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【月刊pic-step8月号】yumo先生 インタビュー

こんにちは!月刊pic-step編集部です。
今回は、フリーイラストレーターyumo(ゆも)先生へのインタビューをご紹介します!


yumo(ゆも)
美術系の大学院を出た後、イラストの道へ。会社員をしながらイラストを描き続け、今では多数の商業イラストの依頼を受ける人気イラストレーター。


yumo先生は主に、ドラゴンや恐竜、虫などをモチーフにした、モンスターのイラストをメインに描かれているイラストレーターです。先日、東京ビッグサイトで開催された「クリエイターEXPO」でyumo先生のイラストを拝見し、今回インタビューにご協力いただけることになりました。


なぜモンスターを描き始めたのか

ーインタビューへのご協力ありがとうございます。yumo先生のイラストを初めて見た時から、カードゲームに出てきそうなキャラクターだな、と思っていたのですが、もしかしてカードゲームがお好きですか?

yumo先生:はい。『デュエル・マスターズ』(以下、デュエマ)が好きで、未開封パックを集めてます。特にデュエマの初期の頃の絵柄が、自分の中の「かっこいい」という価値観を作り上げているので、そういうテイストが僕のイラストにも出ているんですよね。

ー僕もデュエマ好きでした!yumo先生のイラストは、デュエマのカードゲームを担当されているイラストレーターのタカヤマトシアキ先生のイラストのような、ちょっと懐かしくてかっこいい、少年心をくすぐるようなイラストで、僕も懐かしい気分になっていました。
そうすると、yumo先生が一番影響を受けたのは、カードイラストなんですか?

yumo先生:小さい頃から絵は描いていました。そのきっかけは、父親が『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド』っていうゲームをやっていたことですね。その攻略本にモンスター一覧のイラストが載っているんですけど、それを映してイラストを描くというところから、モンスターを描き始めたんですよ。なぜか、モチーフとして人物にはあまり惹かれなくて。

だからモンスターばかりを描いていたんですけど、初めてのトレーディングカードゲームとしてデュエマに出会って。そこから、かっこいいモンスターがいっぱい出てくるゲームをひたすらやってました。

ーモンスターって、ワクワクしますよね。人とは違って、いろんな形がありますもんね。たくさん種類があって。

yumo先生:そうなんです。この自由度が描いていて楽しくて。

ーなるほど、そこからどういう経緯で商業イラストに携わることになるんでしょうか?

yumo先生:僕は高校から美術の高校に入ってて、大学院まで芸術系の大学に通ってたんですけど、その時はもう全くモンスターを描いてなくて。「純粋美術」という、商業美術とは違って本当に芸術的価値を目的とした純粋な美術、例えば美術館にあるタイプの美術作品をずっと勉強してて、その中でも僕は彫刻をずっとやってたんですね。木を彫ったりとか、粘土で人を作ったりとか、色々してて。
なので、大学院卒業まではずっとモンスターは描いてなかったんですけど、就職して色々環境が変わる中で色々と考え始めて、イラストの仕事をやりたいと思って、そこから自分で改めて描き始めたんですよ。それでもう5年ぐらい経つんですけど、去年初めて企業様からお仕事をいただきました。
「Skeb(スケブ)(※)」でずっとご依頼はいただいてて、少しの収入はあったんですけど、お仕事としていただいたのは去年が初めてで。そこから継続してお仕事をいただいています。

※Skeb(スケブ):クライアントが有償でリクエスト(お題)を送り、クリエイターがイラストやボイスを製作すると報酬がもらえるサービス。投げ銭付お題募集サイト。

イラスト①

人物のイラスト

ー先生、人物も描かれるんですね!余白を生かしたデザイン性のある構図も素敵です。コンセプトをお話いただけますか。

yumo先生:このイラストは、今回のクリエイターEXPOに参加するために、人物画を描いた方がお仕事の幅が広がると思って描いた作品です。僕本当に全く人物画を描かないタイプなんですけど、1点だけでも人物を描こうとして描きました。苦手なものを描けるようになりたいという、練習を兼ねた感じですね。

