<第16回>嵐はただのジャニーズグループにあらず!?
『「嵐」に学ぶマーケティングの本質』
射場 瞬著(日経BP)
❶イントロダクション~マーケティングは「企業活動全般」のことなのだ
本書は2021年に発刊された、IBAカンパニー代表取締役CEO、射場瞬氏の初の著作です。著者はグローバル企業(Colgate- Palmolive、Kraft、American Express、Fila)のアメリカ本社勤務を中心に約15年間、マーケティングや事業開発のマネジメントを経験。その後、日本コカ・コーラ社のマーケティング本部副社長を経て、2010年にIBAカンパニーを設立されています。ちなみに「嵐」のファンクラブ歴は、21年当時で14年だそうです。
嵐といえば、「国民的グループ」とも称されるほどジャニーズを代表するグループであることは、みなさんもご存じかと思います。2020年12月31日をもって活動を休止しました。解散ではありませんのでお間違えなく。現在もメンバーの活動では、「嵐・○○(メンバー名)」と紹介されることも多いですね。
今回も、本書の「はじめに」から、気になった部分を抜粋してみました。
"「嵐のブランディングはすごい!」「嵐のマーケティングにはかなわない!」"
"100個の成功事例を見るよりも、1つの優れた事例を掘り下げ、詳細に分析する方が、深く多面的にマーケティングを学ぶことができる"
"ブランディングやマーケティングの分野において、本質的、基礎的な概念は時代の変化などに大きく左右されない"
"しかし、今日の消費者の行動に合わせてマーケティングを変化させる必要性がある"
"「人」の心を動かすマーケティングを2021年の今実践するには、基礎的な概念と理論の進化の両方を深く理解することが必要"
さて、「マーケティング」とは何でしょうか?
最近の日本企業でも、マーケティングに携わる部署も多くなりましたが、超平易な日本語に直すと、「マーケティング部」とは「売れる仕組みをつくる部」です。
日本マーケティング協会では、マーケティングを下記のように定義しています。
マーケティングとは、企業および他の組織1)がグローバルな視野2)に立ち、顧客3)との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動4)である。[1990年]
1)教育・医療・行政などの機関、団体などを含む
2)国内外の社会、文化、自然環境の重視
3)一般消費者、取引先、関係する機関・個人、および地域住民を含む
4)組織の内外に向けて統合・調整されたリサーチ・製品・価格・プロモーション・流通、および顧客・環境関係などに係わる諸活動をいう
とのことですが、広義な意味では、マーケティングは「企業活動全般」を指すといっても、じつは間違いではないと思います。
ちなみに、商品を売るための仕組みをつくるときは、効率よく売上げを伸ばすことが前提です。最近のYouTube動画における商品宣伝効果があるチャンネル等が、わかりやすい事例でしょうか。
アメリカのマーケティングに詳しい著者のマーケティングは、今後の日本がどうなっていくのかも、もちろん見通されています。
では早速、読み解いていきましょう!!
❷独断と偏見のお勧めポイント:嵐に学ぶデジタル活用術
データの先には、「人」がいる!
本書は、ファンベースやブランディングといったマーケティングの本質についても、「嵐」の事例を用いて説明がされています。どれも非常にわかりやすく、かつ、ジャニーズファンならではの深堀りもされており、ジャニーズのビジネスモデルを垣間見ることができます。
"ブランドは人の頭の中に存在する"
"共感できる意味ある差異の必要性"
"顧客志向と顧客インサイトの理解"
"心にメッセージを定着させるストーリーテリング"
など、このマーケティングの教科書数冊分の要約を、嵐という事例のみで説明する著者は、正直すごいと思います。
さて、ここでは、本書で紹介されている「デジタルマーケティング」について、見ていきます。
本書では、デジタルマーケティングは、「デジタルメディアを活用してマーケティングすること」と定義されています。多くの人が「それはそうだ」と思ったと思いますが、現在、デジタルの領域は計り知れない状況のため、著者がズレのないように定義をしているのです。
詳細は本書に譲りますが、デジタルメディアには「オウンド」「アーンド」「ペイド」の3種類があるとの説明をはじめ、とても丁寧です。これはデジタルマーケティング担当ではなくとも、勉強になると思います。アメリカの状況に詳しい著者ならではのデジタルマーケティング施策の今後の課題などは、現在のデジタルマーケティングに携わる方も勉強になるのではないでしょうか。
そして、その課題のなかでも、
・ペイドメディアの活用に集中しすぎていることへの警告
⇒サードパーティーのデータを使ったターゲット広告などは、今後のデータ規制で難しくなる。さらにアメリカでは、オンライン広告は高騰し、コスト面ではすでに合わなくなっていること、インフルエンサー・マーケティングも、ステルス・マーケティングの多数の発覚で信頼度が落ちていることは、今後の日本にも起こりうる。
・データだけを追いかけ、その先の「人」を忘れがちになることの危険
⇒アプリをダウンロードしてくれればいい、1回購入してもらえればいいという場合は、従来のマーケティングで問題ない。しかし、長期的に成功したいブランドがデータだけの効率化を続けると、顧客の「好き」という熱量を失う危険性がある。
この二つの課題に対して、嵐のデジタル活用はたいへん参考になる、と著者は言います。
嵐のデジタル活用を簡単にまとめると、「ファンとのコミュニティー化を強靭化させた」に尽きると思います。
では、なぜ「強靭化」できたのでしょう?
