伊藤キム×岩渕貞太「カラダノオト」対談 <前編>
キム:こんにちは。
貞太:こんにちは。
キム:今日はGEROの新作「カラダノオト」の通し稽古を、岩渕貞太さんに観ていただきました。
貞太:はい、観ました。
キム:対談ということで、感想とか、思ったことを伺いたいなと。ダンスの事だけじゃなくダンスの周辺に関する事も含めて。
貞太:今日キムさんに呼んでいただいた理由はいくつかあったと思っています。
もともと2003年から2005年に「伊藤キム+輝く未来」っていうカンパニーでキムさんにお世話になっていて。それ以前にも「劇場遊園」とか「階段主義」という作品でキムさんとお仕事をさせてもらう機会がありました。その後カンパニーで2年くらい踊らせていてただいてっていうのと、
貞太:去年、GEROの稽古に自分の主催する「ゆる研」という、カンパニーでは無いんですが、稽古研究会のメンバーと「GEROと稽古しませんか」ってお誘いいただいて、何回か一緒に稽古させていただいた流れからっていう感じでしたかね?
キム:そうですね。
貞太:(他人の)稽古場って見れる機会はそんなに無いじゃないですか?でも、前から合同稽古とか道場破りみたいのって無いのかな?やりたいなって思ってたので(合同稽古は)面白かったです。また、カンパニーとして会うと、カンパニーの色がありますよね。
キム:はいはいはい。
貞太:自分のやっているワークをGEROの人達と一緒にやった時に、(ゆる研とGEROでは)全然展開が違うっていうか。やってることの伸び先が違うみたいな。
キム:伸び先?
貞太:遊び方が違うっていうんですかね?題材の。自分のやっているワークって「こういうものだ」と思っていたけど、違う人たちがやるとこっちに行って、こういう遊びができるんだって。
キム:そこね、俺すごい興味深くて、「キムさんの遊び方」ってどんなの?
貞太:あはははは。自分では何かよくわからないみたいな?
キム:うん。
貞太:ただ壊していくのではなくて、「ただ自由ですよ」という事でもなくて、ちゃんとルールを作る事と、そのルールをちゃんとはみ出す事を往復する。
即興なんだけど、その場でまずルールみたいな道筋を作る。それをすぐひっくり返したり、でもすぐ戻れたりとか、ルールを作る事と壊す事を往復するみたいな。
そのルールも初めから決めてやるのではなくて「あ、今この筋道通るな」みたいなのをその瞬間に捉えなきゃいけない。だからまあ(自分が稽古でやっていた時は)すごく怖かったですけどね(笑)
「そんなこと毎回できるのかなぁ…」って。まあ失敗してましたけど。
キム:基本的に僕は「何やっても良いですよ」「好きにしてください」と。けど、どうしても「違うな」と思ったらその時は言うから。「だから何も言われない限りどんどん先走って、自粛されるよりはバンバンはみ出していって」って、確かその時も言っていたと思うんだけど。
そうしてもらう事で僕に刺激を与えてくれて、「あ、そうか。そういうやり方あるんだ」ってそこで気づけるから。そうしてくれないとちょっと、自分の力だけじゃできない。
−ダンサーだから踊ってしまえる
貞太:さっき通しを見せていただいて、一般的に伊藤キムさんって踊る人、「ダンサー」だと思うんですけど。
仮に質問して「踊りとはなんぞや」みたいな話を聞きたいと思ってるわけじゃないんですけど。(作品内に)展示みたいなシーンがあるじゃないですか?体を展示するシーン。「伊藤キム+輝く未来」時代からキムさんが「身体を展示する」ってことは何かの一つとしてずっとある。作品に入ってくるという。
キム:そうですね。
貞太:(その稽古の中で)「パフォーマンスし過ぎない!」「踊りになっちゃう」って(キムさんが)言ってる。
私がお世話になった室伏鴻さんも「踊るんじゃねえ!」とか(稽古中に)怒鳴られたりして。「踊るんじゃねえ」と言ってるんだけど「それが踊りなんだよ」って言われたりとか。
(キムさんが)踊りを作ってる上で「踊っちゃってるよ」って言ってるのか、それとも「踊りじゃないんだ」ってどういう意味で言っているのかなと。
キム:あのシーンで、服をだんだん脱いでいくんですよね。脱ぐべき服を脱いだ後でも、その動きを継続していく、という振付なんですよね。
(そうすると)だんだんパントマイム的というか、そういう風になってきて「ここに服があるかのように」こうするとか(になるけど)別にそんなことやりたいことじゃない。
じゃあ何かっていうと、普通に脱ぐという行為でもなくパントマイムでもなく…。「第三の動き」というか「変な脱ぎ方」みたいになっていって。でその、それが日常から離れていってだんだん「ダンス」になっていく。その道筋そのものはアリだと思うけど、通常は。
だけど、この作品の中であの場面でやっている事でいうと…(ちょっと違うんじゃないか?)