ーこの衣装もご自身で考えられたんですか?

yumo先生:そうです、全部考えました。

ーこのモコモコの部分とかすごいリアルで、確かに光が当たるとこういう感じになるなあと思いました。

yumo先生:このイラストは特に、他のイラストと比べると服は白1色だし、鎧の部分や脚の部分もシルバー1色で、あまり装飾的ではないんですよね。なので光と影で大体表現してます。光がどうやって当たってるか、空間を意識して表現しています。そのあたりのイメージの仕方は、学校で彫刻を勉強していたことが生かされていますね。

あとは、画面のバランスを意識しています。例えばこの右の肘が見えすぎると白色が入っちゃうので、なるべく真ん中に明るいところを持ってくるために隠したりとか。そういったバランスを見て、植物などであえて隠して空間を作っています。顔の後ろだけ空を出して、そこに1番目がいくように描いていたりだとか。

余白の部分も、キャンバスで描くときはいっぱいいっぱいで描くんですけど、そのあとにレイアウトをいろいろ考えてこの構図にしました。足の部分を一旦全部描くためにはみ出して描いてたら、はみ出したままの方が奥行き感が出るとか、花びらが余白の外側まで来ると勢いが出るとか、描きながら色々試してできた作品ですね。
モンスターを描く時はあまりこういうことはしないんですけど、一つの表現として、デザイン的な要素を取り入れました。

ー緻密に計算されたような、ちょっと知的な感じがしたんですよね。だからここにあえて光を当てる当てないとか、陰影をどこに付けるとか、この脚を前に出すっていうのも、立体感や奥行きを感じられる表現だったんですね。

yumo先生:本当に嬉しいです。光で立体感を出すのが楽しくて。例えば手前に出てる膝の部分とそこに置いてる手のところなんですけど、このちょうど甲冑の縁取りまでは影で。その後ろに光を当てるとそこで空気感が出てくるんですよ。
実際にはこんな光の当たり方はしなくても、イラストでは自由に光を当てられるので、そこまで完璧じゃなくても表現としては一体感を出すことができるんですよね。

ー確かに大体、甲冑の縁を一番明るいハイライトとか置いて輪郭をくっきりさせるってやりがちなんですけど、そこをあえてやらずに影にして、後ろに明るいところを置くことによって、前後での立体感を表現されているんですね。勉強になります

yumo先生:最初からラフの段階で綺麗にできてるわけじゃなくて、ずっと描いて直してを繰り返しているので、効率は悪いけどとにかく描いて試しての繰り返しで出来上がってますね。服装とかも全部変えてますし。
おそらく皆さんも、そうやってやられてると思うんですけど。

イラスト②

蛾とドラゴンがモチーフのモンスター

この毛並み感や、尻尾と体とで異なる毛の質感など、1枚のイラストに幅広い表現を出されていますよね。

yumo先生:こちらも「スケブ」でお願いされたもので。原案として蛾とドラゴンの間のような小さいモンスターがあったんですけど、これが大きなドラゴンになったバージョンを描いてくださいという話をいただいて、描かせていただいたんですよ。モンスターの体を真っ白にするというのと、黒色のトゲトゲとクリスタルの表現を入れるっていうのだけ決まってて。

背景をすごく暗くするという手法はこのイラストが初めてでして、僕の中でかなり転機になったイラストです。光と影の表現が本当に楽しくて。
「左側から光が当たったらここに影が落ちる」というのを想定して、光源を意識して描いていて、特に体の棘の影などはわかりやすいポイントになっています。あとは、尻尾の部分の回り込みで影と光が当たってるところが切り替わっているんですが、ここが立体的に見せるポイントで、自分の中では気に入っています。

