米最大手の地域SNS「Nextdoor」が評価額$4.3bnで上場へ
アメリカで世帯数1/3に普及する地域SNS「Nextdoor」が遂に上場というニュースが出ましたので、IPOや事業に関する英文記事も幅広に要約してします。最近のNextdoorや、地域SNS市場について関心ある方におすすめです。
地域SNS「Nextdoor」の大型IPO
■ 評価額:$4.3bn (=約4700億円 ※1ドル110円換算)
■ 形態:米老舗ベンチャーキャピタルKhosla VentureのSPAC(特別買収目的会社)を活用した上場
■ 調達額:$270m(=約300億円)。引受する機関投資家はBaron Capital Group, T. Rowe Price Associates, ARK Invest等。これまでの累積調達額は$250m以上で主な株主はBenchmark, Tiger Global Management and Kleiner Perkins等
■ 取引名:KIND → このネーミング最高です。
2011年に創業したNextdoor。地域SNSは社会的に必要とされながらもスケール性や収益性が見えにくく、いくつものスタートアップが挑戦している領域ですが、コロナ禍で地域の重要性が増してきており市場が切り開けてきた感じです。
実はNextdoorは、創業者が当初やっていたサービス(スポーツ観戦SNS)が失敗して、投資家から調達した残りのお金の最後の一手でできたサービスであり、様々な紆余曲折があってここまできていたり。
最近のNextdoorの状況をまとめていきますね。
Nextdoorの現状
■ アメリカ世帯数の1/3がNextdoorを登録
■ WAU 27mn
■ 過去1年でアクティブユーザーは50%成長
■ グローバルでは、カナダに加え英国・フランス・ドイツを含む欧州10か国で展開し、27.5万の地域コミュニティを展開
Nextdoorは実名及び住所の登録が必要とされており、透明性を出すことで健全な地域コミュニティ運営を目指している。
主なやり取りは、イベントのご案内や、迷子になってしまったペット情報、音楽レッスンの案内などいわゆる地域のやり取りがメイン。
アメリカや欧州では、スーパーのレジ袋詰めセクションに膨大な地域情報の掲示板があるんです(例:イベントや、ベビーシッターや中古の家具の案内が多い)Nextdoorはこれをデジタル化したイメージ。
主に上記のようなやり取りなんですが、テキストベースのコミュニケーションが多い印象を持ってます。
私が見ているタイムラインに今朝出ていた情報。なかなかローカルなやりとり!
1 道路の工事閉鎖しているけど、どうやってみんな迂回してる?
2 昨日、電力落ちなかった?
3 猫を保護するエキスパートのTerryの連絡先知らない?
数字で見るNextdoorの粘着性
Nextdoorの継続率の3ヶ月で74%、2年以上でも54%と非常に高い継続率を維持しており、他のSNSと比較しても高いアクティブ率を実現しています。
Nextdoorが直面している人種差別的発言との戦い
George Floydさんの事件を機に、Black Lives Matterの動きが高まり、意見の衝突が各地であったのが去年。
Nextdoorでも、人種差別的な行動があり大きな問題となりました。例:コミュニティ管理者がBlack Lives Matter関連投稿を勝手に削除してしまったり。
それを経て、Nextdoorはより民主的な施策としてボランティアベースのCommunity Reviewer制度を導入。 これはユーザーがボランティアで参加するグループであり、報告された投稿をガイドラインに基づいて削除するか、継続させるかを投票させる仕組みであり、現在12万のReviewerが存在します。
地域SNSは「信頼」が最も大事なファクターであり、爆発的な成長よりこのように質を担保していく必要。ここは事業家としてものすごく難しいバランス感が強いられます。
リードする経営者はどんな人?
2018年に創業者前CEOから引き継いだ、Sarah Friarさんが現在のCEO
Nextdoor CEO 2018~
Square CFO 2012~2018
Salesforce SVP of Finance 2011~2012
Goldman Sachs MD of Tech 2000~2011
Stanford MBA 1998~2000
McKinsey & Co Analyst 1996~1998
こんな人いるんですかってくらい、エリート中のエリート、、、
現在はSlackやWalmartの社外取締役なども担う、とにかくすごい人。
Nextdoorの事業性は?
