ごめんなさい
熱が出た。きっとコロナ。
あの日から時空が歪んだ。
初めて訪ねて行った美味しいと評判のパン屋さん。
順番に注文して買っている。
私の後から入って来た年配のご夫婦。
ダンナさんが「これとこれとこれとこれ」って奥さんに指示を出している。
それがちょっとムカついた。
「これ」と指差したクリームチーズのパン。
これ美味しいんだ…と急に欲しくなった。
2つある。一つ買っても構わないよね。
買う予定なかったけど、バゲットやクルミのパンや食パンと一緒に、それも買っちゃった。
もちろんひとつだけね。
お店を出るとき奥さんが「クリームチーズと…」って言ってるのが聞こえた。
もしかしたら奥さんも食べたかったかも。
奥さんの好物だったのかも。
二つ買いたかったかも。
私はそういう意地悪なところがある。
お店を出た途端に後悔した。
車に戻ってすぐそのパンを食べた。
消してしまいたかった。
悪かった。ごめんなさい。
その晩夫と息子が熱を出した。
今日私が熱を出した。
こういう歪んだ事をすると、
その歪みがどこか別の所に現れる。
こんな風に。
あの出来事のせいだ、って思うのはそもそも私の思いぐせで陰険な所なのだ。
でもやっぱり、大人としてちゃんと暮らしたい。
あのご夫婦に ごめんなさい。