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ホラー小説「ドールハウス コレクション」第4話 妹のような存在

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注意喚起

暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています。
この小説はフィクションです。実在の人物及び事件とは関係ありません。


10.愛美 2023年4月24日

今日も学校が終わり、彼女を尾行していた。
マリーちゃんに似ていて可愛いから見たくなってしまう。
やってはいけないことをやっているのは分かっているが、習慣になってしまっている。
正直、彼女に警戒されてないか気になる。

今日もいっぱい拝んで、写真も撮ってから帰った。
わたしは満足した。

家に帰ってから、自分の部屋にあるプリンターで彼女の写真を印刷した。
自分の机に印刷した彼女の写真を額縁に入れて飾ってみた。
他の写真も印刷して、アルバムを作った。
「かわいいね、マリー。」
部屋にマリーが居なくなった日は寂しかったけど、写真という形でまたマリーがわたしの部屋に来てくれた。
わたしは机に飾ったマリーの写真を見ながら勉強を始めた。
「愛美ちゃん、頑張って!」とマリーが言っている気がする。
そのおかげで、勉強が捗りそうだ。
勉強が終わったら、撮影したマリーの写真を眺めていた。
彼女を追い始めて、一週間くらい経つだろう。

「愛美さん、夕食の時間ですよ。」
ちょうど、彼女の写真を楽しんでいたときにお母さんがわたしを呼び出した。
わたしは一階のダイニングルームに向かった。
美味しそうなデミグラスソースの匂いがしていた。
「今日の夕食は愛美さんが好きなハンバーグですよ。」
今日の夕食はハンバーグだった。

わたしは中学生の時の辛い思い出を思い出した。
中学一年生の夏、カナダに留学することになった。
しかし、留学はお母さんが勝手に決めたもので、わたしは行きたいなんて一言も言ってなかった。
留学に行く前日にキャリーケースにマリーを入れて連れようとしたが、お母さんは「置いていきなさい」と言われマリーは置いていくことになった。

カナダでは環境に慣れず、マリーが居ないと寂しかった。
帰国してマリーと会うのを楽しみにして過ごしていた。

日本に帰国した日、久しぶりの実家が懐かしく感じた。
久しぶりの実家の匂いを味わいながら、わたしは笑顔で自分の部屋に戻った。
マリーちゃんに会いたかった。
しかし、自分の部屋にマリーは居なかった。
マリーが居た場所はがらんと空いていた。
わたしはお母さんにマリーがどこに居るのか聞いてみた。
お母さんは「マリー?あの人形ね。捨てたわ。もう、中学生のお姉さんなんでしょ?」
わたしは何とも言えない気持ちになった。
楽しみは孤独に変わった。
「人形遊びはやめて、勉強したりお友達と遊んだりして人とかかわる経験を積みなさい。愛美さんは人形としか会話していないからお母さんは心配なのよ。」
学校では信頼していたクラスメイトに裏切られて、唯一人形のマリーが信頼できる友達だった。
だけど、マリーも居なくなった。
自分の部屋に戻って、ベッドの上のブランケットに抱きついて泣き続けた。
お母さんがマリーちゃんを捨てたことで、わたしは人間が信じることができなくなった。

その後夕食の時間になり、お母さんがわたしを呼んできた。
「今日は愛美さんの大好きなハンバーグよ。」
その日の夕食はハンバーグだった。
大好物だったが、大切なものを捨てられた後にショックを受けて食欲が湧かなかった。
目には涙が溜まって、ハンバーグの像がゆがんで見えた。
お母さんは「愛美さん、食欲無いんですか?」と泣いているわたしにこう言った。
お母さんはわたしの気持ちなんて理解してなかった。
大好物のハンバーグでわたしの機嫌を取ろうとしているようにしか思えなかった。

今、ハンバーグを見て思い出してしまった。

わたしはその思い出を抑えて、今日のハンバーグを味わった。
夕食をとった後、入浴して自分の部屋に戻った。
自分の部屋にある小さい頃のアルバムを取り出した。
2012年、わたしが6歳の頃に撮った写真。
6歳のわたしは人形のマリーを持っていた。
今のわたしより、笑顔で幸せそう。
目もキラキラ輝いている。
あの頃は希望にあふれていて、将来の夢は女優さんだった。
いつの日か、わたしは勉強に追われ、学校ではいじめられて、大切にしていたマリーは捨てられ、夢も忘れてしまった。

友達を失って、悲しかった。
でも、わたしはマリーに似ているきれいな人を見つけた。
しかし、放課後眺めている彼女はマリーではなく、マリーに似ている人。
だけど、それでいい。
彼女はわたしが失っていた楽しい記憶と幸せを満たしてくれる。

次はスケッチブックを取り出した。
マリーを捨てられた後、わたしは前から好きだった絵の世界に逃げた。
紙にわたしの心に居るマリーを表現して、マリーに会っていた。
そこから、わたしは絵のマリーに話しかけるようになった。

スケッチブックにマリーが主人公の世界を作った。
この世界でもマリーは幸せな笑顔を見せていた。
そして、シェリル、さくらといったマリーの新しいお友達を作ったり、小さな頃好きでよくマリーに読み聞かせた絵本のキャラクターやミカエラという名前の自分の分身を絵の世界に入れて遊んでいた。
そこは楽しい世界だった。

絵を描いていて、いじめっ子からバカにされることもあったが、新しい友達もできた。
「この子、かわいいね。」
同じクラスの原田さんはわたしの絵を褒めてくれた。
でも、最初は原田さんのことが信用できなかった。

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