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『プロダクト・レッド・オーガニゼーション』をエンジニアが読んでみた学び

はじめに

こんにちは。PharmaXのエンジニアの古家(@enzerubank)です!

個人的にアジャイルが好きで学んでいるのですが、アジャイルは柔軟により顧客にとって価値ある機能を素早く提供していくためのプロセスであって、「何を作るか」の部分に対して影響を与えることにどうしても限界があるなと感じていました。

エンジニアのキャリアとしては、大きく「スペシャリスト」と「マネジメント」の2つの方向があります。ビジネスについて理解したうえで何をプロダクト開発に落とし込むべきかを考える能力は、どちらの方向に進むとしても、高いレベルのエンジニアは大前提として身につけているものだと考えていまして、そういった能力を磨くためにはプロダクトマネジメントを学ぶことは良い方法だと思います。

プロダクトマネジメントまわりを学ぶ中で、『プロダクト・レッド・オーガニゼーション』という本がよく取り上げられているのを目にするため、今回読んでみることにしました。

本記事では『プロダクト・レッド・オーガニゼーション』の全体像と、個人的に学びが深かった内容について紹介していければと思います。

またfukabori.fmで翻訳者の横道さんが内容を解説してくれているので、先に聞いてから読むとイメージが湧きやすくなってよいかなと思います。

プロダクトレッドグロースとの関係

プロダクトレッドオーガニゼーションは、日本語に訳すと「プロダクト主導型組織」という意味になります。レッドは導くのleadですね。

似たような名前で『プロダクト・レッド・グロース』という本があるのですが、そちらはプロダクトレッドグロースを推進しているコンサル会社の人が書いた本なのでかなり体系的に書かれています。従来のセールスがプロダクトを売るというやり方ではなく、プロダクト自身がプロダクトを売るようにすることで、グロースを目指す考え方になります。

一方で『プロダクト・レッド・オーガニゼーション』は、米国でアプリ分析プラットフォームを提供しているPendoという企業のCEOが、実際にプロダクトレッドグロースを推進するような組織にするためにはどのようにやっていけばよいか本人が実践していった内容を生々しく学べるような一冊になっています。

それぞれ趣旨が異なるため、両方読んでみるといい感じに補完されるのでオススメです。

PART1. データを活用して優れたプロダクトをつくる

PART1では、プロダクト自身がプロダクトを売っていくという流れを作るためには「データというものがとにかく大事である」ということが強く語られているパートになります。

終わりを思い描く所から始める

データの大切さを語っているパートなのですが、一番最初に出てくるのがサイモン・シネックさんの有名なTEDトーク「Whyから始めよ」なのが印象的でした。

人を動かす偉大な組織やリーダーというのはWhy(なぜ?)→ How(どうやって?)→ What(何を?)の順で考えて実行している共通点があるという話です。

素晴らしいプロダクトを生み出すプロダクトマネージャーの仕事の核心は、この「Why」を仕事に結びつけることであり、Whyを表現する目標設定の方法としてはSMARTフレームワークが推奨されています。

  • 具体的である(Specific)

    • 何を達成し、どんな行動をとるか

  • 計測可能である(Measurable)

    • 進捗を把握するデータをどのように取得するか

  • 達成可能である(Attainable)

    • 目標は現実的か。守りに入らず、かといって明らかに失敗するようなものでもないように

  • 関連性がある(Relevant)

    • ビジネスの戦略上の目標に繋がっているか

  • 時間的制約がある(Time-bound)

    • 目標達成までの時間を定義しているか

この章ではプロダクトの成功を追跡可能にするために、戦略上・運用上・顧客に関わる目標を設定する方法について述べられています。

測るもので決まる

この章ではプロダクトの目標達成に向けた計測可能なメトリクスについて説明されています。

メトリクスの動く所に力は注がれるものなので、本来のビジネスとかけ離れた成果をもたらすようなメトリクスを選ばないように注意が必要とのことで、戦略上・運用上・顧客に関わる指標の例が挙げられています。

  • 戦略・ビジネス指標

    • ARR(年間経常収益)・MRR(月間経常収益)

      • プロダクトの利用料に関連するもの

    • コンバージョン率

      • 無料→有料への転換率

    • CAC(顧客獲得単価)

      • 顧客を獲得し、有料顧客へコンバージョンさせるために必要なマーケティング・営業の費用の合計

      • CACを下げるためにコンバージョン率に注力するのが一般的

    • LTV(顧客生涯価値)

      • 顧客の将来の潜在的な収益の指標

      • 粘着性があり、素晴らしいプロダクト体験を初期に作る必要がある

    • NRR(売上継続率)

      • 当月に新規獲得したMRRが翌月にどれくらい継続しているかを図る指標、一般的には100%を超える値が期待される

    • 売上総利益

      • 売上高から売上原価を引いた金額

  • 運用指標

    • 時系列での利用状況

      • MAU(月間アクティブ利用状況)

      • WAU(週間アクティブ利用状況)

      • DAU(日間アクティブ利用状況)

