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【PFFアワード2024】セレクション・メンバーおすすめ3作品《♯13中根若恵》

物語を紡ぐこと、映画を作ることへの自己言及的なコメンタリー

今回の審査では、さまざまな境界――ジャンルやスタイルなど含め――の間を、遊び心と実験精神をもってたゆたうような作品の多さが目を引きました。そのなかでもひとつの傾向として挙げられるのが、虚構と現実の間を曖昧にしながら、物語や語りのフレームそのものと戯れるつくり手のクリエイティブな感性です。

『アイスリンク』

優れた色彩とデザインの感覚に裏打ちされたユニークなスタイルが特徴的な短編アニメーションアイスリンク(溜水場)は、スケートリンクの会場を待つ男女が言葉を交わしながら、記憶を想起していく行為が幻想的な風景とともに紡がれています。子ども時代の日常がノスタルジックな記憶として語り起こされる物語の入れ子構造が、その日常を幻想的な光景として描き出すことに寄与していました。何かを思い出すという行為に伴う、現在と過去の時間軸や現実と虚構の境目がぼやかされていくような感覚が、アニメーションという媒体の特性を十分に活かして表現されている非常に魅力的な作品でした。

『これらが全てFantasyだったあの頃。』

また、物語や語りのフレームの実験がなされる場として多くのつくり手たちに採用されていたのが「映画を作ることに関する映画」という自己言及的な作品の構成・テーマでした。そうした「メタ映画」とも言える作品群の中でも特に目を引いたのがこれらが全てFantasyだったあの頃。』です。主人公は、ふいに開いた脚本のページに誘われるようにして役者として仲間たちと過ごした日々を想起していきますが、そこに自室に閉じこもって脚本を書く男の閉塞感に満ちた日常が挟まれます。映画では、ふたつの世界線、そして虚構と現実が何層にもわたって複雑に重なり合った構造を見せており、それが味のある「違和感」を作品全体にもたらしています。物語の構造の位相において、それを複雑化させながらも戯れるような遊び心を通して「表現をすること」の苦悩、「何者かになりたい」という焦燥感が表現されている野心的な作品だと感じました。

『さよならピーチ』

同じく「メタ映画」として独特の魅力を放っていたのが『さよならピーチ』です。映画制作の大学・専門学校を舞台にする本作では、白黒サイレント映画の中から現実世界へと出てきてしまった少女をめぐって学生たちが繰り広げるドラマが展開されます。主人公が見せる大人になることへのためらいが、典型的なカミング・オブ・エイジものとして本作を特徴づけつつも、それが映画というメディアへの自己言及的な問いと重ね合わされることで物語に広がりが生まれていました。役者として、脚本家として、監督として映画に関わるそれぞれの登場人物の丁寧な描写も本作の魅力であり、映画を作る・見るという行為に結びついた彼女たちの生き方が爽やかな余韻とともに描かれる作品でした。

セレクション・メンバー:中根若恵(映画研究者 )

「第46回ぴあフィルムフェスティバル2024」
日程:9月7日(土)~21日(土)
会場:国立映画アーカイブ ※月曜休館

「ぴあフィルムフェスティバル in 京都2024」
日程:11月9日(土)~17日(日)
会場:京都文化博物館 ※月曜休館

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