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#1判例と独り言:児童ポルノ法7条5項の解釈(最三小判R6.5.21)

事件概要


 被告人は就寝中の児童(当時10歳)に対して強制わいせつ・強制性交とその未遂にいたる一連の行為において、児童ポルノ法(正式名称:児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律)2条3項各号のいずれかに当たる姿態をとらせてその様子を撮影し、児童ポルノを製造しました。
 要するに、わずか10歳の児童のわいせつな姿態を撮影したわけですね。しかも就寝中に。中々の外道です。

争点

 上記の行為につき、検察は児童ポルノ法7条5項(「ひそかに」撮影した行為を罰する規定)を根拠法令として検挙し、一審二審ともに検察が普通に勝ちました。
 けれども、弁護人は本件行為は同法の同条4項(児童ポルノ法2条3項各号に当たる姿態を撮影した行為を罰する規定)に当たるもので、5項には当たらないと反論しました。というのも、4項の成立要件が満たされる場合、5項は適用されないとした高裁判決があるんです(大阪高判R5.1.24、判タ1512号136頁)。
 児童ポルノ法7条5項の方は特に行為を指定せず、「ひそかに」撮影した行為を罰する規定ですから、「2条3項各号に当たる姿態を撮影した行為」と限定する4項よりも処罰範囲が狭いわけです。なので、適用範囲が狭い方を適用すべきだろうという理屈ですね。中々面白い反論だなと思いました。

最高裁判決


 これに対して最高裁は、同5項が「同条3項及び4項の各児童ポルノ製造に加えて、処罰対象となる児童ポルノ製造の範囲を拡大するために制定された」のだとしたうえで、「事案によっては、同罪で公訴を提起した検察官が同条4項の児童ポルノ製造罪の不成立の証明を、被告人がその成立を反証するなど、当事者双方に不自然な訴訟活動を行わせることにな」るとして、「当該行為が同条4項の児童ポルノ製造罪にも該当するとしても、なお同条5項の児童ポルノ製造罪が成立し、同罪で公訴が提起された場合、裁判所は、動向を適用することが出来ると解するのが相当である」としました。

感想


 まあ、もっともですよね。特に理由付けのところは至極まっとうだと思います。上述の通り、4項が成立したら5項が適用できないとすると、被告人は自分が勝つために4項の成立を証明しようとするわけですから、被告人自ら「僕は確かに児童ポルノを製造しましたがひそかではありませんでした!堂々と全裸の児童の写真を撮りました!」と主張することになってしまいます。普通に意味わかんないです。
 ちなみにこの裁判、要するに5項の「前2項のほか」というのが「前2項が成立しない場合は」という意味の限定するものなのか、単に「前2項以外にも」という適用範囲を広げたものであるのかが争われた事案だったのですが、割と他の条文の解釈上も使えそうですよね(なお、この点は東大の橋爪先生が明確に否定なさっていました。曰く、「この判決は児童ポルノ法7条5項に限った解釈である」と。そりゃそうですよね……。)。
 言われてみれば、「前○○のほか」って文言はよく見るのに、そんなに深く考えたことなかったので、本件の弁護人を担当された先生はたいそう頭が回るんだなあと感心していたら、奥村徹弁護士という児童ポルノ問題に熱心に取り組んでいらっしゃる先生でした。流石ですね。「児童ポルノを製造してしまって困っている」というロリコン性犯罪者の方は、頼ってみると良いんじゃないでしょうか。陰ながら、あなたの敗訴を願っております。


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