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「時代が変わっても、人の心を打つ作品は変わらず存在する。」荒木啓子ディレクター 公式インタビュー

9月7日(土)より開催となる「第46回ぴあフィルムフェスティバル2024」まで、あと6日。

今回、13日間で全62作品を上映する今年の映画祭について、荒木啓子ディレクターへのインタビューを実施。聞き手は、PFFアワード2024のセレクション・メンバーとして審査に初参加いただいた、ライターの折田侑駿さんです。

PFFアワードはもちろん、今年の映画祭のプログラムや見どころに迫っていただきました。


時代が変わっても、人の心を打つ作品は変わらず存在する。


──今年はPFFアワード作品として19本が入選しましたが、最終的にどういった基準でこの並びになったのでしょうか?

2次審査会議の選考対象になったすべての作品が上映されてもいいのではないかと思いました。でもすべては難しい。当然ながら時間の制限もありますからね。そうしたときに、できるだけバラエティに富んだ並びがいいという考え方が、映画祭のプログラミングの基本です。だって、どれが入選してもおかしくないレベルの議論が行われていたわけじゃないですか。

2次審査会議の様子

──本当にそのとおりでした。今年はじめて僕もセレクション・メンバーとして審査会議に参加しましたが、みなさん一人ひとりが強く推薦する作品がバラバラで。最終的に「あ、この並びになったんだ」と。

なので私の好みなどは、まったく反映されておりません。これって理解してもらうのが難しい話ではあるのですが……。私はPFFのディレクターではありますが、「PFFアワード」は私のオススメ映画を観てもらうものではありません。私の好き嫌いはどうでもいい。セレクション・メンバーのみなさんの視座から出たお話を参考にしつつ、いまスクリーンで上映することで何かが起きるかもしれないと期待感を持つことのできる作品たちを最終的にプログラミングしました。

★PFFアワードの審査方法や、セレクション・メンバー16名の顔ぶれなどはこちら
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──個人的にとくに思い入れの強い作品で入選していないものももちろんありましたが、ここに並んだ作品はすべて好きですね。長い時間をかけて議論を重ね、他のセレクション・メンバーの方の意見を聞くことで捉え方が変わった作品もありますから。

みなさんの個人的な“推しポイント”を聞いていると、やっぱりいろいろと変わってきますよね。自分の作品の見方が。それでいいんです。極端なことをいえば、誰かひとりでも「これだ!」と強く推す人がいる作品があれば、それでいいんです。だって、誰かひとりでも支持する人がいるということは、その作品との出会いを待っている人がこの世界のどこかに他にも必ずいるはずですからね。

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──全体を俯瞰したときに、今年の入選作にはどのような傾向があると感じますか?

VFXを取り入れた作品やアニメーションが本当に増えましたね。映画をつくるための機材が進化して、それが誰でも扱える時代になったなと。ああいった特殊な技術って、少し前まではちょっと大仰なものだったと思うんです。でもいまではそれがフラットに扱えるようになったのだと肌で感じています。それから、出演している方々の演技がどんどん上手くなってきていますね。普段から役者をされているのか、監督のお友だちなのか分かりませんが、とにかく上手い方が増えた印象があります。自主映画を中心に役者の活動をしている方の層が厚いというのもあるのでしょうが、これもまた機材の進化によるものが大きい気がしています。

──撮影したお芝居をすぐにチェックできると。

そうです。なんと私は30年ほど、PFFのディレクターを務めているのですが、いろんな作品を観ていて、そもそもの映画のつくり方が変わってきているのを感じます。機材が変わればつくり方が変わる。するとそれに合わせて自然と演技の質も変わってくる。役者さんの演技の質に注目してみても、時代の変化が感じられますね。

──撮影現場がどのようなものなのか気になりますね。

そうそう、そうなんですよね。それで今回は招待作品部門として、「自由だぜ!80~90年代自主映画」と題した特集上映を行うんです。PFFでは「デジタルアーカイブ」という、過去のフィルム入選作品をデジタル化する活動をはじめました。そのアーカイブ収蔵作品から、10年区切りで、当時大変な話題を呼んだ作品を紹介するというプログラムを昨年からはじめたんです。観ていただきたい作品は、溢れんばかりにあるのですが、いくつかのテーマを設けてセレクションしました。まさに、「ここだけでしか観ることのできない貴重な上映」になりますよ。映画としての面白さだけでなく、当時の町の風景にも心躍りますよ。現在、プロとして活躍する方々の原点となった作品も多数あります。あの頃って、8ミリフィルムでの映画づくりのピークだったわけですが、一巻でおよそ3分しか撮れなかったんですよね。フィルムは高いし、現像にも時間とお金がかかる。それでも多くの人が映画づくりに情熱を燃やした。いまの映画づくりの常識とかつての映画づくりの常識は、圧倒的に違うでしょうね。

『この道はいつか来た道』(浅野秀二監督)

──それでいうと今年の招待作品部門では、「はじまりの映画 ~創るよろこび、観る驚き~」として、映画が誕生して間もない頃の作品たちが上映されるんですよね。

はい。次代を担う入選監督の作品を中心に据えつつ、映画史を俯瞰することのできるラインナップになっています。1895年のリュミエール兄弟の作品からはじまり、映画史に燦然と輝く『戦艦ポチョムキン』(1925年)まで、映画を発明した人たちの、映画をつくる喜びに溢れた3つのプログラムです。1回しか上映のないプログラムの多いPFFですが、これらはなかなかスクリーンで観る機会がありません。なので2回上映します。映画づくりもそうだし、映画そのものも時代の移り変わりとともにどんどん変わってきている。その事実を私自身、再確認したいと思っています。時代が変わっても、人の心を打つ作品は変わらず存在する。それっていったい何なのだろうなって。

≪映画のはじまり 傑作選≫
CinEd,The Cinema of Origins,A Little Jules Verne

──招待作品はどのタイミングで決まっていくのですか?

