Jリーグチケットの料金変動に驚いた
本日の日経電子版にレベニューマネジメントに関する記事が出ていました。
URL
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3712874030102018H11A00/?n_cid=SNSTW001
Jリーグの時価チケット、納得できる?(日経MJ)
Jリーグで需給変動に応じた時価チケットが導入されて色々な反応が出ている、という話です。
私の個人的な受け止めとしてはこのボラティリティにけっこう驚いていて、
たとえば記事中に登場する横浜F・マリノス主催試合(10月14日・三ツ沢球技場)「SA席」は下は4000円から上は8000円超まで200%幅で動いています。
これは「動かしすぎだろう」というのが率直な受け止めです。
ほぼAIによる冷徹な判断に近く、純粋に需給に応じたらこうなった、という価格変動に見えます。
つまり、200%幅で購入した消費者からのフィードバックはまだ織り込んでいない段階だろうと思っています。
ホテルや旅館の場合は「享受する品質価値がほぼ同一(スポーツチケットは同じカテゴリ内でも席次の差があるので完全ではない)なのに、200%のボラティリティが生じる」ということはまずありえません。
正確には、高値掴みした顧客から必ずハードクレームが返ってくるので、やろうとしてもできない、というのが正直なところです。
スポーツチケットとホテルのレベニューマネジメントとの決定的な差異は
・予約をいったんキャンセルして再購入という行動ができない(できるとしても容易でない)
・料金と満足度に関し、クチコミ(レビュー)の投稿機能が今のところ無い
の2点だと思います。だからこの変動が一時的にでも実現しているのだろうと思います。
たとえば上記グラフのSA席のケースだと、
・10月3日に購入した人は 8,400円で購入し
・10月10日に購入した人は5,000円ちょいで購入
ということになっています。
真面目に早めのリードタイムで購入した人が金銭的に損をして、間際に思い付きで買ってみた人にとっては安かった、という結果になっています。
サービスの差異はほぼ無いにも関わらず。
宿の場合はこれをやってしまうと上述のクレームや低評価のレビューにつながり、顧客の離反やレピュテーション低下、それがもたらすファンダメンタルズの悪化を恐れるため、
「リードタイムが長いほど(真面目に予約してくれたお客さんほど)得をするように」と配慮するのが王道です。
たとえばある日について、宿泊日の5日前になっても残室が多いからというので、仕方なく「【直前割】」とかの商品を投入する場合、
「直前割ショートステイプラン」とかにして、レイトチェックイン、アーリーチェックアウトなどの条件を付し、売り手側で故意に商品の価値低減を図ります。
これは真面目に2か月も前に予約してくれた顧客への配慮で、業界では「フェンス」(良心的な顧客が落っこちないように、の意)などと呼んでいます。
スポーツチケットの場合はこうした価値低減の工夫(たとえばサッカーなら後半40分になったら退席しないといけない、とか)
をすることは不可能なので、顧客心理に全く配慮しない、記事のような荒々しい派手な価格変動になった、ということでしょう。
結果として、「価格変動に慣れていない」日本の消費者の受け止めとしては是認の声もあれば、「制限を設けて」という戸惑いの声もあった、
ということがこの記事では紹介されています。
文中に『日本のレベニューマネジメントは8年遅れている』というコメントが引用されているとおり、
「同一サービスなのに価格差が2倍も生じる」
という仕組みを市場が納得をもって受け止めるには時間がかかるでしょう。
そういうわけで個人的には、スポーツチケットのレベニューマネジメントはしばらく時間が経つとAI判断剥きだしのボラティリティがやや緩和され、
顧客心理への配慮を加味した変動に一時的にはなるのではないか、と直感的に受け止めています。予想が当たるとは限りませんが。
始まったばかりですが少なくとも言えることは、
チケット販売主体の企業側にとっては、需給変動を加味した料金変動制は間違いなく増収増益に寄与するであろう、ということです。
従来より数十%の幅で大幅に増収寄与すると思います。代わりにダフ屋や転売屋の利幅が薄くなるのは言うまでもないでしょう。
あとはAIによる無慈悲なプライシングと、顧客心理への配慮がどこで折衷するか、が当面の焦点になるのではないか、と思います。記事を読んですぐの直感を書き留めておきました。
(了)