ー蛾とドラゴンというコンセプトを聞いて、なるほど、蛾の要素が入っているからこのふわふわとした羽の感じを表現しているんだ、と納得しました。

yumo先生:そうです、背中の毛とか、頭から生えてる触角とか。元々いただいたベースのデザインにこういう特徴があったっていうのもあるんですけど、細かい毛は蛾の印象を強めるための要素として入れています。

ー「スパッタリング(※)」のような表現も入っていますが、こういうのもあるのとないのとでは、表現の幅が出てきますよね。

yumo先生:そうですね。やっぱ空間がそこですごく出るというか。このスパッタリングのような表現は、埃が光る表現なんですけど、こういう細かいところで空間を演出しています。

※スパッタリング:絵の具を目の細かい網に塗り、それをブラシでこすることで、霧吹きのように細かい霧状のしぶきをキャンバスに飛ばす技法。

ーこれだけで、そこに本当にいるかのような、現実にありそうな説得力が出る描画になりますよね。

yumo先生:説得力でいうと、本当は僕はタカヤマ先生のイラストみたいに、非現実的な色合いですごく派手なモンスターとかを描きたいんですよ。でも、非現実的な色合いで説得力を持たせるっていうのは、すごくやっぱ難しくて。例えば金色の装飾がたくさん付いてるとか。その点やっぱりタカヤマ先生は常軌を逸してて、すごく表現力が高くて説得力があるんですけど、僕の場合だとやっぱり現実的にあったらこういう感じだろうなっていう、想像力が働く範囲内の表現なんですよね。

例えばこのイラストでは体毛に白い毛を使ってますけど、例えばこれが真っ赤な毛だったら説得力を持たせるって難しいと思うんですよ。ここに光が当たってどうなるのかを想像するのがすごく難しくて。その辺を挑戦していきたいんですけど、なかなか気持ち良く描けないんですよね。なのでできるようになりたいなっていうのは、僕の中の課題です。

ー確かに白だと犬や猫とかでも現実に存在するので想像しやすいですけど、真っ赤な毛の動物ってパッと出てこないですよね。現実に存在しないような色味などでも、説得力のあるような表現を描けるようになるというのが課題なんですね。

yumo先生:そうですね。あとはそれにさらに装飾をつけるとか。緑色の体に装飾として金色の装飾を付けたら、金色と緑色のバランスが多分難しいんですよ、説得力を持たせようとすると。それでどんどん難しいのが重なっていくので、装飾と色が僕の大きな課題ですね。

ー確かにその要素が入れば入るほど、1枚としてまとめるのが難しくなってくるってことなんですね。

イラスト③

yumo先生の作品では珍しく炎のエフェクトなどを使用した作品


先程課題とおっしゃった部分がこのイラストで出てる気がしますが…!

yumo先生:はい。少しこれは練習も兼ねてたところもあって、これも「スケブ」なんですけど、原案でドラゴンのデザインがあって、それを僕のタッチで描いてくださいっていうご依頼だったんです。
どういう世界観で描こうかなというところから始まるんですけど、どうやって光とか立体感を出していこうかな、って探り探り描いて、ラフの段階でざっくり光を当てて、一番しっくりきたタイミングで構図を決めて。それから背景とか細かい部分を描き進めて、背景にも光に当てていくという作業をして完成に近づけていきました。

光の部分のすぐ下に尻尾が来てるんですけど、尻尾を挟んで下まで光が見えるように背景を描いて、空間を出してたりとか、その尻尾も光の影響でオレンジ色にして、遠近感を出したりとかして。

ーこのイラストですごいなぁと思ったところが、炎とかが寒色のエフェクトじゃないですか。でも、光は暖色系のオレンジ色ですよね。反対色のはずなのに色がケンカしてなくて、むしろまとまりがあるんです。どうやってまとめたんだろうって思って。

yumo先生:多分、背景にも同じように青からオレンジのグラデーションを掛けているから、バランスとしてまとまって見えるんだと思います。あとはとにかく描いて消してしっくりくるまで試していったので、それがハマってたのかなという感じですね。

