怖いオーラの人
Tさんは、何となく怖くて、苦手だった。
頭部は少し薄く、いつも眉間にシワを寄せて決まった場所に座っておられる。小柄なのに なんとなく近寄りがたい。一重の目でジッと動きを見られているように感じる事もあった。
午前中に必ず、リハビリを誘わないと機嫌が悪くなって、返事もしてもらえない。
「私は 一日の計画を立てている。リハビリやらストレッチ、お風呂 時間通りにこなさないとリズムが狂ってしまう」
色々お話するようになってから、リハビリが午後になってしまった事を謝罪する為恐る恐る話掛けた時に ボソッと言われた事があった。
平行棒内でスクワット10回、つま先立ち10回 フロア歩行3周といったメニューをご一緒する。
「今日はいい天気ですね」
「ふむ」
「昨日の晩御飯何を召し上がりました?」
「ご飯と鮭 法蓮草」
「好き嫌いとかあります?」
「ない」
どうも話が盛り上がらず広がらず難しく、沈黙がツライ。
「学校卒業後どんな仕事しておられたんですか?」
「銀行」
「内勤ですか?」
「外回り。」
「どんな事されていたんですか?」
「簡単に言えば借金の取り立て」
「あのう、一時流行ったドラマみたいな感じですか?あれってリアルですか?」
「んー違う。でもまぁそんな感じ。」
と話もトツトツ。
「借金の取り立てって法人相手ですか?」
「色々」
んんんんん?あかん、話が途切れてしまう。
「なんだかストレスが多そうな仕事ですね。」
これだけの会話 何日分だろう・・。
なんで色々聞くねん、話したないわっ、と思われてるかも・・。
でも事務的に淡々と何も話さず一日仕事するなんて勿体ないし、楽しくない。
色々な人生を歩んできた人達の体験を聞いてみたい、お話したい・・これも縁じゃんと思うのだけど。
「Tさん、こんにちは、一緒に歩きながら、先日のお話の続き教えてください。借金の取り立て先ってドラマでは工場とか多かったように思うのです」が。」
「私は 暴力団」
「えええええっ?!!!!」 と思わず大声がでてしまう。
「それってとても危険やし、怖いし、危なくないんですかっ。」
「んー、まあなぁ。銀行出るときは、必ず管轄の警察に電話して今から出ます。何時頃到着予定とか報告してから行くから大丈夫。」
「いや大丈夫違うでしょ。怖い思いした事一度もなかったですか?」
歩いていた足を止めて大きく息を吸い、
「そういえば囲まれてテーブルに包丁付きたてられた事もあったなぁ」
「ひょええっ。ようご無事で。私だったら泣いて逃げ出してるぅ」
「ふっ。」笑った?
「ご家族さんは仕事の内容とか御存知だったんですか?」
「言わん」
まあそらそうや。私だったら心配で辞めてくれと頼むし。
「当時の事とか日記とか書いておられないんですか?」
「書いてる。」
「おおおっ読みたぁい!!!」
もっともっとお話しをしたかったが、ついつい話し込んでしまい、ブザーやら次の仕事が気になり始め切り上げないといけなく
「次、又色々お話聞かせてくださいね」とパートナーリハビリ終了させていただいた。
怖いと思い込んでいたTさんをその日から話を聞かせてもらおうとフロアで探すようになってしまったのでした。
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