著者は、
⑴本気でデジタルを活用する決意→自分たちが主体。代理店に任せないコンテンツ作成
⑵ファンの気持ちを細かく理解→自分たちの何をファンが求めているのか
⑶ファンの発信、拡散、つながりを理解したコンテンツ→SNSコメントに対しての反応
⑷各SNSに合わせたコンテンツ作成→TikTok、YouTubeなどの特性を活かす
⑸新技術の活用→ファンをより楽しませる活用(ライブで使用するペンライトの改良など)
の五つを具体的に挙げています。
マーケティングは細部に宿る――ではないですが、デジタルツールの活用で顧客の理解が深まることを考えなくてはいけない時代だと、ほんとうに思います。
なお、嵐のデジタル活用に関しては、さまざまな記事が上がっています。より詳しく知りたい方はこちらも参照してください。
❸深掘りの勧め:どうすればマーケティングはうまくいくのか?
好きこそ物の上手なれ、「好き」になる早道を行け!
さて、最後に多くの人が思っていること、「結局、上手なマーケティングはどうすればいいんだ!」について、本書はじつに「シンプルな答え」を出してくれています。
読んだ多くの人が気づいているかもしれませんが、著者はほんとうに「嵐」の大ファンです。とても顧客に詳しいので、一般の人にはわからない気持ちが手に取るようにわかる。だから、ここまで深掘りして、嵐でマーケティングの話ができるわけです。
マーケティングを上手に考える早道は、とにかく商品のヘビーユーザーになるしかありません。商品に詳しいことは大前提といえるでしょう。
よいサービスを生み出すためには、とにかくいまあるサービス、類似のサービスを使い倒すべきであることは、デジタルの最前線でもじつは同じです。2021年9月の宮坂学氏(現・東京都副知事)のTwitterに、本質を突いているものがありました。
あなたのそのマーケティング、どこまで考え尽くされていますか?
◆今回の名言◆
「教わって覚えたものは浅いけれど、自分で苦しんで考えたことは深いんですよ」
早川徳次(1893年~1980年/日本の実業家・発明家、シャープ創設者)
「他社がまねするような商品をつくれ(元祖だからとあぐらをかいて勉強しなければ、そこまでだ)」も有名です。安易な道はありません。頑張っていきましょう!
★おまけ★最近読んでいる本
『リクルートのDNA~起業家精神とは何か』
江副浩正著 (角川oneテーマ21新書)
著者は「リクルート」創業者にして、あの「リクルート事件」の贈賄側人物としても知られる江副浩正氏(2013年に死去)。リクルートの創業から現在に至るまでの話も盛り込まれた自伝的ビジネス書のなかには、松下幸之助や日軽金の松永義正、慧眼で有名な興和不動産の佐藤悟一など、有名な経営者とのエピソードも満載です。
「人は誰でも得手なことと不得手なことがありまんがな。誰に、どの仕事を、どこまで要望するかが大事やなぁ」(「経営の要諦とは?」との質問に対する松下幸之助の言葉)
「孫君は時間とお金、人を精一杯使う。ベンチャーの成功者になる条件だ。」(孫正義氏に対する江副氏の言葉)
また、「一対一だと他の人を気にせずに本音の話ができる」など、名経営者から得た江副氏の学びは、ほんとうに勉強になりました。お勧めの一冊です。