【歌集】コロナ禍にて
あの空が輝く頃に戦時下の卒業式で泣かないでよね
病室に心電図の音響く時疲れた医者は何を問うのか
苦しみの果ての命の絶えんとす面会謝絶会えない二人
愛してる嘘だと言ってお願いよあなたみたいな人がどうして
茫然と立ち尽くす夏騒がしい世間のニュース死なないでよね
死の影を素知らぬ顔で通り過ぎ明日は我が身の不慣れな自信
安全な表情隠す防護膜捨てたみたいにマスク落ちてる
お前さへ生きてゐたなら其れで良いさう云ひ残しつと絶命し
天命を全うできぬ者達の墓石が並び歌ふ虫の音
虫の音の交響曲は澄み渡り月影冴やかあの約束を
君がもし死んだりしても他人だし思い出したり泣いたりしない
疫病の恋人達を引き裂きてガスマスク邪魔キスができない
独りよりモニター越しの会話でも君と会いたい触れられずとも
遠距離の恋人達を引き裂いたこんな時代に愛し合う事
啞になり盲の聾になりとても汝が体温ば嗅がざる能はじ
ワクチンの熱に浮かされ見た夢は奇妙な幻燈異形の幻
都市封鎖人っ子一人いなくなった街に佇む一匹の猫
8時まで緊急事態宣言下吉牛食べる我労働者
第7波流行り病は収まらず人の想いが加速していく
帰れない祖国にきっと外国人海の向こうに家族がいるのだ
疲れてる限界来てる感謝します夜勤の看護師ナイチンゲール
ウイルスを赤い鯨が食べてくれ赤観覧車運命回せ
もしも今僕等に世界の危機が来て戦い方を間違えている
独りいて家で映画を観たりしてまた会う日までゆっくりおやすみ
相対性理論 - 小学館