アワード作品のセレクションと同時進行ですよ。中心にあるのはアワードなので、入選監督たちのことを想定したプログラミングを心がけています。ですからやっぱり、招待作品として何を上映すべきかというのは、セレクションをしているうちに変わってきます。でもたとえば、中村靖日さんの特集は、急きょ決まりました。うちは小さな映画祭なので小回りが効くんですよ。本当に突然のことだったので驚いていますが、中村さんの関わった映画をみんなで観ることが彼を偲ぶ時間になればと思います。

中村靖日さん主演作『運命じゃない人』(内田けんじ監督)

──映画史を俯瞰することができるラインナップになっているとのお話が出ましたが、すごくユニークな並びですよね。

PFFスペシャル映画講座では、「真似っこ万歳!」と題して、イエジー・スコリモフスキ監督の『EO イーオー』(2022年)とロベール・ブレッソン監督の『バルタザールどこへ行く』(1966年)を上映します。スコリモフスキ監督にとって『バルタザールどこへ行く』は永遠に忘れられない最高傑作で、人生で唯一泣いた映画なんですって。若き日の映画体験をずっと大切にしていて、「いつかあんな映画を撮りたい」という夢を80代にして叶えた。これってすごく素敵な話じゃないですか。学校教育である種の正解を教わることよりも、自分が何に心を動かされたのかを考え続けることが何よりも大切だと私は思うんです。いまの時代はそれぞれの作家が所属している学校なり団体なりのサイズに収まることが、映画のみならずですが、大事にされているように感じることがあります。ですがその先はとても長いので、いろいろな想いを自分なりに実現していってほしいと感じたりもするんですよ。

『EO イーオー』(イエジー・スコリモフスキ監督)
© 2022 Skopia Film, Alien Films, Warmia-Masuria Film Fund/Centre for Education and Cultural Initiatives in Olsztyn, Podkarpackie Regional Film Fund, Strefa Kultury Wrocław, Polwell, Moderator Inwestycje, Veilo ALL RIGHTS RESERVED

──そのお話を広げると、生誕100年の増村保造監督の特集上映があるのが素晴らしいですね。いろんな枠組みを取っ払ってしまった作家ですから。

めちゃくちゃですよね(笑)。でもそれでいい。作品に説得力さえ持たせられれば、それでいいと思うんです。映画なんだから。昔はスタジオごとに映画がつくられていたので、確実に競争があった。「俺はもっとやれる」みたいなものを、もっと出していいと思うんですよ。現実社会で起こらないことが、映画の中では起こったっていい。どうしてもコンプライアンスに過敏になってしまっているきらいはありますよね。入選監督たちにお会いしましたが、みなさんとてもキラキラしています。それぞれの映画に込めた想いも本当に強いですしね。増村映画を観て、若い才能たちが暗黙のルールの解体に向かっていったらいいなと。『盲獣』(1969年)の緑魔子さん、『大地の子守歌』(1976年)の原田美枝子さん、『動脈列島』(1975年)と『曽根崎心中』(1978年)の梶芽衣子さんがゲストとしていらっしゃいますから、当時の貴重なお話も聴けると思います。

緑魔子さん出演の『盲獣』は、4Kデジタル 日本初上映!
©KADOKAWA 1969

──最後に、今年はどんな映画祭になりそうでしょうか。ディレクターとしての願いも込めて、お聞きかせください。

さあ、どんな映画祭になりますかね(笑)。今年の最終審査員は、『セノーテ』の小田香監督、作家の小林エリカさん、『PERFECT DAYS』で共同脚本・プロデュースを担当された高崎卓馬さん、俳優の仲野太賀さん、そして𠮷田恵輔監督の5名に務めていただき、どの作品にどの賞を与えるかは、みなさんに一任しています。クリエイティブに強い関心があって、優しい方々です。きっと若い才能を持った人たちの力になってくださるのではないでしょうか。PFFが目指しているのは、劇場を出た方が「ああ、自分もこんな映画をつくりたい」と思える映画祭にすることです。映画は観るだけのものじゃない。つくる楽しみもある。そしてそれは簡単なことではないけれど、決して特別なものでもない。自分にだってできるのだと思ってほしいんです。ここで増村映画と出会って、真似しようという人が出てきたっていいじゃないですか。とにかく、ひとつとして観なくていい作品はありません。仕事も学校も休んで、ぜひいらしてください。あら? まずいかな、そんなこと言っちゃったら?

取材・文:折田侑駿

「第46回ぴあフィルムフェスティバル2024」
日程:9月7日(土)~21日(土)
会場:国立映画アーカイブ ※月曜休館


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