前立腺肥大症の標準治療に竜胆瀉肝湯の追加は有益ですか
〇はじめに
前立腺肥大症は、高齢男性における進行性の疾患であり、その有病率は人口の高齢化とともに増加します。前立腺肥大症は下部尿路症状の主要な要因の一つであり、高齢男性のQOLを低下させる原因となります。
前立腺肥大症の第一選択薬は、α遮断薬単独または5α-還元酵素阻害薬との併用ですが、症状や疾患の進行に対する効果はそれぞれ異なることが分かっています。さらに、第一選択薬の投与患者において、めまい、射精障害、起立性低血圧、頭痛、口渇、鼻炎などの副作用が観察されています。
患者の症状を改善するために、八味地黄丸や竜胆瀉肝湯などの伝統的な漢方薬が提案されました。
〇漢方の先行研究
2003年、吉村らは八味地黄丸を投与された41名の患者において、タムスロシンを投与された患者に比べ、尿流計のパラメータが改善されたことを報告しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14598687/
[Two-week administration of low-dose Hachimi-jio-gan (Ba-Wei Di-Huang-Wan) for patients with benign prostatic hyperplasia]
Koji Yoshimura, et al.
Hinyokika Kiyo . 2003 Sep;49(9):509-14.
また八木らの研究は、α遮断薬投与患者に八味地黄丸を追加することで、下部尿路症状/前立腺肥大症の患者のQOLと国際前立腺症状スコアの改善に有効であることを示唆しました。
https://pesquisa.bvsalud.org/portal/resource/pt/wpr-377011
Effect of Hachimijiogan for male lower urinary tract symptoms
Hiroshi Yagi, et al.
Kampo Medicine ; : 49-53, 2015.
古屋らは、竜胆瀉肝湯が、経尿道的前立腺切除術後の痛みや不快感に対して治療効果を発揮する可能性があると報告しました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/54/1/54_1_183/_article/-char/ja/
Clinical Investigation of the Efficacy of Ryutan-shakan-to in the Treatment of Postoperative Pain and Discomfort Following Transurethral Resection of the Prostate
Seiji Furuya, et al.
kampo medicine ; : 54.183-189, 2003.
Jinらは、2018年に八味地黄丸のシトクロムP450とUDP-グルクロン酸転移酵素への影響を検討し、生薬は高濃度でもヒトミクロソーム薬物代謝酵素にほとんど抑制効果を示さないことから、タムスロシンの代謝に影響を与えず生薬-薬物相互作用を欠くことが示唆されたと報告しています。
以上の結果より、漢方薬は副作用のある患者や従来の内科的治療が無効な患者において、前立腺肥大症およびQOLの改善に補助的な効果を発揮する可能性があると考えられます。しかしエビデンスは不十分であり、推奨度は低いことが示唆されました。漢方薬との併用療法の効果・効能を比較する詳細かつ大規模なプラセボ対照臨床試験はまだ実施されていません。
本研究は、前向き無作為二重盲検法を用いて、タムスロシン、八味地黄丸、竜胆瀉肝湯の併用療法の有効性と安全性について初めて記述したものです。
〇論文の概要
「前立腺肥大症による下部尿路症状に対するタムスロシンと伝統的漢方薬の併用療法:二重盲検無作為化パイロット臨床試験」
【目的】前立腺肥大症による下部尿路症状に対するタムスロシンと八味地黄丸または竜胆瀉肝湯の有効性と安全性を評価する。
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