第10章:戦争の損得勘定 ー 科学技術、経済への影響とその真実
1. 科学技術の進歩と戦争の関係
米国の例を見てみると、2023年のアメリカ国防予算は約8,580億ドルでした。この資金が全て軍事技術開発に直接使われているわけではありませんが、膨大な予算が戦争関連の開発に費やされています。
一方で、NASAやNIH(米国立衛生研究所)といった平和的な技術・医療研究機関の予算は、それぞれ約250億ドル、約430億ドルです。
仮にこれらの予算が2倍、3倍と増額されるとしたら、医学や環境技術の進歩がさらに加速する可能性があります。
RAND研究所の試算によれば、イラク戦争とアフガニスタン戦争では、約2兆ドル以上が使われました。もしこれらの費用を医療や再生可能エネルギーの分野などに投入していた場合、長期的なリターンは、その5倍以上に達した可能性があると推定されています。
2. 経済への影響
ヨーロッパの例では、第二次世界大戦によるインフラ再建に数十億ドルが費やされました。アメリカからのマーシャルプラン支援だけで約130億ドル(現在の価値で約1,350億ドル)が投入されました。これによりGDPは増加しましたが、戦争によって発生した破壊がなければ、これらの資金が教育、医療、インフラ整備に使われていたはずです。戦争がもたらすのは、一時的な「見せかけの成長」であり、実際には長期的な経済発展を大幅に遅らせる要因となります。
イラク戦争での米国の出費は、復興費用を含めると3兆ドルを超えていました。ハーバード大学の経済学者、リンダ・ビルメズ博士の研究によれば、仮にこの金額をインフラ整備や教育改革に投入していた場合、約6兆ドル相当の経済的リターンが得られていた可能性があるとされています。
これらの背策によって、米国内の経済成長が促され、生活水準も大きく向上した可能性が示唆されており、いかに戦争が割に合わないものかがわかります。
3. 戦争の機会費用と人間の幸福への影響
イギリスの歴史家ニール・ファーガソンの研究によれば、戦争は一時的には経済を活性化する面もありますが、実際には若い世代が多く戦死することにより、戦後数十年にわたりGDPが約2~3%低下するとされています。
これによって、現役世代の税や社会保障などの負担が増大します。戦争によって失われる人材の価値も、米国では約1兆ドル以上と推定されています。
戦争の影響は経済面にとどまらず、社会的・心理的コストとしても現れます。米国退役軍人省のデータによると、アフガニスタンやイラク戦争から帰還した兵士の30%以上がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えており、これらの治療には年間約200億ドルが費やされています。また、戦争によるトラウマがコミュニティ全体に悪影響を及ぼすため、社会全体の生産性が低下し、経済成長の妨げにもなります。
結論として、戦争は短期的な経済成長をもたらすように見えても、実際には大きな長期的損失を引き起こすことが明らかです。
膨大な軍事予算や戦後復興にかかる資金を、基本的なインフラや人々の生活を豊かにするために使うほうが、普通に考えて「得」なのは明らかです。
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