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【PFFアワード2024】セレクション・メンバーおすすめ3作品《♯05新谷和輝》

PFFの予備審査リストには、ひとつひとつの映画の作品名と尺、監督名しか載っていない。普段映画を見るときはあらすじや映画祭の受賞歴、監督の経歴などいろいろな情報を前もって知っていることが多いが、ここではほぼまっさらな状態で映画に曝される。だから何年やっても審査に慣れることはなくて一回一回の審査にはいつも緊張や不安、期待が伴うのだけれど、そのぶんこちらがまったく気づいていない感覚が映画によって開かれたときには嬉しくなる。

『わたしのゆくえ』

『わたしのゆくえ』は、探偵社の編集部で働く主人公の女性が出勤する足取りが丁寧に撮られて、日常が具体的に浮かび上がるのがまずいい。シンプルな構成や物語ながら、彼女の些細なアクションが引き起こす一種の違和感は大きい。それはこの映画に「ガザ」や「ラファ」という言葉がたびたび出てくることに関係する(今年の私の審査担当作品でパレスチナに触れているのはこの映画だけだった)。「わたし」はどうして「わたし」であって、映像に映る「あなた」や「かれら」ではないのか、なぜ「ここ」はこうで「あちら」はああなのか。素知らぬ顔して進んでいく強靭な日常に対する、抵抗のひとつのあり方がここにはある。

『ちあきの変拍子』

『ちあきの変拍子』が描く自己や友人との共存のあり方にはハッとした。学校を舞台に友情をテーマに据える応募作は多いけれど、よくある人物設定や展開を超えるのはなかなか難しい。『ちあきの変拍子』は練られた脚本と身近な非職業俳優の好演、それを引き出す確かな演出力があわさって、ちあきという人間が生き生きと動き、彼女の葛藤が具体的に響いてくる。米子高専放送部の作品はここ数年の審査でいくつか見てきて、その真摯さやラストの爽やかさにつねに胸を打たれてきたので、今回やっと入選に至って嬉しい。

『アイスリンク』

 今年のアニメーション作品は、短い尺で強いインパクトを残す作品が多かった。中国から届いた『アイスリンク』は、ポップな絵柄のキャラクターに幻想的な風景や微細な環境音を重ねて、見る者の根源的な感覚や記憶を呼び覚ます。今年の応募作で最も詩的な作品だった。『Into a Landscape』は印象派の風景画のなかに入り込んでその世界を自在に飛び回るような作品で、アニメーションにしかできない表現が存分に生かされていた。

『Into a Landscape』

 ひとつの映画は、その映画を作る人の世界の見方に等しい。9月の映画祭では、ここに紹介した作品をはじめとする様々な作品を介して、新しくてユニークな世界の捉え方に出会ってほしい。

セレクション・メンバー:新谷和輝(ラテンアメリカ映画研究者)

「第46回ぴあフィルムフェスティバル2024」
日程:9月7日(土)~21日(土)
会場:国立映画アーカイブ ※月曜休館

「ぴあフィルムフェスティバル in 京都2024」
日程:11月9日(土)~17日(日)
会場:京都文化博物館 ※月曜休館

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