コーヒーと物理学
はじめに
物理学をやっている人はコーヒー好きが多いです。
自分の周りにそういう人が多いだけかもしれませんが、皆さんの周りはどうでしょうか。私自身も例にもれず、コーヒーと物理学が好物です。
コーヒーのカフェインを求めて飲む人もいますが、カフェインだけなら緑茶やエナジードリンクでもいいはずです。なぜコーヒーなのでしょうか。
ここではコーヒーと物理学にどんな関係があるのかを考えてみようと思います。コーヒーでも片手にゆるく読んでもらえたらと思います。
ただ最初に断っておきますと、私はコーヒーについて何の専門知識も持っていない素人なので、必要な情報は調べながら書いています。間違いなどもあるかもしれませんので話半分に読むのがオススメです。参考にしたページのリンクを本文中に貼ってありますので、さらに詳しい情報が気になる方はそちらを参照するようにお願いします。
あらためてコーヒーって?
よくコーヒーを飲む私ですが、改めてコーヒーが何かを聞かれるとうまく答えられません。世の中わからないことだらけです。そこでコーヒーとは何かというところから始めたいと思います。いまさら自明かもしれませんが、そこから非自明な結論が見つけられたら面白いと思います(おおげさかも)。
コーヒーは、コーヒー豆を焙煎したものを挽いて粉末状にしたものからお湯や水などを使って抽出した飲み物です。一般的に黒色や茶色の半透明な液体です。味は様々ですが、主要なところでいえば苦みや酸味がある飲み物で、ホットでもアイスでもおいしく飲むことができます。コーヒーの香りは特徴的で、焙煎したことによる香ばしいものです。この香りにはリラックス効果があることが知られています(参考リンク:コーヒーの「香り」を知って、くつろぎタイムをもっと楽しもう)。豆の産地によって少しずつ味や香りが違うため、いろんな豆を試してみるのも楽しみの一つです。また、焙煎の方法や豆のひき方によっても味が変化し、奥深いコーヒーの世界になっています。
コーヒーに含まれる成分として代表的なものはカフェインです。この成分は人間の交感神経を刺激し、目覚ましや、体脂肪燃焼、記憶力の向上、疲労抑制、運動能力向上といった効果があります(参考リンク:コーヒーのカフェイン量はどのくらい?「カフェインレス」「ノンカフェイン」など言葉の違いや効果について解説)。よく眠気覚ましとしてコーヒーが飲まれるのはこのためです。現状では真偽のほどは判断できませんが、ほかにも結構いろんな効能があるようですね。時間があればコーヒーについての文献をあさってみるのも面白いかもしれません。
コーヒーの原料になるコーヒー豆はコーヒーノキというアカネ科の植物の実から取り出される種です。また、この実は熟すと赤くなりサクランボのように見えることからコーヒーチェリーとも呼ばれるのだとか(参考リンク:コーヒーの豆知識)。農林水産省のWebページによると「豆」の定義はマメ科の植物の種子ということになっているそうなので、実はコーヒー豆は「豆」ではなく「種」といえます(参考リンク:日本で食される主な豆)。感覚的にも、豆はさやに入っているもので、果実から取り出すものではないように思います。私見になりますが、これは調べて初めて知りました。「コーヒー豆」という名前なので、てっきり豆なのかと思っていました。意外と調べてみると名前から推測できない事実が出てきますね。
自分語りとコーヒー
コーヒーとは何ぞやということが少しわかったところで自分のコーヒーの飲み方を語ってみようと思います。
私は読書や計算をするとき、文献を調べたりするときなどによくコーヒーを飲みながらやっています。経験則ですが、コーヒーがないときよりもあるときのほうが集中力が長続きして、作業がはかどる気がします。これは前述したコーヒーの効能によるものでしょうか(たぶんプラセボ込み)。
基本的にブラックコーヒーを飲みます。作業の片手間に飲むので、お茶菓子的なものは用意せず、大きめのマグカップに入れてちびちび飲むのが最近のスタイルです。ブラックであれば何でもおいしく飲めますが、ホットでいただくことが多いです。ホットだと、コーヒーの香りがよく立つので香りが好きな方にオススメです。
コーヒーの産地によって味が違うことは先の説明でも書きましたが、個人的にはコロンビアコーヒーが飲みやすくて最近のお気に入りです。味のバランスがよく、作業の邪魔にならないのでよいです。香りを大事にしたいので豆で買ってきて、中細挽きくらいで淹れることが多いですね。ただ、コーヒーは好きですが、飲みすぎると胃が痛くなるので3杯までにしています。胃が弱い方は飲みすぎ注意です。
最近は作業するときに常にコーヒーを飲むので、コーヒーを入れると作業しないと落ち着かない体になってしまいました。逆に、作業しているとコーヒーが欲しくなるので、脳内でコーヒーと作業が共起されるようにニューラルネットワークが調整されているようです。
