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「好きな仕事」か「余裕ある暮らし」か!?迷えるあなたに哲学者モンテーニュとマズローが突きつける究極の欲求法則

もしも著名な哲学者や心理学者が現代にタイムスリップして、私たちの身近な悩みや疑問に答えたら……?

本日のお悩み

「私は保育関連の仕事に就き、子どもたちと過ごす日々にやりがいを感じています。もともと憧れていた職業なので、働く喜びは大きいのですが、正直なところ給料がかなり低く、生活はギリギリです。
 たとえば、年に一度は海外旅行をして視野を広げたいと思っていたのですが、今の収入ではとても無理。毎月の貯金すらままならず、将来を考えると不安になります。心から好きな仕事と、ゆとりある暮らしを実現するための収入、どちらを優先すべきか悩んでいます。
 好きな仕事でも生活が苦しくては続けられない気もするし、かといって全く興味のない仕事でお金を稼ぐのもつらいものがあります。」

本日のゲスト

ミシェル・ド・モンテーニュ(16世紀フランスの随想家)

フランスの随想家。『エセー』に代表される彼の思索は、抽象的な理論よりも、人間を観察し、内面を掘り下げ、曖昧さや多面性を受け入れる柔軟な姿勢が特徴。

アブラハム・マズロー(20世紀アメリカの心理学者)

アメリカの心理学者で、欲求階層説を提唱。人間の欲求は生理的欲求や安全欲求といった低次から、自己実現に至る高次へと段階的に上昇するというモデルを示し、基礎的な条件が整わなければ高い次元の幸福や自己実現は難しいと説く。

対談

司会者:今日は、保育の仕事に励む相談者さんの悩みです。『好き』な仕事を選び続けるべきか、それとも『ゆとりある収入』を優先すべきか。モンテーニュさん、マズローさん、よろしくお願いします。

モンテーニュ:まったく、現代人は面白い葛藤をしているね。憧れの職業に就けるってこと自体、ある意味では“運”や“贅沢”なんだ。しかし、その憧れは今や生活苦の中で光が曇り始めている。なぜ憧れが霞むのか?それは『自分の中の幸福基準』がどこまで社会の条件に影響されているか、ってことでもある。

マズロー:うん、階層説の人間から言わせてもらうとね、もし日々の暮らしが苦しくて不安定なら、いくら意義ある仕事をしても心が満たされにくい。幸福はただの精神論じゃないから。人は最低限の生活基盤がないと、未来への不安が自己実現を阻むんだ。

司会者:相談者は『子どもたちと過ごすやりがい』を感じる一方、『旅行や貯金』といった生活の幅を広げる楽しみが得られずに焦っているように見えます。

モンテーニュ:そこがポイントだね。なぜ海外旅行を望むのか?単なる贅沢かもしれないが、実は世界を見て自己理解を深めたい欲求もあるかもしれない。その欲求は、『自分らしさ』をより広い世界で試してみたい、という深い願望だろう。保育の現場で培った“子どもと共に生きる”感覚を、より大きな文脈で再解釈したい、という内なる声かもしれない。

マズロー:いや、ちょっと待てよ。モンテーニュ、哲学的すぎないか?最初に確認しておきたいのは、生理的な安心や金銭的安定だ。現代では、収入不足はストレスとなり、仕事へのモチベーションさえ削ることがある。相談者は好きな仕事を維持するためのエネルギーを、いま欠いている可能性があるんだ。

司会者:モンテーニュさんは相談者の内なる“自己理解”や“存在の意味”を探ろうとしている。一方マズローさんは欲求階層を踏まえて、まず基盤を整えろと。

モンテーニュ:そう、私はこの相談者が『自分が本当に求めているもの』を、単なる『お金』や『好きな仕事』という二極対立で語っている点を掘り下げたい。もしかすると、“やりがい”は世界とのつながりを実感するためのツールで、“お金”はその感覚をより豊かなフィールドで試すための鍵なのかもしれない。

マズロー:なるほど、詩的だね。でも、それは実践的か?人間はまず安心したい。その上で次のステップに進む。保育の仕事が低賃金だという社会的構造は簡単に変えられない。じゃあどうする?副業、資格取得、キャリアアップ──具体的な行動で生活基盤を強くする必要がある。それなしに深い内省も長くは続かない。

司会者:ここで一旦整理すると、モンテーニュさんは『内なる欲求の複雑さ』に注目。マズローさんは『欲求階層』というフレームから、まず土台を固めるべきと主張。両方大事そうだけど、相談者はどちらに耳を傾けるべき?

