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肉圓

この世に美味い食べ物は星の数ほど存在する。

一方で食材の新鮮さや調理に問題があって、なんか微妙だな…という料理に出くわすことも時にはある。が、稀だ。美味しいものの方が多いと思う。

特に苦手な物はないし変な郷土料理とかでも全然食べる私にとって、不味い食べ物というのは出会うことの少ないレアキャラだ。

だが、そんな自分に鮮烈な不味さを残した強者がいる。

そいつの名前は肉圓。バーワンと読む。

「千と千尋の神隠し」序盤で、千尋母&父が屋台で勝手に食べて豚になってしまうシーン(幼稚園児の自分にとってかなりのトラウマだった)がある。

思い出して欲しい。あそこで何やら美味しそうな謎のプルプルを食べているでしょう。


それだ。

それこそ肉圓。


「千と千尋の神隠し」のモデルとなった(とされている)台湾の九份で、この肉圓を実際に食べることができる金枝紅糟肉圓というお店がある。

ここに実際に行った。九份に来たなら食べない訳にはいかないでしょ!ということで、意気揚々とお店に入る。ここまでは良かった。

一旦、肉圓という料理について説明する。

中身は豚肉、それをイモなどのでんぷんから作った皮で包んで蒸す、もしくは揚げて作るそうだ。

それに加え、この九份のお店の肉圓は紅麹で発酵させた豚肉を使っていて、見た目にもほんのり赤いのが特徴だ。

つまり、ぷにぷにした赤いもの。見た目は美味しそう。


店の券売機で券を買って渡すとその場ですぐ出してくれる。

席に座り、食前のあいさつ、

一口目にプルプルの皮部分を頂く。

これは…何?

皮自体に味は無くて、タレがかかっている。それは良いのだが。

要は固めのゼリー状のものを油で揚げてあるわけで、勿論そうじゃない事は分かっているが、体感としては、


油をゼラチンで固めたものを食べている。


そう思った。油が染みているからか。
捨てる前に凝固剤で固めた揚げ油を思い出してしまう。非常に良くない想像だ。やめろ。

気を取り直して、中身はどうか。

小さな角切りの豚肉とメンマが入っていた。赤い。

口に入れる。

…うん。分からない。

豚そのものの味はあまり無くて、なんだろう、違和感としか表せない味だ。強烈。とても複雑な味だという所までは理解できるんだが、その複雑さが美味しいという地点までどうしても辿り着かない。こんなに悲しい事があるのか世界には。

台湾で色んな料理を食べたけれど、この味は他の何とも別ジャンルのようで困惑する。キユーフンオリジナル。紅麹の味なのかなんなのか、他にも香辛料が入っていそう。

あとメンマ。こいつはちゃんとメンマをしている。でもそれが裏目に出て、豚肉の違和感をしっかりと引き立ててしまう。損な役回りだね。
でも、今思うとあれは筍だったかもしれない。正体は何だったんだろうか。

油そのもの感の皮、複雑変な味の豚肉、オーディナリーメンマ(仮)、これらが組み合わさって今まで出会ったことのない洗練された不味さを形成していた。もはや素晴らしいほどに。称賛の拍手を送りたい。
まともに食べられたのは付け合わせのキュウリだけだった。こんなぼっこぼこの敗北は初めてかもしれない。

(この後もう一つのお目当てだったタロイモシューに舌の救世主になって頂いた。こっちは万人に自信を持ってお勧めできる。)


結局、台湾で美味しく食べられなかったものはこれのみ。他は美味しいものばかりで、全体的にとても好きでした。初心者がつまづきがちな八角の風味もパクチーもお気に入りだし、肉圓だけだめだったのが悔しくてならない。

この自分が食べた肉圓がベーシックタイプ、という訳ではなさそうで、別のお店でもう一度チャレンジしたいなあ… 絶対蒸すタイプの方が良い気がするけど。


食べたことない人は機会があればぜひ食べてみて。好きにしろ嫌いにしろ思い出になるよ。

(注:肉圓の名誉回復のために言っておくと、日本人観光客含めこれを好む人は多くいるみたいです)
(肉圓好きな人はこんなもん読ませてしまってごめんなさい、陳謝)

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