回の個展はアクリル画の作品がずらりと並んでいます。在学中から、アクリル画は描いていたのでしょうか?
岩本:そうですね!大学に入って、版画のいろいろな技法を学んで、版画の魅力にとりつかれていきました。ただ、版画って制作をするのに時間がかかるんですよね。私は木版画を専攻していたのですが、版木に転写して、掘って、印刷をして…と工程が多い。短期間にすぐできるものではなく、じっくり制作していくんですよね。直接描く方が早いので、ドローイング感覚で描いていました。
さらに、コロナの時期、工房を使うことができなかったんですよね。家で版画をやろうと試みたりもしたのですが、結局ドローイングを制作していました。
版画は工程が多い分、「この作品を作ろうとおもったきっかけって何だっけ?」などと考えながら、探って探って制作できるのがいいところ。
アクリルでのドローイングは、そのときの感情をそのままぶつけることができるのが良いですね。画面上で、まだ乾いていない絵具と混ぜ合わせながら絵を作っていくのもいいですね。
最近は木製パネルにジェッソを塗って、鉛筆で描いたりしています。「絵具使うの飽きたなあ。色考えるの面倒だなあ」と思った時に、木製パネルに描き始めたのがきっかけです。筆やローラーでジェッソを塗った時の凸凹した肌に、鉛筆で描いていく作業が面白くて、最近は鉛筆で描いたりもしています。
ーーちなみに、学生時代学ばれていた版画の魅力もお伺いできないでしょうか?
岩本:刷りをした後、紙をめくる瞬間がたまらないです。版画は、イメージ図を作ったり、版木を作ったりしている段階では、実際のところどんな絵になるのかわからないんですよね。自分のイメージに近づけるために、版木に色をのせたり、刷り方を考えながら刷るなどして試行錯誤。そして、紙をめくる…。この時、どんな状態になっているのかを見るのがとても好き。思い通りにいくことはほとんどなくて、「なんだこれは!」となることが多いです(笑)
ーーそうなんですね!「なんだこれは!」となった時はどうするんですか?
岩本:色を調整することが多いですね。「絵の具で刷って、この色でこんなふうにぼかしたら、いい色味になるかなあ」と、考えながら刷り直してみます。版木が足りないと感じる時は足して…という感じで対応していますね。
もやもやした体験をかたちにする

ーー事前のアンケートで、「生きていてしんどいなって思う時やめんどくさいと思う時の、もやもやしたりグチャグチャな心の内をキャンバスや紙の上で形にしています」といただいていたのですが、それらを表現しているのはなぜなのでしょうか。
岩本:私は言葉で説明するのがちょっと下手で。「嫌なことがあったなあ」「なんか悩むなあ」「理不尽なことで怒られた!なんで!」というときに、的確に言語化できなくて、もやもや、いらいらが残ってしまうんです。そういう、もやもやした体験をかたちにすることで、誰かと通じ合って、気持ちを共有できたらいいな、という思いがあるから、描いていますね。
ーーもやもやした、イライラとか、怒りとか、マイナスな感情って、生きていたら誰しも抱く感情ですよね。ただ、その感情を抱いている自分が嫌になっちゃうこともあると思うんです。「その感情を抱いている自分を認識したくない」みたいな。
岩本さんの場合、マイナスな感情を作品にすることで、自分の感じていたことがありありと見えることもあると思うんですが、絵になったら、客観的に見えるのでしょうか?
岩本:私は、絵にしてしまったら客観的に見れるようになりますね。マイナスな感情から描いた絵ではあるけど、描きあげてしまえば、「お、いい絵じゃん!ありがとう、嫌な思い出!」という気持ちになれます。
ただ、正直「この絵は見たくないなあ」というものもあります。今見ると、嫌なことを思い出してしまう絵ですね。その日の気分によっても、見ることができたり、できなかったりすることがあります。
今回の個展に出している絵も、「嫌だなあ」という思いから描いていますが、今の私の気持ちとしては「描きあげてくれてありがとう!よくやった自分!」という感じですね。
ーーマイナスな感情にいたはずなのに、最後には「よくやった!」と自分に言える岩本さんがすごい!(笑)
岩本:自分の嫌な気持ちを思い出しますから、「いやだな〜」と思うのですが、描いている自分にウキウキしてもいるんです。「描け、描け!」と体も動きますし(笑)。暗い絵にしたくない、とも思っています!
「今まで1番良い展示!」

ーーー今までの人生を振り返ったとき、絶頂と絶望ってどのあたりですか?
岩本:今が1番いいな〜と思って過ごしてますね。「う〜〜ん」という時ももちろんあるんですけど。
私、今回の個展の展示空間を自分で見て、「今まで1番良い展示じゃん!」と思ったんです。今までにも、色々なところで展示をさせていただいたし、それらも全部「よかった!」と思ったけれど、今回ピカレスクで個展をして、「良い波に乗れているなあ」と感じました!
絶望期間は、昨年4月頃、大学院を卒業して、造形教室での仕事を始めた頃ですかね。仕事を覚えなくてはいけない。そのための勉強もする必要がある…。とにかく時間がなく、絵を描くことができませんでした。こんな状態で、私は作家なのだろうか、とも思っていました。部屋も片付けられない。洗濯もできない。ご飯も作らない。生活も回っていなくて、絶望でしたね。
ーーそんな状態から、どうやって絵を描ける状態まで復活したのでしょう?
岩本:奈良から母が来て、部屋を掃除をしてくれて。そこでシフトチェンジできました。1回お休みをして、実家にも帰ってリフレッシュをして、再び絵を描き始めることができるように。1人で悩んでいたけれど、周りの人に助けてもらって、個展も開催することができた。「ああ、やっと、絵を描き始められた」という思いがありますね。
「私ってこういうところがあるんです」と曝け出していきたい

