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【絵の外につづく物語】ゴトーヒナコ インタビュー

ゴトーヒナコ 個展「空は透明」を、2024年3月20日(水) – 3月31日(日)の期間にピカレスクギャラリーで開催いたします。

今回は、ゴトーヒナコさんにご自身のことや制作エピソード、今回展示される作品についてインタビューしました。ぜひお楽しみください。


ー 自己紹介をお願いします。

ゴトーヒナコです。イラストレーターとして、作家活動やクライアントワークをしています。

アクリル絵の具やコピックマーカーを使って、「物語を感じる」ようなイラストを描いています。
去年から、漫画にもチャレンジしています。

ーどうしてイラストレーターになったのですか?

しばらく会社員としてwebデザインの仕事をした後、イラストレーション青山塾に通い、本格的にイラストレーターとして活動するようになりました。

昔から絵を描くのが大好きでした。美大には行けなかったものの、いつか絵を描きたいとは思っていて、ずっと趣味として続けていました。
そこからだんだん、展覧会とかに誘っていただけることが増えていき、今に至ります。描けば描くほど、イラストをずっとやっていきたいという欲が出てきました。

仕事が忙しくなって、「このまま今の仕事を続けていたら、もうイラストはできないかも」と思ったんです。それで「イラストをがっつりやろう」と思い切りました。

ー昔から絵を描くのが好きだったとのことですが、幼少期や学生時代の思い出があれば教えてください。

祖母は、絵が上手な人でした。一緒に絵を描いたり、教えてもらったりしたので、「絵を描く」ことが身近だったのかもしれないです。

母も、綺麗なものは「綺麗だね」と言ってくれたり、いろんな展覧会にも連れていってもらえたような気がします。

学生時代は、運動部に所属していました。体育大出身の母から「運動はしたほうがいい」と言われたんです。中学はバスケ、高校は陸上部で短距離をやっていました。もともとはそんなに運動したくなかったのですが、やってみたら楽しかったです。

一方で、好きなものが文化系だったので、同じような趣味の子たちと仲良くしていました。アニメーション部の友達が「絵描いてみる?」と声をかけてくれて、文化祭でアニメーション部のゲストに呼ばれたこともあります。

ちなみに、そこでコピックマーカーを貸してもらったことが、現在のコピックマーカーを使ったイラスト制作につながっています。

バスケも、陸上も、絵も、ちょっと繋がっている気がします。努力するだけ、報われるんです。やった分だけ、少しずつレベルアップを実感できます。どんどん新しい自分になっていくような感覚が、昔から好きでした。

ー作品の世界観が生まれたきっかけを教えてください。

生活の中で自由に描いていた心象風景が、だんだんと辻褄が合っていって、世界として固まっていったのかなと思っています。

普段絵を描くとき、資料は見ないんです。落書きがどんどん絵になっていきます。どんな絵になるか考えてはいるけど、完成するまでは自分でもよくわかりません。

自分なりの理想郷や、他者との関係性をモチーフに例えて、言葉のように描くことは多いかなと思います。

「このライト綺麗だな」とか、自分の中で思い浮かんだ場所やものを描いて、そこにキャラクターを配置すると、物語が生まれます。
「こういう話してるんじゃないかな」って思えてきたり、前後のシーンが見えてくることもあります。それが不思議だし、楽しいです。

物語といっても、そのワンシーンで完結するのではなくて、長いストーリーの一部分のつもりです。「物語のかけら」だと思っています。

ー使用している素材や、作品ができるまでのプロセスを教えてください。

先ほどもお話ししたように、高校生の時に初めてきちんとコピックマーカーを使いました。すごく色が綺麗で楽しくて、それから長い間、コピックマーカーを使っていました。

作家活動として原画を販売するようになってからもコピック原画を販売していたのですが、耐光性・保存性を考えてアクリル絵の具を使うようになりました。今では、それぞれの良さを活かして、両方使っています。

