「レガシーさ」に対して プロダクトマネージャーはどう向き合うべきか
こんにちは、稲垣慶典(@InagakiKay)です。
エンジニアと薬剤師によるチームで、次世代型オンライン薬局をつくっているPharmaXでプロダクトマネージャーをしています。
薬局を含む医療領域は、いわゆるレガシー産業と呼ばれるような、古い仕組みや手法が多く残っている領域です。デジタル活用の伸び代がある一方で、何でもかんでも新しいものを導入すれば良いかというと、必ずしもそうではなく、レガシーな手法との向き合い方が重要なのではと感じてきました。
本記事では、レガシー産業で遭遇する「レガシーさ」への向き合い方について考えてみたいと思います。
PharmaXの取り組みについて
まずはじめに、簡単に弊社の取り組みを紹介させてください。
PharmaXはその名前の通り、薬局(Pharmacy)をテクノロジーを活用して変革し(X)、次世代型の薬局を実現しようという会社です。
東京・四谷に薬局を構えており、薬剤師などの医療者とエンジニアなどの開発チームが一緒になって0から新しい薬局の在り方を考えながら、ソフトウェア×オペレーション(Ops)のプロダクト開発しています。
しかし、なぜIT系スタートアップなのにソフトウェアに完結した解決でなく、オペレーションや現場を持つ「重い」取り組みをしているのかという疑問が出てくるかもしれません。
それに対しては、医療というレガシー産業でDXを実現するためには、Opsや現場に入り込んでプロダクトづくりをしなければ根本的な課題解決ができないと考えているからです。
そもそも「レガシー」とは何か
そもそもレガシーってなんだろうと思い、ChatGPTさんに聞いてみましたが、要するに古いやり方や仕組みを未だに使っている領域というネガティヴな意味合いとして使われている言葉なんだろうなと思います。
私自身、手段としての古さにのみフォーカスしてしまい、結果、いまいちな打ち手をやってしまったことが多々ありました。
「いやーそんな古いやり方よくやってるな」
→「XXXというツールを導入しましょう!以上!」
→業務が複雑になる…....ミスの温床になる……
→ミスを防ぐためにさらに業務が複雑になる……
→面倒になり誰も使わなくなる……
こうした失敗たちからの学びは、レガシーにも良いレガシーと悪いレガシーがあるのではというものです。
特に意図はなく「以前からこうやってきたんで」という類のものは、悪いレガシーだと思います。その場合はやめる、やり方を変えるがシンプルに有効だと思います。
しかし、実は明確な意図を持って「あえて」やっているものや、ぱっと説明は出きないけれど整理していくと意図があるものもあります。
そのような良いレガシーの裏側にはプロダクトづくりのヒントとなる重要な視点や経験による学びが埋もれており、それを引き出した上で活用することが、レガシー産業でプロダクトづくりをするためには必要なのです。
「良いレガシー」を活用できるチームづくり
では、どのようにしたら良いレガシーを見極め、チームとしてそれを活かし続けられるのでしょうか。
まだ解を見つけられているわけではないですが、これまで悩んできて学んだことをシェアさせてください。
従来手法をリバースエンジニアリングをする
レガシーなやり方をリスペクトし、愚直に深ぼることが極めて重要です。
ドメインエキスパート(医療者)の方に聞けば聞くほど、びっくりするぐらい明確な意図をもって、あえてやっていることが多かったりします。
表面から見える手法は、まるで氷山の一角でしかなく、その裏に埋もれている意図にこそ、その業界を突き詰めてきたからこその経験による学びや創意工夫の集積を見ることができます。
こういった意図を汲むことができなければ「素人の考慮漏れ」や「車輪の再発明」をするどころか、その業務の本質を掴めなかったりします。
注意すべきなのは、多くのケースで当事者も意図を言語化しきれていないことがあるということです。
お話を伺う中で本人が「あ、こういうことなのか」と見えてくるケースで、即答できないから意図はないとしてしまわないのが重要だったりします。
目の前のレガシーなやり方は氷山の一角でしかなく、その裏側をドメインエキスパートの方と一緒に見ていくというスタンスが必要かなと思います。
健全な綱引き状態を作る
しかし、良いレガシーを見つけ、それを深ぼる姿勢は重要だと思いつつも、チームの単位ではどうしても思うようにいかないことがあります。
無意識のうちに、それぞれのバックグラウンドの慣れ親しんだやり方や考え方に引っ張られてしまいます。医療バックグラウンドの方は従来のレガシーな手法に引っ張られてしまうし、ITバックグラウンドの方はテック的な手法に引っ張れてしまいます。
それ自体は正しいのですが、問題は、プロダクトづくりの(役割的に)中心にいるプロダクトマネージャーもどちらかに引っ張られてしまうことで、チームとしてのレガシーさへの向き合い方が、アンバランスになってしまうことです。
特にあるあるなのが、ITバックグラウンドのプロダクトマネージャーの場合(ほとんどがこちらだと思いますが)、本人が感覚的にテック的な手法を好むあまり、無意識のうちにレガシーさを軽視しチームの雰囲気としてもレガシーの裏側を深ぼる雰囲気が薄まってしまうことです。
良いレガシーの多くが、意図が明確ではないけれど、深ぼると実は埋もれているケースであり、それを医療者が即答・明言できないからこそ、レガシーから学ぶ引力も弱くなりがちです。
IT側の声が大きくなりがちだからこそ、アンバランスに引っ張られてしまっていないかという状況把握をしていくことが大事です。
「健全な綱引きが大事なので、もっとグイグイ言っても大丈夫ですよ」「このやり方、重要な意図がありそうなので一緒に考えてみませんか」というように、状況に応じてドメインエキスパート(医療者)へのサポートをすることがプロダクトマネージャーの重要な役割ではないでしょうか。
素人さを持ち続ける
最後に、一方でという話なのですが、向き合い続けるなかでプロダクトマネージャー自身の理解が深まっていくと、どこかでレガシーさに染まってしまう感覚がでてきます(今の私はまさにそうです…)。
先ほどの引力の話であれば、従来のやり方に対して理解しすぎてしまうという現象が起きたりします。
これは健全な綱引きにつながる話ですが、バランスを保つために、自分自身もしくはチームの誰でも良いので、「素人さ」を持つというのが重要だと思います。それを失ってしまうと、業界のやり方に毛が生えただけのことをやることになり、本質的な新しい体験構築はできなくなってしまいます。
まだ解は無いのですが…..素人さをチーム内に持ち続けるためには以下のような工夫をしていみると良いのかもしれません
「は?」と言われるくらい”素人な”アイデアが出ているか観察する
「それオモロいやん」という空気感をチームでつくる
定期的に外の人のフレッシュな視点を取り入れる
別業界のやり方を一緒に見学しに行く
業界の試行錯誤の積み重ねであるレガシーさから学びつつ、”素人”のピュアなアイデアを掛け合わせてテクノロジーで実現する、これをバランス良く実現できるチームこそが、レガシー産業で良いプロダクトを実現できるのではないでしょうか。
さいごに
まとめです。
レガシーと一言で片付けない。レガシーさから学ぶ
チーム内で健全な綱引き状態になるようにバランスを取る
レガシーさの裏にある意図を言語化するサポートが重要
素人さを失わない工夫をする
ソフトウェア×Opsでプロダクト開発をするからこそ、レガシーさによる難しさに直面しますが、その分、難しいから面白いという感覚を持っています。
プロダクトマネージャーにとっては絶好の腕試しの機会をご提供できる環境だと思いますので、ご興味ある方は気軽にお声かけください!
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