ーー影響を受けたアーティストはいますか?
岩本:木版画の作家さんだと、岡田育美さん。多摩美時代にお世話になった方です。作品も好きだし、人間性も好きです。忠実で、とても誠実な人柄が、木版画にも現れているんですよね。版の重ね方など、様々なことを教えてもらいましたが、「それはもう、木版画に忠実でないとやろうと思わないでしょう!」と思うくらいでした。手数が多いし、ひとつの作品作る間も色の調整などを熱心に研究されています。自分の作品を制作するときの考え方、最後まで作品に対してアプローチをする姿勢など、すべてをひっくるめて、とても尊敬している作家さんです。
また、瀬川裕美子さんも好きで、真似をして描いてみることもありました。ただ、そういう時って、大体うまくいかないんですよね。描いている間は「それっぽいじゃん!やった!」と思っていても、出来上がってみたら「私の絵じゃないよね」と、どっちつかずの面白くない絵になる。
やはり、自分の頭の中で想像をしながら描き進めていく方が、面白いなあと思います。
ちなみに、今展示している作品の他に、出展しようと思っていた作品が何点かありましたが、結局出しませんでした。「何か違うなあ」と思ったんですよね。うまく言葉にはできないのですが。
ーーきっと、岩本さんの中で「違う!」と直感的に思うポイントがあるんでしょうね。ちなみに、アンケートでは好きなバンドマンとして、銀杏BOYZやHelsinki Lambda Clubのお名前も挙げていましたね!
岩本:銀杏BOYZは、存在自体が好きですね。そして峯田さんが、自分の体すべてを使って歌っているのがとてもかっこいい!
いろんな曲が好きですが『Baby Baby』という曲の歌詞は特に好きです。“街はイルミネーション、君はイリュージョン 天使のような微笑み”。聴くたびに心がきゅ〜っとなりますね。
サビの前の“永遠に生きられるだろうか 永遠に君のために”という歌詞があるんですが、「愛じゃん!」と思います!
ただ…。
『骨』という曲では“愛しちゃいたい Ooh baby きもいね しゃあないね 骨までしゃぶらせて” 。『リビドー』という曲では“納豆ごはん食ってからチューしよう”。
「うわあ、気持ち悪い!」とも思う。
今本当に言いたいことを言ってしまうと、表現って気持ち悪くなるんですかね。私も「やりたいたいことをやろう!」と思って、みんなの前で発表した時、「きもっ」と思われるのかなあ。「でも、峯田がやってるからいいか!」と開き直ってます!
ーー岩本さんも、峯田さんのようにストレートに、すべてをぶつけていきたいんですかね。
岩本:全部曝け出すのは恥ずかしいけれど、「私ってこういうところがあるんです」と見せながら、作家活動をしたいですね。
感じていることを言語化して、出していくことで、作品にも影響するかなと思うし、私が絵を描く理由にもなると思っています。
「ずっと絵を描いていきたい」

ーー今後の展望はありますか?
岩本:ずっと絵を描いていきたいです。そして、大学院を終了してから木版画を制作できていないので、木版画を作りたいですね。大きな作品も制作したいです。造詣講師の仕事もがんばろうと思っています!
ーー最後に、ご来場のいただいた方はへメッセージをお願いします!
岩本:誰にだって「今日はもう無理だ。しんどいな」と考えてしまう日があると思います。私の絵を見て、共感していただけたら幸いですし、お互いの気持ちが共有できたら、もっと最高!
今回、すごく良い空間になっているとも思うので、ぜひ見に来ていただけたら嬉しいです。
岩本さん、ありがとうございました!
悩んだり、迷ったり、むかついたり…。生きていたら、そういうマイナスな感情が生まれてくることもある。そんな自分を否定したくなるような瞬間がありませんか?
岩本さんもその一人。
ただ、岩本さんは、もやもやを十分に感じ切って、作品にしてしまう。
目を背けたくなるような自分の弱いところを、作品にしてしまう強さ!すごいなあと思ってしまいます。
そんな強さでもって描かれた作品は、決して、無理やり私たちをポジティブにしようとしない。「そうだよね。そういうこともあるよね」と、ただ寄り添ってそこにいてくれるように感じます。
岩本さんの個展は9月10日(日)まで。
岩本さんのパワーの塊を、皆さんにも見ていただきたいです!
⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰
【基本営業日時】
*営業 水 - 日・祝 11:00 - 18:00
*定休 毎週月火
*会場 Picaresque Gallery
*住所 東京都渋谷区代々木4-54-7
*電話 070-5273-9561
■各展示の詳細
HP「お知らせ」よりご覧ください!
https://picaresquejpn.com/category/information/
■開催予定の展示は
HP「【随時更新】展示スケジュール」よりご覧ください!https://picaresquejpn.com/exhibition-calendar/
⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰
岩本かおり 個展「眠気と吐き気と少し頭痛、(それと君の優しさ)」

〈会期〉
2023年8月30日(水) – 9月10日(日)
〈詳細〉
https://picaresquejpn.com/kaoriiwamoto_exhibition_2023/
〈岩本かおり 公式SNS〉
Instagram https://www.instagram.com/morningmiyoko
X (旧 Twitter) https://twitter.com/morningmiyoko