モンテーニュ:耳を傾ける相手は一方じゃない、両方だ。現代の個人は同時に多次元的欲求を抱える。子ども達といることで得られる内的充足感がある一方、物質的な安定が欠如しているから、その充足感の持続が脅かされている。この危うさは、相談者を『本当に欲しいものは何か?』と自己に問いかけるキッカケになる。

マズロー:しかし、その問いを支えるエネルギーが足りないんだよ。生理的安全や経済的安定がないと、いくら精神的高みを目指しても、空腹で哲学はできない。相談者は、貯金すらままならない状態で未来への不安を抱えている。まず、この不安を減らす行動をとれ、と言いたい。

司会者:つまりマズローさん的には、まずは基盤強化。具体的にはどういうステップ?

マズロー:例えば、保育関連の上位資格を取る、より条件の良い職場に転職する、子育ての知識を生かしてオンライン講座を展開する、あるいは週末副業で関連領域のベビーシッター専門サービスを立ち上げてみる。小さな追加収入から安定を図り、徐々に余裕を作るんだ。

モンテーニュ:マズローは階段を登れという。私も否定はしない。だが、そこには“なぜその階段を登るのか?”という根源的問いがある。相談者はなぜ海外旅行がしたいのか?なぜお金に不安を覚えるのか?社会が規定した『豊かさ』と、本人が本当に渇望している『人生の豊かさ』は同じものなのか?

司会者:そこがモンテーニュらしい掘り下げですね。つまり、金銭的安定を求める裏には、『世界に触れ、自分自身を広げたい』欲求があり、その欲求は保育を通じて感じる生命力や関係性をより大きな世界で確かめたい衝動かもしれない、と?

モンテーニュ:そうだ。もしこの人が単純に金目当てなら、もっと早く職業を変えてるかもしれない。でも彼女は保育に未練がある。それは『子どもたちと過ごす日々』が、何か自分を内面から満たしている証拠だろう。それは尊いことだ。

マズロー:尊いが、そのままでは息切れする。俺の欲求階層説は、低次欲求が不十分だと高次欲求を十分に追求できないと主張する。人は理想や自分らしさに到達するために、まず最低限の安心感が必要なんだ。相談者は今、その危ういバランスにいる。

司会者:つまり、マズローさんは『理想に到達するには足元固めろ』、モンテーニュさんは『足元を固める意味自体も問い直せ』といった感じでしょうか?

モンテーニュ:まさに。私は相談者が今抱く不満や不安は、彼らが人生の輪郭をもっと広げようとしているサインだと捉えたいんだ。金は道具に過ぎないが、それを手にする手段を考えることは、自分がどのような人生を生きたいかを明確にするチャンスでもある。

マズロー:同意する部分もあるよ、モンテーニュ。ただし、人生の輪郭を広げる前に、絵を描くためのキャンバスが必要なんだ。空腹や不安だらけだと、筆を持つ手が震えてしまう。安心感を得て初めて、自己の深層に潜れる。

司会者:ここで私なりにまとめてみると、モンテーニュさんは相談者に対して、『自分が本当に求めている豊かさを問い直せ』と言っている。海外旅行や貯金、収入のゆとりは、単なる贅沢ではなく自己拡大への欲求だと。マズローさんは、『まずは経済的・心理的安定を確保してから』と言う。そうしないと深い自己探求すら難しいと。

モンテーニュ:確かに、一歩踏み出すには多少の安心はいる。しかし、私が心配するのは、相談者が行動を起こして収入が増えたとして、もしそれで満足できなかったら?つまり、金銭的安定を手に入れても、心が虚しければどうする?そこに早めに気づいてほしい。

