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2025年1月~2月におけるPMDA審査情報の総括と考察
2025年1月から2月にかけてPMDAが公表した審査関連情報は、実に多岐にわたります。新医薬品の承認品目一覧の更新やコンパニオン診断薬・未承認薬に関する最新情報、GMP適合性調査の実績報告とリスクベースの査察運用方針、医療機器の安全性評価指針の解説、さらには各種相談窓口やイベント開催のお知らせまで――承認審査・品質管理・治験支援を取り巻く広範なトピックが次々と公開されました (新着情報(審査関連業務) | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)。
これらの発信内容は、製薬業界や医療機器業界にとって、最新の規制対応を示唆するだけでなく、承認取得プロセス上のポイントや企業戦略面でも非常に大きな意味を持ちます。また、PMDAと業界双方が参加する説明会や「Early Consideration」といったイベントも活発に行われ、最新の科学的知見や規制要件が共有されている状況です。総じて、2025年初頭のPMDAは革新的医薬品をスピーディに承認しつつ、品質・安全性をしっかりと担保するためのガイドライン整備や業務効率化、新興分野への対応強化に注力しているといえるでしょう。
審査情報
承認された医薬品と関連情報:
2024年度承認品目一覧(新医薬品)の公表(2025年1月6日付)
2024年中に審査と薬事審議会を経て厚生労働大臣が承認した新有効成分含有医薬品が一覧として提示されました
(新着情報(審査関連業務) | PMDA)
(2024年度承認品目一覧(新医薬品) | PMDA)。
これにより、前年に承認された新薬全体の状況を把握できるようになっています。コンパニオン診断薬等の情報更新(1月6日付)
がん領域をはじめ、特定医薬品の効果や安全性を最適化するために不可欠なコンパニオン診断薬に関して、最新の体外診断薬・医療機器情報が公開
(コンパニオン診断薬等の情報 | PMDA)。未承認薬データベースの更新(1月10日付)
国内でまだ承認されていないものの、医療上の必要性が高い薬剤リストに新たな情報が反映されました
(新着情報(審査関連業務) | PMDA)。バイオ後続品(バイオシミラー)のページ更新(2月14日付)
承認されたバイオ後続品のリストおよび関連Q&Aが最新版にアップデートされ
(バイオ後続品 | PMDA)、企業にとって競合品や参入機会を分析する貴重な参考資料となっています。
こうした承認薬情報がまとまって公開されたことで、医薬品開発や承認審査の現況を網羅的に把握できるようになりました。新規承認された医薬品やバイオシミラーの動きを追うことで、各社は市場ポジショニングや競合分析に反映させることができます。
ガイドライン・リストの改訂
医薬品添加剤リスト(2月3日付更新)
「特定の製剤や特定の条件下のみ使用を認める添加剤」の最新リストが公表され
(医薬品添加剤 | PMDA)、
製剤設計上の留意事項や添加物の使用可否がアップデートされました。
医療機器の生物学的安全性評価および原材料変更に関する解説(2月6日公開)
医療機器における生物学的安全性評価の考え方や、原材料が軽微に変更された場合の薬事手続き効率化の重要性を明確化
(医療機器の生物学的安全性評価と原材料変更について | PMDA)。
製造工程や使用方法、患者の人体への接触レベルなどに応じた評価・対応が求められています。
GMP/GCTP調査のリスクベース運用(2月5日付事務連絡)
「医薬品及び再生医療等製品の適合性調査において、リスクに応じ調査範囲を柔軟に変更する運用方法」が示されました
(各種関連通知(再審査) | PMDA)。
2月3日付で一部訂正も行われており、リスク評価に基づく査察手法が実装されています。
これらの改訂情報は、開発や製造段階で必ず検討すべき指針と言えるでしょう。添加物リストの使用範囲は製剤設計を直接左右し、医療機器の原材料変更やGMP/GCTP査察へのリスクベース対応は品質保証体制全般を再点検するきっかけとなります。
適合性調査および品質管理
適合性調査の調査実績(1月30日公表)
令和5年度(2023年度)にPMDAが実施・完了したGCP実地調査や適合性書面調査の件数・傾向が報告されました
(PMDA/令和5年度におけるGCP実地調査及び適合性書面調査調査実績 | GMP Platform)。
