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植松努著『不安な時代に踏み出すための「だったらこうしてみたら?」』

前回の「はじめに」に続き、「おわりに」を公開します。
今回、植松さんは人口減少社会の話に触れています。私自身も不安ではありますが、読むと、何をすべきか、どういう心構えでいるべきか、自分のサイズで考えられるようになれた気がしました。未来は明るくなると、希望の持てる内容です。ぜひご一読ください!【普及局コバヤシ】

おわりに

 いま日本はものすごく大きな変化の時代を迎えています。長く続いた人口増加期が終わって、これからは、急激な人口減少期を迎えます。これはもう、30年も前からわかっていたことです。
 本当は、人口減少に適した経済の仕組みや、人口減少社会に適した人材を育てる教育の仕組みを真剣に考えなければいけなかったのに、日本はそれを考えてきませんでした。
 むかしむかし、紀元前に、カルタゴという国がありました。当時はローマとよく戦争をしている国で、一度はローマに負けて滅亡します。しかし、その後、急に成長してローマと並ぶほどの大都市になります。その理由は、カルタゴは土木技術の粋をこらして、三階建てのアパートをいっぱい作ったのです。いろんな国から来る人たちを、どんどんタダで住まわせてしまったのです。
 「あそこならタダの住まいがあるぞ」「安心して生活できるぞ」というので、カルタゴに人がどんどん集まってくるようになって、商いが盛んになって、カルタゴは強くなりました。
 住まいにかかるお金は生活のなかで大きな支出です。家は一生の買い物とかいいます。だからこそ、「安価に安心して暮らすことができる」というのは、すごく大事なことだと思います。
 僕の暮らす町は、1万人しか人がいません。しかも、毎年おおよそ300人から400人も人が減ります。日本の人口減少も問題だけど、この町の過疎化はもっと問題です。そして、そういう町は日本中にあります。そういう町に、「安くて安心して暮らせる住居」があったら、人が集まってきて、いい町になるかもしれないなあ、と僕は思っています。この、「安くて安心して暮らせる」というのは、人が生きていくためにすごく大事な条件だと思います。
 いま、ヨーロッパでは、「ベーシックインカム」という仕組みが研究されています。これは、働かなくても生きていけるだけの収入が保障された社会です。僕は、日本の「時間給」という考え方が、これからの「考える」働き方には適していないと思っているし、かといって「能力給」だと、怪我をしたり、病気になったりしたときに収入を失う可能性もあります。だから、ベーシックインカムにものすごく興味があり、たくさん勉強しています。だから僕は、出会う人出会う人に、いろんなところで、「日本がベーシックインカムになったらどうする?」と質問します。
 そうすると、だいたいの日本人は、口を揃えてこう答えます。
「働かなくてもお金もらえるんでしょ? だったら働かない。絶対に仕事しない」
 ところが、僕の会社に来るヨーロッパの人に同じ質問をすると、こう言います。
「生活の心配がないんでしょ? だったら、思いっきり、夢に挑戦できるじゃん!」この違いはなんなんだろうと思います。同じ人生が、「仕事しない!」になるのか「思いっきり挑戦したい!」になるのか。
 その原因は、「仕事」についての教育にあります。日本では、「仕事とは、つらいことや嫌なことでも、余計なことを考えずに言うことを聞いて、お金をもらうこと」と教えてしまいます。だから、「お金をもらえるなら、言うことを聞く必要は無い」になってしまうのです。
 それに対して、ヨーロッパの学生はこう答えます。「仕事は、人の役に立つこと」。
 だから彼らは、「生活の心配が無いなら、思いっきり挑戦できる!」と答えたのです。
 きっとそういう社会は、進化して発展していくんじゃないかと思うんです。僕は、日本の「仕事」の考え方は、危険じゃないかなと思っています。僕は、人口増加期から人口減少期への転換は、ものすごく大きな価値感の変化だと思っています。これからは、人口増加期の普通や常識は通用しなくなると思います。そして僕らは、人口減少期に適した経済の仕組みと、教育の仕組みを考えるべきだと思います。
 これからの日本では、いままでの普通や常識を疑って、新しい仕組みを考える人が必要になります。僕は、そういう人を増やしたくて、いままで僕の会社に入ってくる人たちの力を借りて実験をしてきました。僕の会社の人たちは、優しくて、穏やかで、楽しくて、知りたがりで、やりたがりです。どうやら、そういう人をつくれそうです。
 だから、僕は2020年から、北海道ハイテクノロジー専門学校の「宇宙・ロボット学科」で、授業を受け持つことになりました。大学以外にも社会で活躍できる力を学べる道はあるよ、ということも伝えられたらいいなと思っています。僕はここで、最先端技術を使いこなして、社会の悲しいことや苦しいことや不便なことを解決できる、「優しい人」を育てます。