キム:なんか思ったのは…いつも僕らは稽古で「日常から離れましょう」「体を非日常にしましょう」ってやってる訳ですよ。そうやっていると、身体の中に回路がだんだん出来ていく。で、段々ダンスに近づいていくための回路が作られていく(けど、今回の稽古では)その回路が勝手に働き出しちゃって、「勝手に身体がダンスしちゃってるな」という気がして。
この場面でそれはちょっと違うなって思ったんだよね。
もしあの、服を脱ぐということじゃないところでやってたとしたら全然問題なかったと思う。
貞太:うん。
キム:安易に、動きを追求しないまま自分がすでに持っている回路に頼っちゃってる感じ。ダンサーだから。それ違うんじゃないかなと思って。
僕もはっきりした答えは見つかってないんですよそこは。
みんな「エア脱ぎ」って言ってるんだけど。「エア脱ぎ」の正しいやり方は、絶対見つからないというか。
ダンサーだから踊っちゃえるんですよね。「そんな安易にダンサーだから踊っちゃっていいのか?」って疑問がふっと出てきて。
貞太:「エア脱ぎ」のシーンで、ちょっとそこをやってみていた時に(見ていて)何とも言えない気持ち悪さがあって。ネガティブな意味じゃなくて。
きれいにパントマイムできたら、「透明の服が見える」とか、正解かどうか、「上手くできているか」みたいな感じなると思うんですけど。
何とも言えない…「服脱い…脱いで…?」脱いでるとか、脱いでるとかじゃない「ダンス」でもなくて…「ああ…!」みたいな。
ちょっと気持ち悪さというか。怖いシーンを作るとかでも全然無いと思うんですけど、「うおう…!」ってなるような。
パントマイムとかダンスだって思えたらすごい安心感がある。「分かった。こう観ればいいのね」っていうのが(あるけどこの作品はそうじゃない)
貞太:さっき最初に話してたことを思い出すと「脱いでる、だけどそうじゃない」とか、ダンスに近づくかと思うと、すっとすり抜けて違うものが気になったり、と思っていると「脱いでた!」とか。 捕まえようとすると裏をかかれたり、気持ちよく騙されて行く感じ。
キム:ルールができていく。そのルールから外れる、けどまたルールの枠に戻るっていくっていう行き来をしてて。
「ルール」を「ダンス」って言い換えると、「ダンスができる、ダンスじゃなくなる、またダンスになる」っていうこの行ったり来たりが、それはそれで面白いなぁって。
そういう境界線を自由に行ったり来たりしているのって、お客さんからすると、惑わされてるというかそういう風にもなるんだろうし。そういう空間を作れるといいのかなっていう気がしますね。
で、ダンスはそのための手段。ダンスを見せる事が目的じゃなくて、ダンスを使って人間の不安定さだったり変幻自在さが見えてきたら良いかな。
(後編に続く)
動画版URL↓(前編)
https://youtu.be/SNBfoQH7CCg
後編↓
https://www.youtube.com/watch?v=2cT6pJ4H_FY
公演予約ページ(Google form)↓
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Gmailからのご予約→info@gero.kim
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件名:カラダノオト予約
本文:ご希望の公演日時、お名前、一般・学生・障害者等の券種、枚数、
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※公演情報※
「カラダノオト」
「身体の音」を踊る
「身体ノート」を綴る
2019年の『踊ってから喋るか?喋ってから踊るか?』に次ぐ、フィジカルシアターカンパニーGEROの3年ぶりの新作。
