C.P.E.バッハの《ソルフェジエット》:バロックから古典派への架け橋と後世へのインパクト
バッハと聞くとヨハン・セバスチャン・バッハ(Johann Sebastian Bach、以下略してJ.S.バッハ)が思い浮かぶかもしれませんが、実は彼の次男、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(Carl Philipp Emanuel Bach、以下略してC.P.E.バッハ)も、当時は父を超えるほどの名声を持っていた作曲家でした。
彼は特に、即興演奏の技術とダイナミックな表現力で名を馳せており、バロック後期から古典派初期への移行期を代表する作曲家として親しまれています。今回は、そんなC.P.E.バッハが後の作曲家たちにどのような影響を与えたのか、そして彼の代表作の一つである《ソルフェジエット》ハ短調について、詳しくお伝えしていきます。
父を超えた有名人? 「ベルリンのバッハ」から「大バッハ」へ
C.P.E.バッハは、偉大な作曲家J.S.バッハの次男として1714年、ドイツのヴァイマルで生まれました。彼はライプツィヒの大学で法律を学ぶ一方で、早くから音楽家としての才能を発揮しました。特にベルリンでは、1740年〜1767年まで、音楽を愛するプロイセン王フリードリヒ大王の宮廷で仕え、「ベルリンのバッハ」として知られる存在になりました。17年間ベルリン宮廷で活躍した後、ハンブルクへと移り、「ハンブルクのバッハ」として教会音楽監督を務め、多くの革新的な作品を生み出しました。
父J.S.バッハも偉大な作曲家として名を残していますが、当時の貴族や宮廷の間では、次男であるC.P.E.バッハのほうがむしろ圧倒的な人気を誇っていました。彼はその豊かな表現力と革新的なスタイルで音楽界に大きな影響を与え、晩年には「大バッハ」とも称されるほどの尊敬を集めていたのです。
また、C.P.E.バッハは、後の世代の作曲家、特にハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンに多大な影響を与えました。彼の表現力に富んだスタイルや独創的な作品は、古典派音楽の発展に貢献し、次世代の作曲家たちの音楽に新たな方向性を示す手本となりました。
バロックと古典の狭間で; ギャラント様式と多感様式が象徴する「感情を表現する時代」
18世紀中頃、バロック時代の厳格な構造から離れ、音楽に新たな息吹が吹き込まれ始めました。この時代、作曲家たちは音楽に「心」や「感情」を表現しようとし始めたのです。
ギャラント様式
ギャラント様式は、シンプルで優雅な旋律と軽快なリズムが特徴で、上流階級や貴族の間で広く支持されました。この様式は聞き手に親しみやすく、気軽に楽しめるような美しさを追求しています。
多感様式
一方で、C.P.E.バッハがさらに深めたのが、多感様式です。これは、バロックの形式美から脱却し、音楽で人間のあらゆる感情を豊かに表現しようとするもので、複雑な感情の変化や微妙なニュアンスが含まれます。多感様式は、音楽がただの美しさや娯楽の域を超え、「感情の劇場」として聴き手に直接響くことを目指したものです。
C.P.E.バッハの音楽は、バロックから古典派への移行期に特徴的な要素を含み、「感情豊かな音楽」を追求した点で、新しい時代の扉を開く役割を果たしました。代表作のひとつ「ソルフェジエット」には、多感様式への探究が凝縮されており、彼の豊かな音楽性が伝わってきます。
C.P.E.バッハに影響を受けた作曲家
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン
ハイドンはC.P.E.バッハの影響を強く受け、「多感様式」を通じて豊かな感情表現を学び、彼自身の創作にも取り入れていきました。
例えば、ピアノソナタ Hob. XVI:20 ハ短調の第1楽章では、急な強弱の変化やアクセントの付け方に多感様式の特徴が表れています。静かな部分から急に力強い音が入ったり、予測できない形で音量が変化することで、感情の動きを強調する多感様式の手法が感じられます。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
モーツァルトもC.P.E.バッハから多大な影響を受けた作曲家の一人です。特に、モーツァルトのオペラやピアノソナタには、和声や音色の変化を使った情感表現が多く見られ、C.P.E.バッハの影響が色濃く反映されています。
モーツァルトのピアノソナタ第8番イ短調 K.310は、C.P.E.バッハからの影響が色濃く感じられる作品のひとつです。この曲は、モーツァルトが22歳頃に彼が母親とともにパリに滞在していた時期に書かれたもので、特に母親がパリで病気になり、その後亡くなったことが彼に大きな影響を与え、作品にも悲しみや激情が反映されています。
これらの要素はまさに「多感様式」の影響を色濃く受けており、モーツァルトがC.P.E.バッハの表現技法を取り入れながら新しい音楽スタイルを開拓していったことがよくわかる楽曲です。
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
ベートーヴェンもC.P.E.バッハに多大な影響を受けました。特にC.P.E.バッハの「正しいクラヴィーア奏法」から学んだ独自の音楽スタイルは、ベートーヴェンの作品に色濃く反映されています。
たとえば、ピアノソナタ第13番 変ホ長調「幻想曲風ソナタ」Op.27-1は、楽章が連続して演奏され、ソナタ形式にとらわれない自由な構成が用いられており、C.P.E.バッハの即興的な表現が受け継がれています。
また、強弱の急激な変化や独特な和声進行など、感情の起伏とドラマティックなダイナミクスを巧みに駆使しており、C.P.E.バッハの革新性と感情表現をベートーヴェンがどのように受け継ぎ、発展させたかを示す重要な作品となっています。
「ソルフェジエット」に見るC.P.E.バッハの感情表現
「ソルフェジエット」は、C.P.E.バッハが40代頃に生み出した短いピアノ曲で、彼の「感情の音楽」への探究が凝縮されています。C.P.E.バッハは弟子たちに「心から演奏すること」を説いており、楽譜の外側にある感情の機微や強弱をいかに表現するかを教えました。彼の音楽がバロックの形式にとどまらず、古典派の「心の音楽」への架け橋として生き続けていることがここに表れています。
「ソルフェジエット」に学ぶピアノスキル
「ソルフェジエット」は短いながらも、ピアノ学習者にとって高度なスキルを学べる曲です。以下がその特徴です:
指の独立と速さ:右手と左手の独立性が必要で、スピードも求められます。
感情の表現力:速い指の動きとリズムにより、感情の起伏やニュアンスを演奏に込めることが求められます。
安定したリズム感:全体のテンポを一定に保ちつつ、心のこもった演奏をする練習ができます。
手首の柔軟性や力の使い方:C.P.E.バッハは「正しいクラヴィーア奏法」にも関心を持ち、奏法に関する著書も残しています。この曲を弾く際も手首の柔軟性や力の使い方を意識することで、より演奏が上達します。
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