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【短編小説】/「奇跡の証」/参考曲:ふたりごと/RADWIMPS

※曲を聴きながら読んでみてください。

冷たい風が吹き抜ける冬の夜、12歳の少女・ほのかは、父親の声で目を覚ました。リビングからは、両親が言い争う声が聞こえてくる。「もう無理だ」と言う父の低い声と、「そんなはずない」と震える母の声が、ほのかの胸に刺さった。

彼女の両親は、昔は仲睦まじい夫婦だった。ほのかが幼い頃には、父と母が手を繋ぎながら微笑む姿をよく見たものだ。しかし、年を重ねるごとに、二人の間には見えない壁ができてしまった。今では、同じ部屋にいても目を合わせることさえなく、帰宅した父が「ただいま」と言うこともなくなっていた。

その夜、ほのかはベッドの中で目を閉じ、ぎゅっと毛布を握りしめた。そして、自分の中で何度も問いかけた。

「私の命って、嘘だったのかな?」

次の日、ほのかは学校を早退し、祖母の家に向かった。彼女には両親と話す勇気がなかったのだ。祖母は、彼女の不安な瞳を見て、そっと微笑みながらこう言った。

「ほのか、あなたの命はね、奇跡そのものなのよ。お父さんとお母さんが愛し合って生まれたのが、あなただもの」

しかし、ほのかの心は晴れなかった。両親の冷え切った関係が、彼女を責めているように感じていたのだ。

ある日、ほのかは家の押し入れの奥に、埃をかぶった箱を見つけた。中には古い写真と手紙が詰まっていた。写真の中には、若い頃の両親が満面の笑みを浮かべて写っていた。その手紙は、二人が付き合い始めた頃に交わしたもので、そこにはこんな言葉が綴られていた。

「君と僕が出会えたのは奇跡だと思う。この奇跡を一生大切にしたい」

ほのかはその手紙を見つめながら、涙が止まらなかった。「奇跡」という言葉が、胸の奥に響いたのだ。

その夜、彼女はリビングで両親を待ち構えていた。帰宅した父と、キッチンに立つ母に向かって、ほのかは震える声で手紙を差し出した。

「これ、見て。昔の二人の手紙だよ。ねぇ、私に教えて。二人の愛は、もうなくなっちゃったの?」

父と母は驚いた表情を浮かべながらも、手紙を受け取り、静かに読み始めた。そして、何年ぶりか分からないほどの沈黙の後、二人は初めて互いの目を見た。

「ほのか、君は奇跡だ。僕たちがこの世界で出会って、君が生まれたこと自体が、奇跡なんだ」と父は静かに言った。

母も涙ぐみながら、「ほのか、あなたは私たちの愛の証だわ。どんなに時が経っても、それだけは変わらない」と語った。

その日を境に、家族の時間は少しずつ変わり始めた。父が「ただいま」と言えば、母が「おかえり」と応え、夕食の食卓には三人の笑顔が戻りつつあった。完璧ではないけれど、少しずつ前に進むような日々だった。

それから数十年後、ほのかは自分の子どもを抱きしめながら、亡くなった両親の写真を眺めていた。そこには、彼女の名前が書かれた古びた手紙が添えられていた。

「ほのか、君がいてくれたおかげで、僕たちはまた奇跡を信じることができた。君は僕たちの永遠の希望だ」

写真の中の両親は、若い頃と同じ笑顔で、ほのかに語りかけているようだった。彼女は涙を流しながら、小さく呟いた。

「ありがとう。私を、この世界に生んでくれて…」

End...

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