shape of love

東京帝国大学の名誉教授に、もう他界されたが、田中舘愛橘という人がいた。
彼に関することをここでは詳しくは紹介しないが、地球物理学者として数多くの功績を残した人で、調べると穏やかそうな人相の老紳士の写真が沢山出てくる。

昔、彼の愛橘(あいきつ)という名前を知ったときのこと。もう何年も前のことだが、今の今までずっと覚えているほど、その名前がはっきりと印象に残った。なんて愛情に満ちた名前なんだろうと思った。
愛橘、あいきつ。
親の愛情のエッセンスをぎゅっと凝縮したかのようななまえだ。漢字、口に出したときの語感、どちらを取ってもすばらしい。
愛するに柑橘の橘という字、やわらかく優しい印象も受けるけれど、無邪気な遊び心も詰まっている。一目見るだけで、両親を含め彼を育ててきた人々がどんな気持ちで彼を迎え、そしてどんな人に育ってほしいと願ったかが手に取るようにわかる。

この名の付けられた人は、調べても彼以外に見つかりはしなかった。紛れもなく彼の両親が考え出した名前なのだと思う。
賢さと共におおきな愛情がなければ、こんな名前は付けられないはずだ。
そうして彼の穏やかな慈愛に満ちた顔を見ると、ああやっぱり彼は愛されていたのだ、と腑に落ちる。子供の名前は、親の愛の形だ。

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