オムライスと創作料理#05「表紙に何載せる?」
『デザインの歴史』が本となって一足早く著者の手元に届いた。感慨深い。
ただ、ページを捲ると身体に拒否反応が出た。〆切のストレスと思われる。博士論文も製本したものを手にした時も同じようにしばらく読みたくなかったのを思い出す。発売日くらいまでは読まずに寝かせておこう。
と思ったが、翌日くらいには平気になった。
パラパラと捲ると、嗚呼、出るわ出るわ細かいミスが。。。
大勢に影響ないものがほとんどなので、その点ではまだ良かったが、トンボ付きの出力紙で見るのと裁ち落とされてる本で見るのってやっぱり注意力の集中度が違うのだと痛感。
少なくとも私の担当ページに関しては正誤表的なものをnoteにも載せようと思います…。すみません。
表紙に何を載せるか
実物が手元にある状態ではあるが、まだ出版前なので、紙面を紹介するわけにはいかないので、今回は表紙について。
とりあえず、類書の表紙を見てみよう。
まず、現在の最大のライバル『増補新装 カラー版 世界デザイン史』の表紙はどうなっているかというと、
このように赤と黒を基調にまとめられ、黄緑青の3色がアクセントになっている。それなりに良い感じだと思う。
左上からスイスのグラフィックデザイナー、ヨーゼフ・ミューラー=ブロックマンのポスター、マッキントッシュの椅子《ラダーバックチェア》、バウハウスの教育課程表、ピニンファリーナのチシタリア《202》である。グラフィック、木製家具、車(金属製品)ということになる。
私が学生時代に見た『カラー版 世界デザイン史』はもっと地味だった。
画面の大半を占めるのは、アメリカのイラストレーター、マックスフィールド・パリッシュ(1870-1966)のイラストである。申し訳ないけれど、パリッシュさんが「世界デザイン史」を代表する人であるとはとても思えない(今調べるまで知らなかった)。当時はすごい売れっ子だったようだが。そして色使いが地味(渋いとも言える)。私のこの本に対する印象があまり良くない(そして買わなかった)のは多分この表紙のせい。
そしてその下にラリックの《蜻蛉の女性》。これは有名だが、「でも工芸だよね?」という疑問符が浮かぶ。
最後に右下にスウォッチが2本。スウォッチというチョイスには異論はないが、こんなに小さくする必要あるか…? 小さすぎて全く印象に残っていなかった。
「グラフィックデザイン」と呼び得るか微妙なイラストレーション、工芸品、カジュアルな工業製品。著しくバランスが悪い3点ではないだろうか。これで「世界デザイン史でござい」と言われても、まず手に取る気にならないでしょ。それに対して増補新装版の表紙は上述の通りバランスが取れている。手がけた編集者に拍手を送りたい。
もう一冊近年出た教科書として、先般亡くなられた柏木博さんと松葉一清さんの共著本『デザイン/近代建築史』(2013)がある。
左上からウィリアム・モリスの『チョーサー著作集』、《クリスタルパレス》内観、サーリネンの《チューリップチェア》、マッキントッシュのステンドグラス、エル・リシツキーの『ヴェシチ』創刊号、ギマールのパリ地下鉄入口、そして9.11で崩壊したミノル・ヤマサキの《ワールド・トレード・センター》である。
鹿島出版会の本らしく黒地に図版7点がレイアウトされているのだが、ちょっと多過ぎる。グラフィックデザインというか平面構成としても相当微妙である。『チョーサー著作集』を《クリスタルパレス》にかぶせた意図が不明だし、《チューリップチェア》が「柏木博」の文字に近過ぎる。デザインを学ぼうという学生がAmazonでこの書影を見て買う気になるか?否。センス悪くなりそうだもん。申し訳ないけど。
あと現在絶版ではない教科書的な本としてはトーマス・ハウフェの『近代から現代までのデザイン史入門』がある。これも良書だと思う。ドイツ中心に書かれていて面白い。
この本の表紙は目次のタイポグラフィでちょっと珍しい印象。すっきりとしている。
驚愕することに、この本の原著の表紙はこんなにゴテゴテしているらしい…。
結果こうなった
再掲するが、今回の我々の本の表紙はこうなった。
本書内で使用されている図版5点がレイアウトされている。
バウハウス校舎とミュシャは有名なので、ちょっとデザインに興味がある方なら馴染みがあるだろう。左上の《パントンチェア》も定番であるが、緑色はちょっと珍しいかもしれない。
ダイソンの「羽根のない扇風機」こと《エアマルチプライアー》は衝撃的な登場(2010年には圧倒的な得票でのグッドデザイン賞大賞)から10年以上経ち、すっかり定着している。今回の本の現代性(2010年くらいまでを扱う)を象徴する一品と言える。
攻めたのが左下のエレクトリックギター《フライングV》だ(これについては次回あたりに書くつもりでいる)。
家具、建築、グラフィック、家電。また樹脂と金属と木材と偏りのないよう選んだ結果である。私はダイソン《エアマルチプライアー》と《フライングV》を推しただけで、レイアウトその他は編集者とグラフィックデザイナーによる。
この表紙が激賞されるほど素晴らしい表紙だとは思わないのだが、少なくともどんな本か、内容は伝わるものになっていると思う。(つづく)