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近い星、遠い星

久保さん、皆さん、おはようございます。
南波です。

「暑い」としか言いようがない毎日。
コロナの波も落ち着きませんが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

久保さん、お仕事お疲れさまです。草刈りはこの暑さの中では無理されない方がいいですね。とは言え「こんな時こそ!」と彼らは日々ぐんぐん伸びるのでしょうから、追いかけないわけにもいかないのですよね。
早朝や夕方に、少しでも涼しい風がそよぐ時間がありますように。

上の写真はエゴノキです。団地の中に植えられているのです。
5月に下の写真のような花が咲いて、今は上のような丸い実をつけています。
花も実も、白くて小さくて下向きだから、普通に通り過ぎるだけでは全然気がつかない。でもよく見るとこんなにかわいいのがぶら下がっているんですよ。

我が家のベランダの生き物たちも、この暑さの中、皆元気です。
朝顔は毎日咲いてくれるし、ヒメリンゴの実も無事に育っているし、アマリリスの葉はオバケみたいに大きくなって、サルスベリも鉢の大きさからは考えられないくらい上に伸び、アジサイは黄緑色の美しい花を咲かせ。アブはお皿の水をすすりに来るし、スズメもお米を食べに来るし。
そんな様子を見ていると本当に平和で幸せだなと思います。

朝目が覚めると、カラスの子が「アー、アー」と親ガラスに甘える声が聞こえます。ハトが「ホ・ホー、ホー、ホー」と鳴く声も。
そのうち遠くから「サーーーーーーーッ」っという小さな音が聞こえて、それがだんだん大きく近づいてきて、しばらくすると、すぐそこにある木の枝からも「シャーー」「シャーーー」「シャーーーー」と次々に声が上がって、最後には「ワンワンワンワン」と大音響の蝉コーラスが始まります。その間、正座したままじっと耳を澄ませているのが好きです。夏の楽しみ。

でもここ最近の2週間は、そういう、近くの皆さんをのんびり愛でるだけではなく、すごくすごく遠くの星を目指して突っ走っていました。
30年以上ぶりに、ピアノのレッスンを受けることになったんです。

子どもの頃に7年間ピアノを習い、その後全く弾かない期間が30年ほどあって、でも2年ほど前、息子が電子ピアノを触っているのを見てたらうずうずしてきて、また私も弾くようになりました。去年、実家にあったアップライトピアノを運んできたら、さらに練習が楽しくなり。
「どこかの先生にまた教えてもらえたらなあ」とも思っていたけれど、先生選びはきっととても難しいので、あまり本気で探さず「いつかいいご縁がある」くらいに考えていました。
それが突如、素晴らしいピアニストの方に見ていただけるチャンスが舞い込んできたので、「ありがたいけど、どうしよう!」と冷や汗も熱い汗もだらだらかきながら本気の猛練習をすることになったんです。

教えていただく曲はラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」でした。
自分としては少し背伸びするレベルの曲だけれども、大好きな曲なのでどんなに練習しても飽きない。素晴らしく美しい(私が下手でも)。左手の音の動きも、中間の音の動きも、全部好き。多分クラシックのピアノ曲の中で一番と言っていいほど好き。だから練習中は本当に幸せ。
ただレッスンで弾くとなるとある程度のレベルにはしていかなければいけない。そこが問題。
恐ろしくて逃げ出したくなりながらも、「幸運の女神の前髪を掴んだのは私」と自分に言い聞かせて、その前髪を決して離さないよう堪えました。「私が前髪を掴んだということは、私が弾いていいってことだから」「どんな音が出てもきっとそれが正解だから」と何度も自分をなだめて、気合い入れつつリラックスして、思い描く景色を最後まで持続させようと努めました。

歳をとって良かったなと思うのは、練習するとすぐ疲れたり手が痛くなってしまうことです。そのおかげで自然と無理のない運指や手の形を見つけられるようになりました。子どもの頃はあまりよく考えず、だいたい譜面通りの運指をしていたけれど、結構無理していたのでしょうね。
あとやっぱり、いろんな経験をして、多少は心臓に毛が生えたのも良かったこと。「転んでもいい、また起き上がって歩けばいい」と思えますからね。

息子は良きアドバイスをたくさんくれました。「ここはちゃんとメリハリをつけた方がいいね」「そこはもっと川の上流のようなキラキラした感じで」など。こんな近くに先生がいたとは。
夫もあたたかく見守ってくれました。こういう時に「いい歳してみっともないことやめなよ」とか決して言わない。「行きたかったら行っておいでよ」と言ってくれます。
ピンチの時は家族の存在が本当にありがたい。そして最初に書いたような、植物や虫や鳥の存在もありがたい。
桃の美しさもありがたい(美人はつい写真に撮りたくなってしまう)。

みんなに感謝して新幹線に乗りました。
車窓から見える雲々が美しかった。「応援してくれてありがとう!」と勝手に思い込み。

会場に着くと、敷地内にも綺麗に手入れされたお庭があったので、始まる前に少し散歩して、きれいな花や水のせせらぎに励ましてもらいました。

レッスンは素晴らしかったです。私の出来はさておき、先生は本当に丁寧に教えて下さり、私は知らなかったことをたくさん知ることができました。
曲のことも、ラヴェルのことも、以前よりもっと好きになりましたし、もっと勉強しなければと思いました。教えていただいたことを基にさらに練習して、これからずっとこの曲を大事に弾こうと思いました。

私は、その先生がコンサートでドビュッシーの「花火」という曲を弾かれた時にものすごい衝撃を受けて、「この方は一体どんな風に曲や作曲家と向き合ってらっしゃるのだろう、弾いている時にどんな景色が見えているのだろう」とずっと気になっていたんです。
だから今回、レッスンでその先生の世界の一部を、しかも私が大好きな曲について教えていただけたことは本当にありがたかったです。
良い機会を与えて下さった先生と、スタッフの皆さんに心から感謝しています。
見守って下さったお客様にも感謝です。集中しようと思って、最初は客席をあまり気にしないようにしていたけど、弾いている途中で客席が見えた時、あたたかいものが伝わってきているのに気づいて、すごくありがたかったです。

帰りの新幹線の窓から見えたのは大きな虹でした。

普段、誰もいないところで、虫や葉っぱを見てぼーっとしているのが好きです。が、たまにこうして「どうしても本気出して向き合いたい!」と思うことが向こうからやってくる。面白いですね。
久保さんと初めて出会って舞台で共演した時も、本気出してた時でしたね。
今回も、勇気を一生分使ったかと思うほどでしたけど、良い経験をしました。
皆さんに感謝しています。
いつも練習の音に耐えて下さっている、下の階のご家族にも本当に本当に感謝しています。

またコツコツ頑張ります。ぼーっとしながら。
そう、新たな発見をしました。
見上げると、ものすごく高いところにとんでもない達人がたくさんいらっしゃいますから、自分がすごく低い位置にいるような気がして、辛くなる。
でも本当は、前だけ向いて、自分の道をひたすら歩いていけば良いだけなんですね。遠くの星を目じるしに。

今日も蝉がワンワン鳴いています。昨日は夜中も数匹鳴いてたな。暑すぎると昼と夜がわからなくなるのかしら。

皆さまお体に気をつけて、良い夏をお過ごしください。

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