【PFFアワード2024】セレクション・メンバーおすすめ3作品《♯04折田侑駿》
現代における「わたし/あなた」とは?
今年はじめてPFFのセレクションを担当しました、ライターの折田侑駿と申します。692本(!)もの応募作の中から選ばれた、19の作品たち。審査の過程では、じつに多種多様な「映画」と出会うことができました。
印象的だったのは、私たちの日常をリアリスティックに描いた“日常系映画”や、映画制作というものをモチーフにした“映画づくり映画”が多かったこと。時代と社会はウィズコロナからアフターコロナへ。応募作のある種の傾向から、映画作家の方々がいま何に対して切実さを感じているのかに触れられた気がします。
それから、多くの作品から個人的に読み取ることができたのが、アイデンティティ・クライシスの問題。社会が目まぐるしく変化する現代において、物事の価値観は加速度的に変わっていきます。それにより何かしらの対象と個人の関係、あるいは「わたし」と「誰か」の関係も必然的に変わってくる。社会が変われば、この「わたし」というものも変わらざるを得ません。私たちのアイデンティティは絶えず揺さぶられ、不安定な状態にある。「あなた」もそうなのではないでしょうか。
藤居恭平監督の『わたしのゆくえ』は、とある探偵社の編集部で働くひとりの女性の日常を綴ったものです。私たち観客は彼女の一挙一動を観察することになります。劇中の彼女は主体性を持った人物のように思えますが、観客という存在があることによって、この主体性は完全なものではなくなっていく。つまり、「わたし」が揺らぐわけです。
一組の男女の遊戯的な会話劇が展開する山田遊監督の『あなたの代わりのあなた展』は、男性が求めていた“ここにはいない誰か”を女性が演じます。目の前の彼女はこの世界にただひとりの存在なわけですが、つねに誰かの代わりを務めるわけです。すると自然と男性にも変化が生じる。「わたし=彼女」が揺れると、「わたし=彼」もまた揺れるのです。
畔柳太陽監督の『松坂さん』も、一組の男女の関係を描いた作品です。映画の専門学校に通う主人公の男性は、バイト先の同僚である女性に心を惹かれ、彼女に当て書きした脚本を執筆しています。「わたし=彼」は「あなた=彼女」のことを知った気になりますが、それは限られた情報から立ち上がったイメージに過ぎない。そこに「わたし=彼女」の実像はないのです。
ひがし沙優監督の『正しい家族の付き合い方』は、タイトルから分かるとおり、“家族”というものを描いています。しかも、かなりユニークな視点と手法で。物語は主人公の少女の一人称視点で展開していきますが、やがて驚きの仕掛けが施されていることが明らかとなり、「わたし=彼女」のアイデンティティは激しく揺さぶられます。そこで観客のひとりである「あなた」は何を想うでしょうか。
ここに並べた4つの作品を前にしてみて、確たる「わたし」や「あなた」というものは存在しないのではないかと実感します。せざるを得ません。私たちは曖昧で不安定で絶えず揺れている。ここに苦しさのようなものを覚えてしまいますが、そういう時代なのだから、と受け入れるしかないのかもしれません。いえ、何もあきらめようというのではありません。「わたし」を獲得しようともがき、「あなた」の存在を認めようとする。それがこの社会で他者とともに生きるということなのではないでしょうか。
映画というものは、「わたし」とは何なのかを知り、「あなた(他者)」を知るものだと思います。この映画祭で出会えますことを!
セレクション・メンバー:折田侑駿(ライター)
「第46回ぴあフィルムフェスティバル2024」
日程:9月7日(土)~21日(土)
会場:国立映画アーカイブ ※月曜休館
「ぴあフィルムフェスティバル in 京都2024」
日程:11月9日(土)~17日(日)
会場:京都文化博物館 ※月曜休館