調査対象や指摘事項の概要は、今後の治験実施体制や申請資料作成の指標となるでしょう。
GMP指摘事例速報(オレンジレター)No.18(1月27日付)
多品目を製造する工場で確認されたGMP不備事例が共有され
(品質確保に関する取り組み | PMDA)、
業界への注意喚起が図られています。交叉汚染や製造管理など、具体的な指摘内容を自社に照らし合わせてチェックすることで、予防措置や改善策を講じることが可能です。
海外製造業者に対するGMP適合性調査(1月23日付情報公開)
外国製造業者が医薬品医療機器等法に基づく日本のGMP基準に適合しているかをPMDAが調査し、その結果が承認要件となる仕組みが解説されています
(医薬品及び医薬部外品外国製造業者に対するGMP適合性調査について | PMDA)。
外国製造業者の認定・登録番号リスト更新(2月14日付)
2025年2月3日時点で認定・登録を受けている外国製造業者の一覧表をPDF/Excel形式で公表
(外国製造業者認定・登録番号の公表 | PMDA)。
法人情報欄などが拡充され、海外サプライヤーの信頼性評価や監査計画に役立ちます。
これらの情報群は、国内外の製造拠点のGMP遵守や当局査察のフォーカスポイントを示す重要資料です。企業は適合性調査のリスクベース運用や外国製造業者リストを活用し、自社および委託先の品質システムを見直す必要があります。
治験・承認プロセス関連の情報
治験審査委員会(IRB)の登録情報更新(1月14日付)
2024年12月31日までに登録依頼のあったIRB一覧が最新版に差し替えられ
(治験審査委員会(IRB)の登録 | PMDA)、
変更点や入力例が補足されるなど、治験実施体制の透明性を高める情報です。
人道的見地から実施される治験(拡大治験)の実施状況(1月31日付更新)
医薬品や医療機器・再生医療等製品における拡大治験の最新公開情報が毎月更新
(人道的見地から実施される治験について | PMDA)。
開発中の未承認薬を重篤患者へ早期提供する制度の利用状況を把握できます。
対面助言(簡易相談)の実施予定とオンライン対応
医療機器等に係る簡易相談(2025年3月実施日程)
(簡易相談 | PMDA)
1月31日付で最新スケジュールが公表されました。新一般用医薬品開発妥当性相談(OTC医薬品の開発初期段階の助言)
(一般用医薬品開発開始・申請前相談 | PMDA)
2月14日付で2025年3月~2026年3月までの実施日程が公開され、企業は早期相談計画を立てやすくなっています。関西支部のテレビ会議システム導入(2月10日発表)
(対面助言のうち簡易相談 | PMDA)
2025年2月17日以降、Web会議に加えてTV会議でも遠隔相談が可能となり、遠方企業の利便性がさらに高まる見込みです。
これらの施策により、治験ネットワークや承認申請の進捗管理がより円滑化されるだけでなく、当局とのコミュニケーションが一段と容易になります。相談日程や手続きを把握し、適切な時期に当局から助言を得ることが、効率的な開発戦略のカギとなるでしょう。
説明会・イベント情報
Early Consideration関連:「抗悪性腫瘍剤の第Ⅰ相試験計画時の統計学的留意事項-安全性の観点から」(2月13日案内)
2024年12月に公表されたEarly Consideration文書の解説を目的とした説明会がオンラインで実施されます
(Early Consideration「抗悪性腫瘍剤の第Ⅰ相試験計画時の統計学的留意事項-安全性の観点から」説明会 | PMDA)。
抗がん剤の初期臨床試験デザインを検討するうえで欠かせない最新知見が得られる場として、注目が集まります。
令和6年度 治験エコシステム導入推進事業 成果報告会(2月3日案内)
2025年3月24日にオンラインで開催される本報告会では、今年度の治験手続効率化の成果と次年度計画が説明される予定
(令和6年度治験エコシステム導入推進事業成果報告会 | PMDA)。
医療機関や製薬団体との連携状況や、今後の参加募集要項も示される見込みです。
信頼性保証部説明会2025冬(~一緒に考えよう Renovation of Compliance~)
同じく2月3日付でプログラム更新が通知され、GCP/GLP/GPSPなどの適合性調査や改革の取り組みに関する議題が予定されています。
「令和6年度 プログラム医療機器に関する講習会」案内更新(1月24日付)
ソフトウェア医療機器(SaMD)の開発・承認、QMS、市販後安全対策などを包括的に学べるオンライン講習会(eラーニング)