 いままでの人口増加期の日本は、「たくさん作って、無理やり消費させる」という経済でした。消費しないと経済が回転しない国と言われていました。でも、これからは、みんなが社会の問題を見つめて、自分たちならどうするかな? を考えて、力を合わせて問題を解決することが、無駄な支出や消費を減らして、社会が豊かになっていく道じゃないかなと思っています。
 僕の夢はいくつもあるんですが、そのなかの一つが、「サンダーバードの国」です。サンダーバードって、1960年代のイギリスのテレビドラマです。大金持ちが、世界のどの国にも属すること無く、独自開発の最先端装備で、世界中の災害やトラブルを助けに行くというドラマです。そこに登場してくる最先端の飛行機や機械に、僕は夢中になりました。僕は日本がそういう国になったらいいなあ、と思っています。
 大きな災害が起きたとき、日の丸をつけた飛行機が飛んでくるんです。その飛行機を見ただけで「やった。助かった」って、ホッと安心できるんです。日本が、そういう国になったらいいなあ、と思っています。
 比べない本当の自信を持った人たちが、社会の問題を解決して、安心して暮らせる社会が広がっていく。社会が豊かになっていく。世界が豊かになっていく。
 君がこれからつくっていく世界は、たぶんそんな世界です。
 いまはまだ全然、そんな世界じゃありません。世界は苦しいことや、悲しいことや、不便なことに満ちあふれています。でもね、だからこそ、解決し放題じゃない? それらはすべて、新しい仕事のタネなんです。

 僕たちは、この本を通して出会うことができました。これも何かの運命です。この本を読んでくれてありがとうね。この出会いに本当に感謝です。そして僕たちは、次はリアルで出会える可能性があります。
 次に出会うときは、君の優しさが生み出した、社会の問題を解決する方法を、僕らが形にして、お互いに力を合わせて誰かを助ける仲間になっている可能性があるんです。僕はその日が来ることを、本当に心から楽しみにしています。

 でもね、僕たちが再会するためには、とても大事な条件があります。それは、「お互いに、死なない」です。
 だからね、僕は車の運転に気をつけるよ。ゆっくり運転するよ。
 だからね、君も車に乗るときはシートベルトするんだよ。
 そしてね、君はこれから、たくさんの素晴らしい人に出会うよ。でもね、間違いなく、たくさんのひどい人にも出会うよ。
 だけど、そのひどい人たちに、どんなに嫌なことを言われても、どんなに嫌なことをされても、死ぬを選ばないでほしいんです。なぜならば、生きていれば、かならず可能性が増えるからです。僕もね、何度も死んでしまおうと思ったことがあるよ。死んだほうがラクになれるって思ったことがあるよ。でもね、怖くて死ねなかった。だから、今日こうして、君に出会えたんだよ。僕がどこかで死んでいたら、会えなかったんです。だから、「生きていてよかった」なんです。生きてると、つらいことも悲しいこともあるけれど、生きていると、誰かに出会う可能性が増えます。
 だから、勇気を出して生きてください。僕も頑張って生きるよ。そして、いつか力を合わせて、誰かを助けられたら嬉しいね。僕はその日を楽しみにしています。待ってるよ。 

2021年5月 植松 努

※発刊記念として紀伊國屋書店でオンラインイベントを実施いたします。詳細は下記ご覧ください