絵のラフは10〜15分くらいで出来ることもありますが、トータルで少しずつ考えていると、2日くらいかかることもあります。大雑把な構図が決まってから、その中に何のモチーフを入れていくかを考えます。

今回の出展作品は、日頃の「落書き」から引用したものも多いです。落書きを描き溜めるのは、日記を書くことに似ているかもしれません。でも、私は感情を残したくないんです。作品にする過程で、その時の感情がちゃんと整理されて、良いものになって外に出ていくので、自分の中に悪いものは残りません。

もちろん、悪い感情だけではありません。嬉しかったこととか、いい感情もあります。でも、嬉しい気持ちだって、あんまり強すぎると疲れるじゃないですか。だから、作品を仕上げていく過程でフラットにしていくんです。

ーモチーフはどうやって決まるのでしょうか?

現実の出来事を、モチーフとして捉えます。

例えば「矢」だったら、「矢印」になって、「どこかに注目させたい」という意味を持たせることができます。
ほかのもので同じ意味にするなら、「槍(やり)」を使うこともできるかもしれません。

暗喩表現のように何かに置き換えて、物語にしながら解決する。客観的に見つめることで、自分とは違う場所で起こっていることを確認する。そして、それが絵に昇華される。そんなプロセスかと思います。
絵を通して言いたいことを、最後にモチーフでまとめる感じかもしれないです。

ー影響を受けたアーティストや、作品はありますか?

中学生のとき、ダリの展覧会に家族で行って、とんでもない衝撃を受けたんです。そこからシュルレアリスムにハマりました。

それまで絵というと、風景画のように現実を描いたものをイメージしていました。一方でシュルレアリスムは、全く見たことのない世界。それなのに、見ると懐かしい気持ちになる。そういうところに惹かれて、のめり込みました。
現実ではないけれど、現実よりも現実のことを言っている、まさに「超現実主義」だなって。

今、『シュルレアリスムとは何か』という本を読んでいます。「私がシュルレアリズムが好きな理由」が全部書かれていて、グッときています。

ダリの作品だと、ミレーの「晩鐘」をオマージュした作品に感動したことを覚えています。学校の廊下にミレーの「落穂拾い」のプリントが飾ってありました。そこからミレーの作品をいくつか知るようになり、その後ダリの展覧会にて、ミレーの「晩鐘」をモチーフにした作品と出会いました。

もともと私は、ミレーの「晩鐘」が怖かったんです。ダリによるオマージュ作品を見た時、自分が感じていた不安さに対しての答えを見た気分でした。

ミレーの「晩鐘」も暗くて怖いのですが、ダリのオマージュ作品もめちゃくちゃ怖いんです。だからこそ、「自分と同じように怖いって感じてくれているんだ」と、嬉しかったのかもしれません。

その後、エドガー・エンデやジョルジョ・デ・キリコなどに興味を持つようになりました。最近は、ポール・デルヴォーも好きです。1つ好きなものがあって、それについて調べると、だいたい全部シュルレアリスムに繋がってきます。

ちなみに今年の4月から、上野で「キリコ展」が開催されます。今からとても楽しみです。

『シュルレアリスムとは何か』を読んで、すごくびっくりしたことがあります。シュルレアリスムって、モチーフ主義なんですよね。モチーフに一番重きが置かれて、そこから何かが生まれるという点は、私も好きな手法です。実際、私もモチーフを用いるし、好きだから繋がっているのかなと考えています。

ー「物語」という言葉が何度か出てきましたが、読書はお好きですか?

