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自己紹介代わりの小説(未完)


#自己紹介

「発達障害、ですか・・・」
「いや、必ずしもそうとは言い切れないです。今のオカダムさんの精神状態にも左右されるものなので。ですが、その傾向はあります」
 あるカウンセリングルームで、僕は検査結果を聞いていた。
 職場にどうにも馴染めない。普段の生活は問題ないのに、会社に行くと何もかもがうまくいかなくなってしまう。
 以前に書いたメモも読み返してもよくわからないし、そもそも、どこに何を書いたかさえわからない。メモ帳を用意していても、途中で書ききれなくなり、慌ててその辺の裏紙を使うことになり、それが後で探しても見つからない。
 言われたことには簡単に返事をしてしまう。「わかった」と言いながら実際はわからないことだらけなのに。わかってないと思われるのが怖くて質問を返せない。相手が急いでいるのもわかるので、つい遠慮がちになり、結局教わったことは出来ない。
 他にもいろいろポンコツエピソードを重ねてきた。
 僕の先輩で、いつも笑顔で教えてくれていた女性は、突然態度が急変し、「あんたとはコミュニケーションができない」と言い放ち、僕は放置されてしまった。
 僕はこれでも大学院まで行って心理学を勉強してきた。
 専攻は発達心理学。
 僕は自分の状態を客観的に見て、また、改めてインターネットで調べて、軽い恐怖を覚えながらこのカウンセリングルームの門戸を叩いた。
 心理検査はかなりの費用が掛かる。軽々しく受けるには勇気がいる値段だし、結果が出るのも時間がかかる。
 僕は結果が出るまでの一か月ほどの間に、会社に仕事を辞めたいと相談し、諦めるには早いと励まされ、そうして休みがちになり、うつ状態が深刻になり、また相談し、配置転換をしてほしいと願い出るも、どこも僕を受け入れることができないと返事をされ、そしてやんわりと辞職を勧められた。ひたすらみじめな気分を味わった。
 そして結果は出た。
 僕が受けた心理検査はwais-Ⅲという検査で、主に言語と処理能力を調べる。例えば言葉の意味を説明するよう指示されたり、記憶した数字を逆から言うように指示されたりする。
 僕の結果はいびつなグラフを作っていた。
 簡単に言うと、高いものは高く、低いものは低い。
 カウンセラーの先生はそうとは言い切れないと言ってくれたが、後日この結果を通っている精神科の先生に見せたら「発達障害の典型です」と言われた。
 僕は自身に「アスペルガー障害」という診断をした。
 おそらく、この結論に間違いはないだろう。
「こちらが心理検査の報告書です」
 カウンセラーの先生がグラフではなく先生の所感を書いたものを差し出した。
 そこには僕の特徴が書いてあった。心理テストが好きな僕は、少しだけ興味深く、そして大部分は必死でその文面を読み込んだ。
 知能検査の結果については、耳から入ってくる情報の処理は得意だが、目から入った情報を処理するのが苦手、という風に書いてあった。「目で見て情報をつかむ」ことが苦手な僕は、どうやらそれで事務作業のミスが多いらしい。
 発達障害は他の障害に比べて他の人に気づかれにくい。僕の場合もコミュニケーションは問題ないように映る。僕自身がそう思っていた。しかし、実際に何か行動を起こすと途端に色々なことで悩み始め、作業が止まってしまう。
 周りからは「こいつは真面目にやっていない」と思われ、自分自身では「真面目にやってもうまくいかない」と思い、両者のギャップが誤解を生むことにつながっていたようだ。
 パーソナリティ検査の結果については、先ほどの障害からくる不安から、他人に対して身構えてしまうと書かれていた。
 僕はこれまで他にも仕事をしていてそのたびに惨めになっていた。もっと自分にはできるはずだと自分に言い聞かせながらも、心のどこかで諦めていた。そして、周囲の人たちは何でこんなに優秀なんだろう。僕は何でこんなに何もできないんだろうと感じていた。
 他者への劣等感が周囲とのコミュニケーションの機会を減らし、フィードバックを受ける機会も減らし、僕は自分の力のみで何とかしようと考えてがんじがらめになっていたようだ。
 報告の最後には、今後に向けてのことが書かれていた。
 結論としては、能力のばらつきは改善できないが、強みとなる部分でカバーしたり、苦手な状況へは対処法をスキルとして身に着けていきましょう、とあった。
 さらに、つらい経験に対してはカウンセリングを通してじっくりと取り組んでいきましょうと結ばれていた。
 僕はこの言葉に感動して、少し泣いてしまった。
 この人には頼っていいんだという気持ちになった。
「ありがとうございました」
 そして僕は後日、会社を辞めた。

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