言葉を発するという行為を見つめ直し、「息~音~声~言葉~意味」というルートを、身体という道具を使って巡るパフォーマンス。身体が発する音をサウンドアートにまで高め、またダンサーたち自身がインスタレーションの素材となる。
現代社会での「言葉の役割」と「人間のあり方」をフォーカシングしてゆく。
構成・演出・振付:伊藤キム
出演:青沼沙季、甲斐美奈寿、KEKE、志筑瑞希、篠原健、鈴木しゆう、鈴木淳、根本和歌菜、伊藤キム
衣裳アドバイザー:臼井梨恵
音響プラン:星野大輔
音響オペレーション:常田千晴
舞台監督:川口眞人
宣伝美術・PV製作:KEKE
協力:BankART1929、横浜市神奈川区民文化センターかなっくホール、伊豆牧子、増田愛祐美、本永直子、高橋風華
制作協力:レイヨンヴェール、呉宮百合香
企画・制作・主催:フィジカルシアターカンパニーGERO
【スケジュール】(開演の30分前よりチケット引換開始)
3/18(金)19:00~
3/19(土)12:00 ~ / ☆16:00~
3/20(日)★12:00~ / 16:00〜
3/21(月祝)15:00~
開演の30分前よりチケット引換開始。
☆終演後「アフター突っ込んだトーク」開催
★20日(土)12:00~の回のみ未就学児の方でもご観覧いただけます
【チケット料金】
フリースペースでの観覧となります。(3/20(土)12:00の回を除き未就学児入場不可)
一般前売:3,500円
学生:2,500円 ○入場時に身分証明証をご提示ください。
※当日券は各料金500円増し
障がい者割引:ご来場時に障がい者手帳ご提示で、お支払いいただくチケット料金から1,000円をキャッシュバックいたします。
【チケット取扱】
Googleformからのご予約→ https://forms.gle/NQz9cczgaGHNJBwC7
Gmailからのご予約→info@gero.kim
こちらのアドレスに以下を明記の上お送りください。
件名:カラダノオト予約
本文:ご希望の公演日時、お名前、一般・学生・障害者等の券種、枚数、
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【会場】BankART Station
〒220-0012 横浜市西区みなとみらい5-1 みなとみらい線「新高島」駅B1F
http://www.bankart1929.com/bank2020/space/station/index.html
【お問い合わせ】 フィジカルシアターカンパニーGERO info@gero.kim
伊藤キム
1987年、舞踏家・古川あんずに師事。1995年「伊藤キム+輝く未来」を結成し、バニョレ国際振付賞(1996)、第一回朝日舞台芸術賞・寺山修司賞(2002)などを受賞。2005年からの1年間、バックパックを背負って半年間の世界一周の旅に出る。2011年の「輝く未来」の解散後は、京都・本能寺創建600年記念イベント『本能寺のD』の演出・振付・出演(2013)、六本木アートナイト2014パレードの監修、小中高生へのワークショップや振付、おやじが踊って給仕する「おやじカフェ」のプロデュースを国内外で行う。青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム修了。2015年、フィジカルシアターカンパニーGEROを結成し、ダンスにヴォイスや言葉を取り込んだ新しい創作スタイルを追究している。
フィジカルシアターカンパニーGERO
振付家・ダンサーの伊藤キムによって2015年に結成。ダンス、演劇、音楽、マイムなど、様々なバックボーンを持つメンバーで構成される。体内に存在する生々しい感覚や人と人との関係のあり方を、独特のユーモアやアイロニーを交えて表現。身体という楽器で言葉を演奏するスタイルを探求し、フィジカルシアターの新しい境地を開拓している。