ミヒャエル・エンデ

読書は昔から好きです。小さい頃にミヒャエル・エンデの作品群に出会ったことがきっかけかもしれません。

小学校4年生のお遊戯会で、『モモと時間泥棒』(『モモ』を劇化したもの)をやりました。原作を買ってもらい、ワクワクしたり、ちょっと恐ろしくなったりして、あっという間に読み終わりました。

エンデによる白黒の挿絵も大好きでした。絵に描かれていない部分を想像して、こっち側に行ったらこうなってるかもしれない…と考えたりして、空想の街を描いていました。

エンデの『はてしない物語』も大好きなのですが、同じように本の中に入ってしまう、いわゆる行きて帰りし物語だと、森見登美彦の『熱帯』がとても面白かったです。ジョン・コナリーの『失われたものたちの本』も好きです。

シャーリイ・ジャクスン

『ずっとお城で暮らしてる』が特に好きです。なぜ好きかというと、メリキャットに感情移入して、ちょっとスカッとするからじゃないでしょうか。メリキャットが行う、小さなおまじないも日々の空想も、なんとなくそれをする理由がわかって、愛おしくなります。

恩田陸

恩田陸先生も、昔からとてつもなく好きです。ちょっと詩的だったり、幻想的だったり、懐かしい感じがするんですよね。
『三月は深き紅の淵を』という短編集があって、 これがとても好きでした。

恩田陸先生も、シャーリイ・ジャクスンを愛読されていると何かで読みました。理瀬シリーズや『私の家では何も起こらない』など、シャーリイ・ジャクスンのオマージュを感じて幸せになります。

ーこれまで描いていた物語や世界について教えてください。

2019年〜2020年ごろは、「分断」をテーマに描いていました。ちょうどコロナが流行った時期で、みんなが不安になりながら、意見が真っ二つに割れているように見えました。いろんなことでみんな喧嘩してるから、嫌だなと思っていました。

これを「ひとつの現象じゃないか?」くらいまで落とし込められないかと考えて、こちら側とあちら側という意味で、「川」というモチーフを描きました。「分断」という意見の対立構造を、とりあえず綺麗な風景に置き換えてみたのです。
前回の個展では「海」も描きました。これは「分断が終わってほしい」という気持ちで描いていたのですが、2024年の現在、あまりにたくさんの「川」が増えてしまった気がします。海というモチーフを改めて考えているところですが、まだ全然まとまらないです。

ー今回の個展「空は透明」のコンセプトを教えてください。

ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』では、物語が分岐するタイミングで「けれどもこれは別の物語。いつかまた、別の時に話すことにしよう」というフレーズが挟まれます。これによって、『はてしない物語』は「果てしなくなっている」と考えています。

私の勝手な解釈ですが、これはエンデの物語に対する優しさなのではないかなとずっと感じていました。
物語の端っこ、世界の端はきっと別の物語で終わらない、終わらないでほしい。

絵の端(フレーム)は、物語の終わりと同じだと考えています。今回は実験的に、物語の終わり(フレーム)を取り除いてみました。

物語の端の外側は空(カラ)です。空の部分は透明で、まだ誰も見ていないし、知らないけれど、大気のように確かに存在します。

「そのもの」が透明だとしても、「そのもの」は存在するのです。澄んだ水のように、ピカピカに磨かれた窓のように、ガラスのオブジェのように。そうであったらいいなと願っています。

ー今回の出展作品のコンセプトを教えてください。

「空は透明」


展示タイトルとして描いた作品です。会場にて、展示に向けて書いた短いテキストを配布しようと思っています。

現実で起こっていることを何かに例えて、それを絵にするということを続けてきました。世界では分断と混乱があって、なんとなく今は混沌としているのではないかと思っています。

その中でも誰かに心を開いていたいし、安らぎたい。海の底は怖いけれど、泳ぎ続けたい。そんな気持ちで描きました。

「何も見えなくても」


「世界の終わりを宣言されたらどうしよう」と、いつも考えます。何も見えなくなって、何も感じられなくなったら、本当に大切なものがはっきりするのだろうか。
そうなったとしても、大切なものを見失わずにいられるのだろうか。みんなは何を選ぶのだろう。

