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アビガンの作用機序~耐性がでにくいわけ~
2月にアビガンについて書きました。当時は大きなイベントが中止になるなどして不安な部分もありつつ、まさかこんなに世界中に感染が拡大するとは思ってもいませんでした。
ちょうど2ヶ月前ですね・・・。
この記事の中で、簡単にアビガンがなぜ効くのかを書きました。現在治験中ですが、治験終了後は速やかに使用されるようになるのではないかと思います。
改めて作用機序について
と、
なぜ耐性ができにくいのかを記載していきます。
※現在の適応症は新型インフルエンザウイルス感染症の為、インフルエンザウイルスの感染増殖メカニズムを使用します。
動画でも同じことをお話しています。お時間あるかたはどうぞ。
インフルエンザウイルスの感染増殖メカニズム
世の中には多くのウイルスが存在しますが、大きくDNAウイルスとRNAウイルスに分けることができます。
そしてウイルスは自己増殖することができないため、ヒトや動物などに感染して増殖します。
インフルエンザウイルスやコロナウイルスはRNAウイルスであり、「一本鎖RNA」を持っています。
このウイルスの図を使ってそのメカニズムを見ていきましょう。
①吸着
ヒトの体内に入り込んだウイルスは細胞内に取り込まれます。その第一段階として細胞に「吸着」しなければなりません。ウイルスの表面には「スパイク」と呼ばれる突起があり、その突起が細胞表面上に結合します。
②侵入
吸着したウイルスが細胞内に取り込まれます。このときヒト細胞膜に包まれるような形で侵入します。
③脱殻
ウイルスを包んでいたヒト細胞膜とウイルスの殻の部分が融合され(膜融合)、ウィルスの殻が破られます。そしてウイルスのRNAがヒト細胞内に放出されます。
④転写
放出されたウイルスのRNAはヒト細胞核に取り込まれたのち、ヒトのDNAを利用してmRNAの合成(ウイルスの殻をつくる元)とRNAの複製(RNAのコピー)をします。
⑤翻訳
合成されたmRNAからウイルスの殻をつくります(たんぱく質合成)
⑥出芽
合成されたウイルスの殻と複製されたRNAがあわさり新たなウイルスとなります。そして細胞内で作られたウイルスは他の細胞へ感染するために細胞の外に出ます。このときのウイルスはまだヒト細胞の表面に繋がれた状態です。
⑦遊離
繋がれた状態では他の細胞へは感染できないため、酵素を使って切り離されます。インフルエンザウイルスの場合は「ノイラミニダーゼ」という酵素が働きます。
以上がインフルエンザウイルスの感染・増殖メカニズムとなります。
なぜ耐性ウイルスが生じるのか
ウイルスは上記のように元のRNAから複製、いわゆるコピーをして増殖していきます。その中で遺伝子変異が起こり、これが薬剤耐性ウイルスの供給源だと言われています。
既存の抗インフルエンザ薬の作用を図に示します。
現在の主流はタミフルなどの「ノイラミニダーゼ阻害薬」です。
細胞からの遊離に関与している「ノイラミニダーゼ」を選択的に阻害することで、他細胞への感染を防ぎます。
また、ゾフルーザはmRNAの合成を阻害することでウイルスの殻となるタンパク質合成を阻害します。早期に服用することでウイルスの増殖自体を防ぐことができます。
しかしこれらはRNAの複製を防ぐことはできまん。ですので、容易に薬剤耐性ウイルスが発現してくるのです。
アビガンは転写を阻止
それではアビガンはどこに作用するのかというと、転写を阻止します。
RNAの複製とmRNAの合成を阻止することができるのです。コピーをつくることができないため、耐性ウイルスが発現しにくいのです。
実際、インフルエンザの臨床試験では、アビガン投与前後の57ペアのウイルスの薬剤感受性に変化はなく、耐性ウイルスは分離されなかったとの報告もあります。(Takashita E, et al:Antiviral Res. 2016;132:170-7)
現在は治験中
新型コロナウイルス感染症患者への投与は、発症6日までにアビガンを開始すれば、ウイルスの早期消失、咳嗽の軽減、肺炎の進行や重症化が阻止できると言われています。(「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療候補薬アビガンの特徴」より)
現在、その有効性や感染症患者への安全性を治験にて検証をしています(2020/4/20現在)。通常、治験終了後、承認されるまで1年程度かかるのですが、今回は1.2ヶ月程度と言われています。
医療崩壊をおこさせないためにも早期に承認されることを期待します。
文献・資料等
・Takashita E, et al:Antiviral Res. 2016;132:170-7
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療候補薬アビガンの特徴
・各製剤添付文書