朝起きてからコーヒーを入れるというありきたりなルーティンをこなしています。これは意識高いことをアピールしたいわけではなく、作業するためにコーヒーが必要なためです。朝に飲む分と職場で飲むためのコーヒーを淹れておきます。朝はいろいろやることが多いですが、コーヒーを淹れる時間を確保するようにしています。
マシンは使わずにハンドドリップしているので、その間はコーヒーと向き合う必要があります。コーヒーを淹れながら今日何をするべきタスクを頭の中で考えたり、アイデアを整理したりするようにしています。忙しい中でもなるべく自分の考えをまとめる時間を作るようにしたいものですが、あんまり考え事をしているとお湯をこぼしたりするので注意です。逆に、疲れて何も考えたくないときは目の前のドリップに集中します。単純作業に没頭すれば、頭を休めることができるし、コーヒーはおいしくなって一石二鳥です。
大学の研究室にいたころは、コーヒー片手に雑談や議論したりすることも多かったように思います。そういった雑談から思ってもみなかった情報が得られたり、リフレッシュできたりして、また作業に戻れるのです。物理に永久機関はありませんが、これは無限ループかもしれません。
作業の合間に休憩がてらコーヒーを入れて、少し話したりしてみるというのは研究生活中での重要なルーティンといえます。これは私だけというわけではなくて、周りの大学院生にもコーヒーを飲みながら作業をしている人が多かったです。また、学会や研究会などに行くと、コーヒーが支給されることがあり、こぞって飲みに行った記憶があります。
物理学者とコーヒー
自分の例をいくら語っても1つのサンプルでしかないので他の人がコーヒーとどう付き合っているかを調べてみました。
コーヒー好きな物理学者は多いですが、著名なところでいうと寺田寅彦です。寺田氏は物理学の研究以外にも文学者として随筆を多く書いています。彼も幼少期からコーヒーの魅力に取りつかれ、研究の行き詰ったときにたびたびコーヒーの力を借りていたようで、随筆の中で「コーヒー茶わんの縁がまさにくちびると相触れようとする瞬間にぱっと頭の中に一道の光が流れ込むような気がすると同時に、やすやすと解決の手掛かりを思いつくことがしばしばあるようである」、と記述しています(参考リンク:コーヒー哲学序説)。
コーヒーの香りとともにアイデアを思いつくとは、なんともオシャレな感じです。私もそういう体験してみたいです。上記の随筆は青空文庫で無料で読むことができるので一読してみると面白いかもしれません。ほかにも身の回りの物理についての興味深い考察がいくつかあるようです。
手元にある本を調べてみると、物理学者がコーヒーを重視している記述は簡単に見つけることができます。たとえば、「江沢洋選集 物理の見方・考え方」には学習院大学の理論物理学研究室でコーヒーを飲みながら議論するという記述があります(参考リンク:物理の見方・考え方)。どうもコーヒーを飲みながら議論するというのは物理学者の一般的な習性のようです。もし、あなたがすでにコーヒーを飲みながら作業することにハマっているとしたら、立派な物理学者として半歩、いや1歩踏み出しているといえるでしょう(過言)。
話は少し変わりますが、コーヒーそのものの物理も研究が進んでいるようです。コーヒーが持つ流体的な特性やコーヒー豆の加熱による物理的な変化など、なかなかに興味深いものがあります。これらの詳細は応用物理学会が刊行する雑誌「応用物理」の「物理学で迫る『コーヒーのおいしさ』の仕組み」という記事にまとまっていて面白いです(参考リンク:物理学で迫る「コーヒーのおいしさ」の仕組み)。また、物理学会誌にもコーヒーの湯気に関する話題があるようです(参考リンク:コーヒーの湯気:水面に浮遊する微小水滴のダイナミクス)。コーヒーは研究生活に欠かせないアイテムであると同時に、それ自体が興味深い物理を持っているようです。研究の合間に飲んでいたコーヒーそのものに疑問を持ち、結局それ自体を研究してしまうというのは、なんとも物理屋らしいという感じがしますね。
コーヒーをお供に計算したり議論したりするという営みは物理学者の文化の1つなのではないかと思います。もし代用として紅茶やエナジードリンクを脇に置いたとしても、それでは同じ風情は感じられません。コーヒーは単なる眠気覚ましではなく、議論の触媒の役割を持っているとも考えられます。コーヒーの香りが漂う研究室というのはそれだけでよい研究室の条件を1つ満たしているといえるかもしれません。
まとめ
コーヒーにはカフェインだけでなく、香りによるリラックス効果やその他多くの効能がある。
物理学徒や物理学者が研究しながらコーヒーを飲むというルーティンは一種の文化のような位置づけになっている。
コーヒーそれ自体も流体的に興味深い物理をもっている。