現実は暴力に溢れているけれど、本当はそれぞれに大切なものがあるはずだと信じています。

「ルビーの器」


私の中でルビーの器は、「遠い場所」や「たどり着いた夢」などの意味合いを持たせることが多いです。

小学5年生の頃に他界した祖母は本当に尊敬すべき人でした。私にたくさんの物語を教えてくれた人です。

祖母は、虹を指さして「根っこにはルビーのお皿が埋まってるんだよ」と教えてくれました。私が4歳の頃、弟が産まれた日でした。いつか虹の根元を掘り返して、ルビーのお皿を手に入れたいと思いを巡らせました。

宮沢賢治の童話『十石の金剛石』に、登場人物が「ルビーの絵の具皿を探しにいく」という描写があります。それで、私に教えてくれたのかもしれません。

ー絵を描いていてよかったと思うのは、どんなときですか?

かつて大きな挫折をして誰にも相談できなかったとき、一日一枚ずっと絵を描いていて、SNSにアップして、感想をもらい、いろんな人と繋がることができました。誰にも悩みを相談できなかったのに、絵でコミュニケーションが取れて幸せでした。

あとは純粋に、色の混ざり合いが気持ちいいです。色が重なっていくとき、すごく気分が良くなるんですよね。
綺麗だなって感じているとき、脳内で何かが起きているのか、じわっと温まってくる感覚があります。

ーこれからどんな作品を作りたいですか?

まだ見たことのない景色や、行きたいけれど行けない場所、理想郷や安心できる場所、帰りたい家、忘れてしまった過去の場所…たくさん描きたいものがあります。

「理想郷ってどんなところ?」と聞かれても正直分からないのですが、分からないからこそ、今もいろんなパターンを描いています。でもやっぱり、争いが無いところだといいな。

描きたい景色を描けるように、技術的にも表現的にも、もっといろいろなことができるようになりたいです。漫画でもアニメーションでも、「世界」を表現できる手段があるなら、なんでもチャレンジしてみたいと思っています。

ーお客様、ご来場予定の皆様に向けてメッセージをお願いいたします。

「空は透明」というコンセプトに合わせて、今回の出展作品はフレームを使っていません。

私としては自由な大きさで描くことができて、とても楽しかったです。絵の中のモチーフから、なんとなく物語の繋がりを感じるなんてこともあるかもしれません。自由に観ていただけたらいいなと思います。

小さな作品群は、ラフに気の向くままに、物語が自然と生まれていく楽しさを感じながら、日々描いているものです。皆さんもぜひ楽しんで、観ていただけたら嬉しいです。

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ゴトーヒナコさん、たくさんの貴重なお話をありがとうございました。
皆さまはどのエピソードが心に残りましたか?
ピカレスクスタッフは、「フレームを使わないことで、物語の終わりを取りのぞいてみた」というお話を伺い、個展会場でどんな物語や世界が広がっているのか、ますます楽しみになりました。
ゴトーヒナコさんの展示作品実物を一堂に鑑賞できる貴重な機会です。皆さまのお越しを、お待ちしております。

ゴトーヒナコ 個展「空は透明」


〈会期〉2024年3月20日(水) – 3月31日(日)

〈詳細〉https://picaresquejpn.com/hinakogoto_exhibition_2024/

〈ゴトーヒナコ 公式SNS〉
X(旧Twitter) https://twitter.com/hin0331
Instagram https://www.instagram.com/hinakogoto
HP https://goto-hinako.com/
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【基本営業日時】
*営業 水 - 日・祝 11:00 - 18:00
*定休 毎週月火
*会場 Picaresque Gallery
*住所 東京都渋谷区代々木4-54-7
*電話 070-5273-9561

■開催中&過去に開催した展示一覧
https://picaresquejpn.com/category/information/
■開催&開催予定の展示一覧
https://picaresquejpn.com/exhibition-calendar/
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