シャルダン『食前の祈り』(1744)―対話型鑑賞レポート
次回の対話型鑑賞は10月8日日曜日になります。
シャルダン『食前の祈り』
先日の対話型鑑賞では、フランスの画家ジャン・シオメン・シャルダン(1699-1779)の『食前の祈り』(1744)を鑑賞しました。
・シャルダンとは?
シャルダンは18世紀のフランスで活躍した画家です。
多くの静物画や風俗画を残し、今もなお私たちに18世紀のフランスを伝えてくれます。
18世紀フランスと言えば、ロココ美術が主流でした。
ロココ美術は、甘美、優雅、享楽を感じさせると言われています。
ロココの絵画では貴族の開放的な生活がよく描かれました。
フラゴナールの絵画がロココ調の代表的な絵画と言えるでしょう。
甘美な快楽に耽り、生きる喜びを追い求める貴族が垣間見えます。
フラゴナールの絵と比べてみると、シャルダンの作品からは、ロココの優雅さを感じますが、貴族の開放的な生活を描くことによる享楽や甘美といった印象をまったく受けません。
シャルダンは、貴族生活の甘美さを描くのではなく、中流階級の日常生活を静謐に描いています。
そのためか、彼の絵画は、何気ない日常の中に内在する畏怖や慈しみを湛えています。
18世紀の終わりににはフランス革命が起こり、貴族を中心としたロココ美術は衰退します。
しかし、フランス革命は急になされたのではなく、18世紀において徐々に市民の力が増していったことを背景としています。
18世紀は貴族の時代であるとともに、市民の時代でもありました。
シャルダンは、優雅な画風をもちつつも、ロココとはまた違った18世紀を描き、私たちに伝えてくれているのかもしれません。
それでは次に、対話型鑑賞でどのような対話をしたのかまとめていきましょう。
対話型鑑賞のレポート
・絵画の全体的な雰囲気
絵画の全体的な雰囲気として、まず、
・優雅さ
・優美さ
・親密さ
・幸せな感じ
というのがあがりました。
この点、みなさん一致しており、終始この絵画の幸せな感覚に浸っていました。
また、
・宗教性を感じる
というのもありました。
タイトルが『食前の祈り』なのでシャルダン自身もなんらかの意味をもたせたかったのかもしれません。
荘厳とまではいかないけれど、日常の中にある神秘が描かれているように感じます。
あたたかな畏怖といってもいいのでしょうか。
・構図
構図についても様々な意見をいただきました。
全体的な雰囲気で挙げられた優雅さの理由の一つとして、
三角形の構図になっていることを示してくださいました。
右の母親が背を曲げて、三角形の右辺をつくります。
そして、彼女の視線が、左下にいる少女に向けられ、自然な形で三角形が描かれているのがわかります。
また、赤い被り物をした少女の椅子が極端に低いことが疑問点として挙げられました。
祈りをしたあとに、他の椅子に移動するのだろうか、構図的に仕方なくこうなっているのではないかなど、様々な意見をいただきました。
たしかに、ナイフのようなものがテーブルからはみ出ていますし、気にしだすと、子どもにとってとても危険に感じてしまいます。
・祈りをしているのか
タイトルが『食前の祈り』であるにもかかわらず、全員が座って姿勢を正し、祈りをしているわけではありません。
このことも疑問点としてあげられました。
それによって、画面に動きを感じるようになっている、といくつかの意見をいただきました。
一つは、母親が率先して祈りをささげているわけでないことを指摘してくださいました。
母親は穏やかに一番小さな少女の顔を見ています。
祈りの静けさとは違い、何かしゃべりかけているような、動きを感じます。
まるで、祈りをするようにわが子に話しかけ、静かに見守っている様子を描いているようです。
次に、その少女にも動きを感じることを挙げてくださいました。
身体と顔がまっすく向いているわけではないことがわかります。
身体に対して顔は、やや左上に向けられています。
母親の様子をうかがいつつ、やや控えめに祈りをささげているように見えます。
まるで、これで大丈夫なのか確認しているかのようです。
母親と娘の視線と姿勢によるコミュニケーションが画面に動きを与えているという形で今回の対話型鑑賞は結論しました。
・まとめ
対話型鑑賞を通して、
シャルダン『食前の祈り』は、
静謐さを湛えつつも、人物描写に小さな動きを与えており、
鑑賞者を惹きつけてやまない絵画であることがわかりました。
実は、『食前の祈り』は二度描かれており、両者を比較するといくつかの違いを見出すことができます。
いつか二つの作品を比較して対話型鑑賞をするのも面白いかもしれません。
それでは!