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恋する惑星に生まれて
1996年に私はレンタルビデオ店で借りた
王家衛監督の「恋する惑星」を初めて観た。
センター試験の日の2日前に、
阪神大震災が起こり、
卒業旅行の日に地下鉄サリン事件が起きた。
そんな私の19歳は、
原田宗典さんの『何者でもない』の空気感を
それ以上でも以下でもない思春期の抜け殻に、
パンパンに詰め込んでギラギラしていた。
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ウォン・カーウァイ監督の作品は
圧倒的に映像が緑色がかっている。
撮影監督のクリストファー・ドイルの
緑色のフィルターは滴り落ちるくらいに
とろみがあるスローモーションに似合う。
発光体としか言いようのない
フェイ・ウォンの黄色いシャツが
緑色のガラスに写るウォークスルーあのシーン。
あの美しさをどう表現していいかわからない。
恋する惑星のすべてに衝撃を受けた。
あの緑味の強い映像の雷に打たれたのだ。
California Dreaming
ママス&パパスの名曲。
あのイントロだけで火がつく。
フェイ・ウォンが歌う
夢中人と訳された主題歌も
イントロだけで飛行機が頭上低くを飛び去る。
原曲はクランベリーズのDreamsだが、
裏拍のハイハットまでビッタビタに合わせてる。
街中であの緑色を見るたびに
サントラは爆音で何度も鳴りはじめた。
しかし、
それを越える映画があるのだ。
それは「ブエノスアイレス」だ。
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その映画は16年前に、
アメ村のパラダイスシネマで観た。
あまりにも感動した私は、
シアターを出るまでに5回吐いた。
もちろん嘘だがそれくらい感動した。
脳みそのシワから全身の毛細血管まで
濃度10倍のバスクリンに浸かったような感じ。
濃くて深い蛍光グリーンに、
25年以上たった今日もまだ酔っている。
そんな影響を受けた。
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カエターノ・ヴェローゾ、
フランク・ザッパ、
アストル・ピアソラ、
最後はタートルズのカバー。
全然HappyTogether ちゃうやん!
なのだが、よくよく考えるとわかる。
Togethernessは、
まぎれもなくハッピーだからだ。
ふと絶望感や孤独感を忘れてしまう。
それくらいの錯覚を起こす緑色の発光体。
その正体だったりする。
ルー大柴の名言
「トゥギャザーしようぜ」や、
シャンプーハット小出水のギャグ
「オーマイガットトゥギャザー」も実は深い。
クリストファー・ドイルが
ブエノスアイレスの公開記念イベントに来る。
アメ村のグランカフェに来る!
それを知った私は当然そこに行くしかなかった。
影響を受けてカメラを何台も買い、
あの緑味あふれる画像に、
何とか近づきたいと撮りまくっていた。
いわゆるそんな何万人の中の一人だ。
そんな私がクリスに対面し、
私のコラージュアートを手渡せた日がある。
それだけで尊い話ではないか。
彼は酔っており上機嫌でキスをしてきたが
とにかく私はその時の記憶がない。
素晴らしい日々だった。
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