ー色の混じり合う部分が溶け合ってて調和しているんですね。

yumo先生:このイラストでは、タカヤマ先生のテクニックを参考にさせて頂いている箇所があります。腕や首などの鱗の表現ですが、鱗同士の隙間は本当だったら一番奥まってる部分なので、立体として考えれば一番暗くなるのが普通なんです。でもそこを明るくするとなぜかすごく説得力が出るということに、タカヤマ先生のイラストを見て気づいたんです。

例えばすごくマッチョなキャラクターとかって胸筋があるじゃないですか。胸筋って真ん中に溝ができていて、一番深くなってるところが普通暗くなりますよね、影ができるので。でもそこを明るく描くと、急に説得力が出るんですよ。なぜか不思議と。反射光とかそういう考え方だとは思うんですけど、へこんでいるところにあえて明るい色を持っていくと、説得力があるイラストになるんです。

ーその技術を知識として知っていても、実際に自分で描くとなると、客観的にも見ないと難しいですよね。yumo先生は客観的にも見る目を持ってらっしゃるからこういう風に描けるのかなと思いました。

yumo先生:そうですね、毎度毎度反省しながら描いてます(笑)。

モンスターより“モンスターがいる世界観”を描きたい

ー先生の描くモンスターはどういうモンスターなんでしょうか?例えば、どういう技を使うとか…

yumo先生:自分のイラストの中のモンスターでは、非現実的なエフェクトを入れないので、「モンスターハンター」に出てくるモンスターのようなイメージなんですよ。
どういうことかというと、レーザーや魔法など、非現実的な特殊技を使うモンスターや、現実にはあり得ない骨格をしたモンスターよりは、体の構造とか骨格とかが現実に近いモンスターが好きなんです。その点が、モンスターハンターが近くて、攻撃も物理攻撃で現実に基づいていそうな設定なんですよね。

ー確かにyumo先生のイラストを見ていると、どんな生態系で、どんな食べ物を食べていて、だからこういう技が出るのかとか、その技のために爪が伸びているだとか、モンスターがどういう風に生きているかを想像できるような、理屈に基づいてる部分が確かに感じられました。

yumo先生:モンスターを描きたいんですけど、「モンスターがいる世界観を描きたい」という感じの方が近いんです。なので僕のイラストでは必ず背景を描くんですけど、「ここにこんなモンスターがいるんだ」って想像するのがすごくワクワクするというか。

ー今後やってみたいことや目標はありますか。

yumo先生:トレーディングカードゲームのイラストをやりたいですね。特に、やっぱり一番僕が仕事としてやりたいのはデュエマのカードです。ここでも扱われるようなものを描くことが目標です。
あとは画集を出すことにはちょっと憧れがありますね。これも将来の1つの目標です。

ー最後になりますが、ファンの方や、お仕事で関わっている方に向けて、何かメッセージをいただけますか。

yumo先生:これからもっと向上していって、頑張って皆さんにワクワクしてもらえるようなイラストを描いていきたいと思っています。より素敵なモンスターの作品とか、今後はキャラも描いていくつもりなので、応援していただけると嬉しいです。
僕がいろんな方のイラストを見てワクワクさせてもらってた側だったので、今度は僕が皆さんをワクワクさせたいな、楽しんでもらいたいなっていう気持ちです。


yumo先生、ありがとうございました!
yumo先生のモンスター愛とタカヤマ先生へのリスペクトがひしひしと伝わるインタビューでしたね。「モンスターを描きたいけど、それよりもモンスターがいる世界観を描きたい」というところで、ハッとさせられました。ただモンスターを描くだけではなく、そこに存在しているんだ、この世界に生きているんだという前提で描かれているからこそ、空気感や臨場感がリアルに演出されているんですね。今後も素敵なモンスターのイラスト、楽しみにしています!


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次回もお楽しみに!


インタビュー: 萩谷 勇也
記事:橘 爽香

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