AIは立食パーティーなんて行かない
立食パーティーが嫌いだ
立食パーティーが嫌いです。いや、大嫌いです。2時間の立食パーティーなら、最初の40分くらいを何とかやり過ごし、一人になったタイミングで急用ができたフリをして抜け出すのがいつものパターンです。そして、そのあとは大体、自身の解放を祝して一人で牛丼かラーメンを食べます。
なぜ40分かというと、そのくらいの時間であれば、最初に見つけた知り合いと雑談をしてやり過ごせるからです。多くの場合、そうして最初に見つけた知り合いは、30分ほどで「ちょっと飲み物とってきます」とその場を去ってしまいます。そして2度とは戻ってきません。
すると、食べ物を皿に盛ってみたり、会場を練り歩いてみたりで潰せる時間はせいぜい10分です。その間恋人ができたばかりの高校生ばりの頻度でスマホを確認し、あらかじめとりやすいポジションに置いておいたカバンをピックアップすると、電話をかける構えをとりながら会場を後にします。これが基本の所作です。
コミュニティー資産>金融資産
ただ、最近ふと考えます。このままでいいのか、と。
人との繋がりというのは、いうまでもなく人生や仕事の充実度を左右する大事な要素です。資産と言っても差し支えないでしょう。ここでは、これを「コミュニティー資産」と名づけることにします。
このコミュニティー資産には、金融資産と同じく「複利」がききます。利子に利子がついて雪だるま式にお金が増えていくように、人との繋がりがまた新しい人との繋がりを呼んでくれるのです。
一方で金融資産は株価が暴落したり、インフレでお金の価値が下がったりで目減りすることがありますが、コミュニティー資産の価値が下がることはありません。先行き不安な時代に資産を築いておくのなら、金融資産もさることながら、何よりこのコミュニティー資産なのではないか。そんな思いは、ここのところ確信に変わりつつあります。
コミュニティー資産は他の何より仕事&人生を充実させてくれる
コミュニティー資産は、以下の3つの意味で、文字通りの「資産」であると考えら得れます。
仕事の機会を広げてくれる
労働力を再生産してくれる
人生そのものを充実させてくれる
第一に、コミュニティー資産は仕事の機会を広げてくれます。知り合いがホームページ制作会社探しているんだよ、などといった具合に町内会のメンバーから仕事の依頼が舞い込んでくることもあれば、ウチの会社でデジタル広告詳しい人探してて、といった具合に業界の繋がりから転職のきっかけが見つかることもあります。
次に、コミュニティー資産は心身をリフレッシュさせてくれます。私の場合、気のおけない仲間とおしゃべりすることが何よりのストレス解消です。そうしてストレスを解消することは、食べることや寝ることと同じく、仕事を続けていく上で必要不可欠です。コミュニティー資産があれば、お金をかけて映画をみたり、コンサートに行ったりせずともそれが実現できるのです。
人生の幸福は「人間関係の質」がもたらす、というハーバード大学の研究結果があります。84年にわたり、2,000人以上の人生を追跡調査した壮大なプロジェクトのファイナルアンサーです。コミュニティー資産は、例え仕事への影響が何もなかったとしても、人生そのものを深く充実させてくれる、ということなのです。
AIが跋扈する未来はコミュニティー資産の競争になる
人が蓄えることができる資産には、他にも「経験資産」とでも言ったものがあると考えられます。仕事をしていく中で、また生きていく中で自分の中に蓄積された、知識や経験、そしてノウハウなどです。しかし、こうした資産の大半は、かなり高度なものも含めて、近い将来AIに代替されてしまうことがほぼ確実です。
金融資産を築くには、元手となる資金と運用ノウハウが必要です。金融資産の運用には、これまで高い専門知識とデータ分析能力が必要不可欠でしたが、それもAIが大幅に手助けしてくれる将来は近いでしょう。
一方で、コミュニティー資産は、AIには築くことができません。AIにお膳立てしてもらうことくらいはできるかもしれませんが、所詮AIは立食パーティーには行けないのです。AIが人間の仕事の大半を代替する世界戦で、私たちに残されるチャレンジはここなのではないでしょか。そんな世界で繰り広げられるのは、コミュニティー資産の競争になるということです。
コミュニティー資産を構築し始めるのは今
こうしたコミュニティー資産の価値は、個人の時間軸で見ても、年を重ねるごとに高まっていきます。新しい仕事の機会は、60代では20代より大幅に少ないのが現実です。体力が衰えてくると、病気などの不安やストレスが増えてきますが、仲間の支えはそういう時ほど骨身に染みるはずです。
一方で、コミュニティー資産を築くことの難しさは、年を重ねるごとに高まってしまいます。転職したり新しいプロジェクトを任される機会が減ると、仕事を通じた出会いは少なくなります。子供の入学や引っ越しなど、新しいライフイベントに伴う出会いも残り少なくなってくるでしょう。
そうでなのあれば、私たちがコミュニティー資産を築き始めるべきなのはいつでしょうか。今でしょう。立食パーティーが苦手だ、などと言っている場合ではないのです。そこで、最後に、苦手ながらも仕事柄頻繁に立食パーティーに出席する私から、一つ裏技を紹介したいと思います。
それは「面白がられる」ということです。スピーチを引き受けたり、一芸を披露したりして、参加者の注目を集めるのです。すると、さっきは面白かったですね、と向こうから話しかけてくる人が現れます。2人もいれば、40分x2で80分は間が持つでしょう。あとはトイレでやり過ごしましょう。
おわり
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<この本のコンセプト(本書より)>
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