投資家より地域SNSで最も吟味されるのが、事業性。
Nextdoorの開示資料によると2020年の実績の売上は$123m(約135億円)
ユーザー一人あたりのARPUは$4.62となっています。
現状EBITDAは-$50Mの赤字を計上。次の2年間も約$50mの赤字を予測しており、まだまだプラットフォームへの投資が進む計画。
以前 "Master of Scale"というPodcastでSarahさんがインタビューを受けた時に定性的な示唆がこちらです。
■ Nextdoorのような地域SNSは、ネットワーク効果が限定的なのでスケールが難しい事がこの事業の一番難点。例:一つの地域の活性化が横展開されない。
■ その分、これはものすごく参入障壁が高いプラットフォームである。地域のデジタルネットワークはまだ実現されていない領域であり、特に地域事業者にとって大きな価値が高い。
■ Nextdoorは地域事業者にユニークな体験を生んでいる。ものすごく大きな可能性がある。事業者に対して2000万のポジティブな口コミが生まれている。
■ 例えば、Sarahの行きつけの美容院は素敵なインスタアカウントを運用している。ただ、そのフォロワーは32人、、、、どんなに綺麗な投稿をした所で、地域の人に見て貰わなければ意味がなかったりするが、Nextdoorに投稿すれば地域住民に届く。
■ 地域SNSをマネタイズする時に、事業者による投稿が増えてしまいコミュニティが崩れてしまう事が懸念される。一方で、地域コミュニティは居住者だけではないことを認識しなければならない。居住者だって、地域の商店のことを気にかけている。特にコロナのような時は、自分の好きな地域のお店を助けたいと強く願っていることもわかった。
■ Nextdoorの中であるドーナッツ屋さんの奥さんが病気となった事例。店主は看病しなくてはいけないのだが、治療に必要なお金を稼ぐために店を明けていた。それを知ったNextdoorコミュニティはみんなで、朝お店へ買いにいき看病できるようドーナッツを買う動きがおきた等、商店は地域コミュニティの一つ。
■ Nextdoorが投資家に対して地域コミュニティが必要だということを理解して頂く事が難しい場面がある。今までの事例を含め、Power of Proximity(近くにあることの力)には、コミュニティ、事業者にとっても大きな価値があることは間違いない事がわかってきた。
https://mastersofscale.com/sarah-friar/
ここで彼女がいう、Power of Proximityって素敵な言葉だと思うんです。これだけITが発展しても、ローカルに情報を届ける手段はチラシやDMなどの今だにレガシーな手法しかなく、事業性としても大きな可能性を秘めていると感じます。
米国のローカル広告市場は$137.5bnあるとされており、うちモバイルローカル広告市場が$23.4bn(約2.5兆円)のマーケットがあり、まだ占有率が全体の17%(BIA/Kelsey調べ)。規模としても大きいですし、成長もまだまだ見込めます。
一方で、NextdoorはTAM(Total Addressable Market)自体はかなり大きく見積もっています。
実績ベースで米国で$143bn、グローバルで$355bn。
コロナと地域SNSとの関係性
コロナでStay Homeな暮らしが一般的となり、地域での繋がりや情報の重要性が一層増している世の中となってきました。
Nextdoorもコロナ禍で大きな成長を遂げています。
私は以下の様な社会情勢の変化から地域におけるデジタルプラットフォームが一層必要になってくると考えています。
日本に地域SNSは浸透するのか?
Nextdoorも今後日本に展開する余地は大いにあると思います。1年以上前から日本のCountry Managerを募集していたり。
国内ではローカル掲示板から始まり、いくつもの地域SNSサービスが立ち上がってきた過去がありますが、収益性やスケール性という観点からまだ成功事例はないと理解です。
ただ、地域コミュニティを必要としている30~40代の子育て層などがSNS慣れした環境に加え、コロナ禍での必要性も増ししていることもあり、これを期に市場が立ち上がる可能性があります。
実際に私自身、地域SNSを運営していてその感覚を第一線で感じています。特に今まで活用していなかったワーカー、シニア層の利用比率が増えてきています。
日本版Nextdoorの「ピアッザ」
2015年にサービスインした地域SNS「ピアッザ」を私たちは運営しています。この1年で一気に需要が高まってきており、現在鋭意成長中です。
私たちの特徴の一つとして、自治体や街づくりプレーヤーの皆さんと連携して展開することで、より地域に根付かせるスキームをつくってきております。
最後に、地域SNSってそもそも必要とされているの?
ここからはただの私の考えになります。
私自身「地域のつながり必要ですか?」と問われたら、速攻で「そんなめんどくさいもの入りません」と返します。
ただ実際生活していると、地域の情報や支えが必要のなるタイミングは必ず誰でにも訪れます。わかりやすいのは引越し、子育て、介護、怪我などなど。
多くの皆さんが実家と離れて、地縁をリセットした形で暮らしている今、何かあった時の近くの支えは必要です。私自身、自身の子供の怪我をきっかけに、名前を知らないご近所さんに助けられた事にきっかけに地域SNSサービスを始めました。
今の私たちのニーズって、今まで町内会などが担ってくださっていた強いつながりではなく、ゆるいつながりなんだと思うんです。もっというと、自分が必要な時だけアクセスしたい、都合の良い地域リソースが欲しい、だと思うんです。人間はどんどん自分勝手になっていきます 笑
それは1:1の関係性だと持ちつ持たれつがあるので、都合の良い関係は難しいですがデジタルでn:nの関係性(地域のゆるい和)の中では機能していくのだと考えています。
このサービスを5年以上運営した私の学びは「人って優しいな」です。ピアッザの中では様々な質問や情報交換がなされているのですが、私が驚くくらい、皆さんが真摯に向き合い・助け合いをされている様子を見ながら地域力の可能性を感じます。Sarahさんが言う、Power of Proximityかもしれないです。
地域SNSはあくまでツールであり、それが広がることで地域のゆるい和が醸成され、地域力(市民自治・ローカル経済)の発展に寄与できればと考えています。
Nextdoorの上場は非常にわかりやすい形で市場にスポットライトが当たる形となりましたので、今後の市場の発展が楽しみです。
では!
出所一覧
https://www.linkedin.com/in/sarah-friar-922b044/