(令和6年度 プログラム医療機器に関する講習会のご案内 | PMDA)。
スタートアップや異業種企業からの参入が増えるデジタルヘルス領域において、必見の内容です。
これらのイベントや説明会を通じ、PMDAは最新の規制情報を発信するだけでなく、業界との双方向コミュニケーションや人材育成にも積極的に取り組んでいます。企業にとっては、最新の審査方針や当局の考え方を直接吸収し、自社の開発・申請戦略に素早く反映させる絶好の機会といえます。
企業戦略の視点
この1~2月に公表されたPMDA審査情報は、各企業の開発・承認戦略だけでなく品質保証やサプライチェーン管理にも影響を及ぼします。
新医薬品承認品目一覧・バイオ後続品の動向
競合製品や市場参入状況を一望でき、自社パイプラインの差別化を再検討する重要資料。
バイオシミラーの承認拡大は、先行バイオ医薬品メーカーには特許満了後のライフサイクルマネジメントを、ジェネリック企業には参入機会創出を示唆します。
コンパニオン診断薬情報・未承認薬データベース更新
個別化医療の推進に不可欠なコンパニオン診断薬は、新薬開発の付加価値向上に直結。
未承認薬リストは医療ニーズや公的支援対象の把握に役立ち、ドラッグラグ解消への取り組みにもつながります。
品質管理・GMP対応
GCP/GMP適合性調査の実績やオレンジレター指摘事例は、臨床試験や製造現場のリスク対応策を洗い出すヒント。
リスクに応じた査察運用は、品質システムが成熟した企業にとっては負担軽減の可能性もありますが、不備があれば厳しい調査を受けるリスクもあります。
治験・承認プロセス関連情報
IRB登録や拡大治験の実施状況、公表された相談日程・遠隔対応などは、開発計画や当局とのスケジュール調整を効率化。
特にOTC開発相談や医療機器の簡易相談枠の公開は、競争が激しい分野での早期アドバンテージ獲得に不可欠です。
説明会・イベントへの積極参加
Early Considerationの解説会、治験エコシステム報告会、信頼性保証部説明会、プログラム医療機器講習会などは、最先端の規制トレンドや科学的知見を共有する場。
参加企業は規制対応力を高めるだけでなく、審査期間短縮や品質改善につながるヒントを得られます。
企業は、こうしたPMDAの動向をいち早く取り入れて開発・品質戦略を磨き上げることで、国内外の競合環境を勝ち抜く体制を整える必要があります。
今後の展望
今回の一連の情報から、2025年以降のPMDA審査行政において、下記の方向性が見えてきます。
リスクベースの規制運用強化
GMPのみならずGCPや市販後調査なども含め、リスク評価に応じた柔軟な査察や承認手続が広がる可能性大。
企業には自主的なリスク評価・低減策が求められます。
国際調和とDXの加速
遠隔査察やテレビ会議システム導入などリモート技術を活用した審査体制が本格的に定着。
電子申請の標準化やAI支援の審査導入など、今後の審査プロセス効率化に期待が高まります。
革新的医療・医療機器への対応強化
遺伝子・細胞医療、AIを活用した診断薬・プログラム医療機器など、先端分野におけるガイドライン整備が進展。
PMDAは講習会や協働計画を通じ、新興領域でもスピーディかつ適切な承認基盤を整えていく模様。
審査の迅速化と産業界との対話深化
治験エコシステムや各種助言制度の充実によって、審査期間短縮とドラッグラグ解消がさらに進む見込み。
企業側も対面助言や説明会を積極活用し、早期に当局とコンセンサスを得る姿勢が重要です。
まとめ
2025年の始動期に当たるこの1~2月、PMDAは「高度な科学的知見に基づくガイドライン整備」と「リスクを見極めた柔軟な規制運用」を同時並行で進める姿勢を鮮明にしています。日本の医薬品・医療機器規制は今、大きな変革期を迎えつつあり、質的にも量的にもスケールアップし続けると見込まれます。
これから先、企業が国際競争力を維持し、新たなビジネスチャンスを逃さないためには、引き続きPMDAの発信情報をウォッチし、意見公募やイベント参加を通じて規制の進化に積極的に関与することが鍵となるでしょう。
2025年春以降も、治療領域別の審査指針や制度の見直しなど、さらに踏み込んだアクションが続々と予想されます。業界としては「プロアクティブな規制フォロー」を組織的に進め、自社戦略のアップデートを絶えず加速させることが求められるのです。
(2024年度承認品目一覧(新医薬品) | PMDA)
(令和6年度 プログラム医療機器に関する講習会のご案内 | PMDA)