＃１判決の話：男性器があっても女風呂に入って良い？

はじめに

　2024年7月10日、広島高裁で「いわゆる性転換手術を受けていなくても、戸籍上の性別を変更できる」という旨の決定が下されました。つまり、簡単に言えば男性器が付いていても女性として扱われることが出来るということですね。XなどのSNS上ではこの判決によって「実質的に、男性が女性用浴場やトイレに入ることを裁判所が許したことになる」などといった批判がありました。果たして、この判決はそのようなことを判断したのでしょうか？

前提となる最高裁判決：性転換手術の強制は違憲？合憲？

　そもそもとして、現在の法律上は、戸籍上の性別を変更するには①生殖機能がないこと、②外観が性別変更後のものであることが必要です（実際は他にも色々条件があるのですが、関係ないので割愛します）。
　この要件が「実質的に手術を強制しているものである」として争われ、去年の10月に最高裁判決が出ました。そこでは、①の要件は性別を変更するために自身の身体に傷をつけることを強要するものであり、違憲であるとされた一方、②の要件については判断されませんでした。しかし、この時点で少なくとも性転換手術の強制が違憲であることは判断されていたわけです。

今回の判決内容

　それを受け、今回の判決でも同様に「性別の変更か外観の変更のための手術かの二者択一を迫るのは違憲である」とされたのです。しかし、重要なのは「外観の変更は必要である」とも述べられている点です。今回の裁判で争ったトランスジェンダーの方は、身体は男性でしたが既にホルモン投与をしており、外観は非常に女性的だったようです。つまり、高裁は「手術は必要ではないが、外観が変更後の性別に類似している必要はある」としたわけですね。

議論となる点

　したがって、ここで問題となるのは、やはり性器の有無です。ホルモン治療をすると男性器は萎縮すると聞いたことがありますが、それでも男性器が存在することに変わりはありません。女性からすると、いくら外見が女性でも、女性用浴場では男性器が露出してしまうわけですし、「ただの女性的な性犯罪者」なのか、「ホルモン治療を受けたトランスジェンダー」なのか分からず、恐怖を感じてしまうのはもっともでしょう。
　他方で、トランスジェンダーの方からすれば自分のなりたい性別になるために手術・入院が必要だというのは確かに理不尽に感じるかもしれません。身長を高くしたいからといって、骨延長手術を受けにわざわざアメリカに行く人が多数とは言えないのと同じでしょうか。
　ただ、少なくとも現状では、「男性器があっても＜外観が女性なら＞女風呂に入っても良い」ことになりますね。

私見

　個人的には、やはりその結論はおかしいんじゃないかなと思います。性転換の規準については門外漢なので何とも言えないですが、そもそも「外観が女性的or男性的ってどう判断するの？」って話ですよね。例えば、胸があって、かつ男性器もある方はどっちなんですかね？ち〇ち〇が大きくて、胸が小さかったら男性？ち〇ち〇が小さくて、胸が大きかったら女性？
　さらに言えば、それを誰が何を以て判別するのかっていう話でもあります。医師が行うとするなら、かなり医師の裁量によってバラつきが出ますし、あまりにも医師の裁量が大きすぎる気もします。その人の戸籍上の扱いを医師の「診断」で決める訳ですからね。
　これについては、裁判所の判断というよりも、法律を作る立法府の問題でしょう。少なくとも、上に見た通り裁判所の理屈は理解できます。。最高裁お得意の「ここから先は立法の問題」ってことなんでしょうか。せめて、法改正でもう少し客観的な基準を示すか、一律にトランスジェンダーの方の扱いを決めてほしいものですよね。
以上、私見でした。