        • これらのメトリクスを使用するためには自社プロダクトの「アクティブな利用状況」が何を意味するのか定義する必要がある

        • FacebookではDAUは重要だが、Airbnbのように毎日旅行しないサービスでは別のKPIが必要など

    • 粘着度

      • 月間ユーザーのうち、毎日戻ってきてくれるユーザーの割合

        • 例:毎日の利用率 / 月間ユーザー数

          • 平均DAU / MAU

    • 機能の定着率

      • 前提として80%以上の機能はほとんど使われていない

      • 機能の定着状況を計測することで、ターゲットの行動を理解することができるし、新しく機能を作る時に一定以上の機能定着率を目標に設定することは有用

    • プロダクトのパフォーマンス、不具合状況

    • ユーザーのタスク完了率

戦略・ビジネス指標は遅行指標なので、ビジネス成果と相関のあるプロダクトの運用指標(先行指標)を特定することで、期中に軌道修正を行うことができるという話でした。

ここで紹介したものは企業目線の指標ですが、より顧客目線の指標やインサイトを得る手法も本章で紹介されているのでぜひ読んでみてください。

PART2. プロダクトは顧客体験の中心にある

ユーザーを顧客に変える

citrixという会社のプロダクトチームでトライアルから有料ユーザーへのコンバージョン率を向上させた事例について紹介しています。

学びの要点としてはオンボーディングの重要性が挙げられていて、ユーザーがやりたいことを可能な限り早く、シンプルな方法で正確に示せば、ユーザーは価値を見出し、定着してくれるというもの。

ユーザーのコンバージョンを計測し、最適化する方法の一例はこちら

  1. プロダクトの利用状況を追跡し、コンバージョンしやすいユーザーの行動を把握する。顧客や見込み顧客がコンバージョンした時点でその頻度を追跡することで、ユーザーの体験を改善すべき機能を特定したり、ユーザーが自分に適した新しい機能を発見できるようにメッセージやツールチップを追加する

  2. 顧客の健全性に関するベンチマークを設定する。これには機能の定着状況、機能継続状況、NPSなどを組み合わせたものが考えられる

  3. コンバージョン、契約更新、拡大の先行指標を決定する

  4. カスタムメッセージを含む、アプリ内メッセージングをまとめた資料を作成する

  5. どのコンテンツがうまくいっていて、どのコンテンツがそうでないかを計測する

顧客を得るためには営業チームの力が不可欠であることは変わりませんが、プロダクト主導型企業では、ユーザーのコンバージョンを促進するためのプロダクト自体の力を認識する必要があり、そのためにはユーザーの行動を計測し、何をコンテンツとして伝えれば、プロダクトを早く使いこなしてもらえるのかを考えるのが非常に重要であることが学べる章です。

PART2の他の章で、具体的にどうオンボーディング体験を設計していくのかという話も詳しく述べられているのでぜひ読んでみてください。

PART3. プロダクトデリバリーの新たな方法

最初のPART1-2で取り上げたテーマにうまく取り組んでいくためにはプロダクトデリバリーのための戦略が必要になります。

顧客・チーム・チーム内でのコラボレーションが必要になるし、データを活用した優れた顧客体験を提供することに焦点を当てながらも、新プロダクト・機能のデザイン、デリバリーに対するアプローチも見直す方法を学ばなければならず、このPARTではこのテーマについて紹介されています。

ダイナミックなロードマップ

機能に優先順位をつける前に機能がビジネス全体の戦略やビジョンと整合しているかどうかを確認することが重要です。解決しようとしている市場の課題は何か?対象となる顧客、その業界、ペルソナは誰か?市場機会は何か?どこに成長の最大の機会があるのか?これらは機能レベルの議論を行う前に解決しなければならない戦略上の問いになります。

これらのプロダクトビジョン、プロダクトの目標と各ロードマップへのひも付きをプロダクトチーム全体が理解できているかが大切になります。

モダンなプロダクトチームを作る

この章ではプロダクトオペレーション(プロダクトOps)という概念について紹介されています。プロダクト主導型組織ではプロダクトOpsに責任を持つ人を決めるべきで、同時にプロダクトチームのメンバー全員がオペレーションの考え方を身につけるべきだと述べられています。

プロダクトOpsはプロダクト・エンジニアリング・カスタマーサクセスが交わるところに存在し、プロダクトのフィードバックループを強化することで、新機能のヒット率を高めたり、どの機能が顧客の満足度と相関しているかをプロダクトマネージャーが理解できるようにしたりする人です。

エンジニアリングも理解した上で顧客からのフィードバックをプロダクトに跳ね返せるチーム作りの重要性が学べる章になります。

本を読んでみての学び

プロダクト作りにおいて何となく大事だよねと思っていたことが、具体的に言語化されていて、目指す理想の頂きの高さを実感することが出来ました。

個人的に特に学びになった章は「測るもので決まる」と「ダイナミックなロードマップ」です。ロードマップのプロダクトビジョン・目標・指標との繋がり、各指標の理解を深め、指標の達成への拘りを持つこと。まずはここが出来ていなければ、何も始まらないなと感じました。

プロダクトのゴール・指標への高い理解度・戦略の実践ができている上で、プラスαとして顧客の理解を深め、顧客からのフィードバックをプロダクトに反映していく流れかなと。

ビジネス・戦略理解度が高いエンジニアが多いプロダクトチームはかなり強いなということが実感できたので、まずは自分自身から学び、周りへ布教していきたいと思います。


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