ホラー小説「ドールハウス コレクション」第18話 傷だらけの王子様
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42.愛美 2023年9月27日
下校していたら、帰路の途中にある公園で気になる人を見つけた。
その人はカッコいい感じの女の人だった。
ベリーショートの髪型に中性的な顔立ちといったボーイッシュな雰囲気が魅力的だった。
わたしはその人に一目ぼれしていた。
いつも間にかにカメラを取り出して、気づかれないようにその人の写真を撮っていた。
ボーイッシュな彼女の服装は可愛らしい水色のワンピースで、中性的な感じの中にある女の子を際立てていた。
わたしは頭の中で、ボーイッシュな彼女を人形にしたときの役を考えていた。
彼女は男役が似合いそうだった。
男装して、カッコいい服を着せて女の子にモテモテという設定が頭に浮かんでいた。
この子の名前はツバサにした。
イケメンで、マリーちゃんの王子様。
「そういえば、「ディストピア」というゲーム買った?」
彼女は友達と思われる女の人と会話していた。
わたしはその女の人をツバサちゃんのファンの女の子に置き換えて想像を続けていた。
しばらくすると、ボーイッシュな彼女は友達と別れて、どこかに行った。
わたしは彼女を追うことにした。
彼女を追っていると、道中の階段を上がり始めた。
その時、彼女のスカートの中が見えた。
スカートの中の脚は縦に並んだ傷が見えた。
ケガの傷ではなく、彼女自身が付けた傷だと思う。
彼女は辛い思いをしてきただろうか。
愛されることが無かったのだろうか。
わたしは彼女を救ってあげたいと思った。
彼女をお人形さんにして、可愛がってあげたい。
わたしが抱きしめて、心の傷を癒してあげたかった。
彼女がわたしのお人形さんになったら、彼女は苦しさから解放されるはず。
43.美夏
今日は佳代と公園でデートしていた。
あたしと佳代は恋人同士の仲だった。
今日はお菓子と飲み物を持ってきて、趣味のゲームの話とかしていた。
「ねぇ、美夏ちゃん。大好き!」
佳代にこんなことを言われると、毎回照れてしまう。
佳代はあたしのことを認めてくれる。
恋愛対象も合うし、あたしの辛かった過去も認めてくれる。
あたしはそんな佳代のことが大好きだった。
「もう、時間だね。」
そろそろ、佳代が家に帰らないといけない時間になった。
佳代の家は厳しくて、門限があったりする。
ご両親は同性との恋愛にも否定的で、過去には怒られたこともあったらしい。
「楽しかったよ、美夏ちゃん。」
佳代はそう言って、帰った。
今日はあたしが誘ったけど、楽しんでもらえて嬉しかった。
あたしも家に帰って、しばらく休んだ。
その後、お風呂に入った。
入浴する前に服を脱ぐとき、いつも脚の傷を見て思い出してしまう。
それは、中学の時の弱かった自分を象徴するものだった。
中学生の頃、あたしは愛していた人が女の子だっただけでいじめの対象になった。
あの頃、死にたくて自分で付けた傷。
浴室に持ち込んだカッターナイフの痛みで生きている事を感じていた。
カッターナイフで毎日切って、いつか楽に死ねると思っていた。
ある日、あたしと同じくいじめられていた子があたしの傷を見て「やめてほしい。」と言われてからレッグカットをやめた。
しかし、その子は自ら命を絶った
人が亡くなって、手遅れになった段階でいじめは落ち着いた。
嫌なことの積み重ねで出来た脚の傷。
今もこの傷を見ると、あの頃を思い出す。
佳代も同じようにいじめを受けていたことがあったから、この傷も認めてくれている
過去から訣別したあたしはもうこの傷で苦しんでいない。