マイコの場合⑩

日本に来てからママと私は一度もフィリピンに帰っていなかった。ママは時々、マニラのジャンポールとビデオコールをしていたけど、ジェイソンとはあまり話をしていないみたいだった。ジェイソンが別の女性と付き合っているということを誰かから聞いて大喧嘩になっていたけど、ジャンポールのために今でもお金は送っている。

ママはママで日曜日に時々、誰かと出かけていた。アパートの下まで車で迎えに来ていたが、私は顔をみたことはなかったけれど、ママはその人と会うときはおしゃれをしていたし、いつもより念入りに化粧もしていたので、たぶん男の人なんだと思う。

ママはパパを好きだったんだろうか?ジェイソンは?そして今、会っている人と誰が一番好きなんだろうか?

中学の頃に、誰が誰を好きだとか、そういう話をみんながしていたけど、私にはピンと来なかった。タロウのところに来るブラジル人の子に、つきあってほしいと言われたことはあるけど、付き合うってことがよくわからなかったから断った。私のことを好きだって言ってくれていたけど、その言葉を信じられるほど私は純粋ではなかったのかもしれない。

働いている喫茶店の常連のお客さんにも何度かデートに誘われた。ご飯に連れて行ってあげる、とか、遊園地に行こう、とか言われたけど、それはたぶん私のことを好きだということより、可哀そうな女の子に優しくしてあげようという気持ちなんだと思う。親にさえ愛されていない私なんかを誰かが好きになってもらえるわけはないんだから。

そうやってなるべく誰かと関わることを避けて生きていた。心を開けば、必ず裏切られ、悲しい思いをする。誰かに期待なんかしなければ、失望することもない。私は自分でも気が付かないうちに、そうやって自分を守っていたんだと思う。そうでもしないと、一人で過ごす古いアパートでの夜は耐えられないとわかっていたんだろう。誰か助けて!誰か私をここから救い出して!そう願っていた時もあったけど、誰も私を助けに来てはくれなかった。自分からここを出ていくと選択肢もあったかもしれない、と今では思うけど、幼すぎたし、何より臆病すぎた。結局、自分では何もできないただの子供だったということだ。



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