マズロー:でも、空腹状態や極度の不安の中で深い満足を得るのは難しい。まずは基本欲求をクリアすることで、より余裕をもって自分の内面と向き合える。俺はそう言いたいだけだ。精神論だけじゃ腹は満たされない。

司会者:なるほど。両者の違いは、『どこから始めるか』と『何をゴールとするか』にもあるようですね。マズローさんは現実的な階段を堅実に昇れと言い、モンテーニュさんは階段を昇る意義を根本から問い直せ、と。

モンテーニュ:保育という仕事自体、社会的には低く評価されがちな現実があるが、その価値は計り知れない。もし相談者がそこにある真の価値をもっと自覚すれば、収入アップへの行動も、ただ金を稼ぐ以上の意味を持ちうる。自分の専門性や情熱を周囲に示すことで、市場価値を上げていく戦略は、単なる金稼ぎを超えた自己表現になりえる。

マズロー:一方、私は言いたい。市場価値を上げる行動も、まずは生存と安全を支える。そうやって安心できれば、新しい挑戦も可能になる。夢を達成するためには、基礎的な土壌が必要なんだ。

司会者:最後に相談者への提案としては、『保育の仕事をただ続けるか諦めるか』ではなく、保育の専門性を活かして収入改善策を模索しながら、同時に『なぜそれを求めるのか』を問い直すことが重要、って感じでしょうか?

モンテーニュ:そうだね。行動と内省はセット。自分がなぜ海外に行きたいのか?なぜ貯金が欲しいのか?それは単なる物質的欲求ではなく、自己を拡大したい欲求なら、行動の先にはより深い満足が待っているかもしれない。

マズロー:その満足を育むためには、今必要な最低限の安定を確保すること。副業や資格で収入アップ、実務経験を積んで専門性を高め、ゆくゆく海外研修プログラムに参加するなど、一歩ずつ階段を上がっていける。その結果、自己実現の場が広がる。

司会者:なるほど、今日はお二人の違いがはっきりしましたね。モンテーニュさんは精神の深みから問い、マズローさんは階層の土台から積み上げる。どちらも相談者の迷いに一石を投じる深い示唆になったと思います。

まとめ

モンテーニュは、相談者の欲求に潜む「本当の意味」を問いかける。海外旅行やゆとりある暮らしは、単なる贅沢ではなく、自分の価値観や人生の輪郭を広げたいという深層的な欲求の表れであり、その内的動機を理解することで、行動にも深みが生まれる、と示唆する。
マズローは、まずは経済的・心理的安心を確保しなければ、高次の欲求(自己実現)に十分取り組めないという現実的なフレームを提示。最低限の安定を築いてから、より深い自己追求や理想に踏み込むことが、現実的な道だと主張する。
両者の違いは、「なぜ行動するのか」を重視するモンテーニュと、「どの順番で行動するか」を重視するマズロー、とも言える。前者は欲求の質的深みを掘り起こし、後者は欲求階層の段取りを示す。相談者は、この2つのアプローチを組み合わせることで、好きな仕事を維持しながらも収入を改善する戦略を立て、同時にその行動の背後にある自己の本質的欲求を見極めることができるだろう。

本日のゲストの詳細

ミシェル・ド・モンテーニュ(1533-1592):

フランスの随想家。『エセー』に代表される彼の思索は、抽象的な理論よりも、人間を観察し、内面を掘り下げ、曖昧さや多面性を受け入れる柔軟な姿勢が特徴。彼は「なぜ」を問い続け、その人間的欲求の複雑さを見抜こうとする。

アブラハム・マズロー(1908-1970):

アメリカの心理学者で、欲求階層説を提唱。人間の欲求は生理的欲求や安全欲求といった低次から、自己実現に至る高次へと段階的に上昇するというモデルを示し、基礎的な条件が整わなければ高い次元の幸福や自己実現は難しいと説く。現実的で構造的な視点が持ち味。

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