Erard②(ピアノと木工技術)
Erard社は1752年にフランスはストラスブールに生まれたセバスチャン・エラールにより設立されたピアノメーカーです。セバスチャン・エラールの家系は家具・木工職人であったらしく、この背景がセバスチャン・エラールがピアノやハープを製作するにあたり、大きなアドバンテージになったのであろうと思います。
ピアノ製造メーカーには家具・木工職人にルーツを持つ場合は他にも有り、ベーゼンドルファー(Bosendorfer=オーストリア)やファツィオリ(FAZIOLI=イタリア)などは家業が家具・木工であったそうです。
ピアノはその多くが木によって出来ており、音の出る家具ということが出来るくらいです。本体の木組みや響板(弦から発生した音を増幅させる板)といった大きな部材から、鍵盤やサポート(鍵盤の動きをハンマーに伝える部品)といった小さな部品まで多くが木によって出来ています。これらの部品は木のみによって出来ているわけでなく、他に金属やフェルト、革等との組み合わせで一つの部品として完成されるのですが、木が基盤となることに間違いはありません。
つまり、ピアノを作成しようと思ったら木工技術は不可欠になるわけです。本体を組むにあたっては適切な仕口で堅牢な木組みをする必要がありますし、サポートは一つ一つの部品がとても小さい上に、同じものを90個程作らなければなりません。いずれにせよ、丁寧かつ高度な木工技術はピアノ製造にあたってとても重要な要素になると思います。
今回修理したErardは本当に丁寧に木工加工がなされていました。仕口に隙間など(製造から90年経過しているにも関わらず)全く無く、惚れ惚れする作業でした。同時に技術者たるもの、こうあるべきという姿を教えてもらいました。
ピアノを修理・修復をするにあたっても木工の技術が必要になってきます。もちろん一から作るわけではありませんが、壊れていたり、無くなってしまったりしている部分を作り直さなければならないからです。
名メーカーのルーツが家具・木工職人であった、ということは知識としては知っていましたが、今回ほどピアノと木工技術の強くて深い関連を感じたことはありませんでした。私も木工を一通り経験していて本当に良かった、と修理をしながら感じていました。
今回も最後までご覧頂き、ありがとうございました。