オキサリプラチンによる末梢神経障害の予防に人参養栄湯?
こんにちは。薬剤師Bです。
本日も論文を読んでいきたいと思います。
今回は支持療法に関する論文です。支持療法は薬剤師の腕の見せ所でもあるので、気合が入りますね。
論文はこちら。
この論文はがんサポーティブケアのための漢方活用ガイド(日本がんサポーティブケア学会;南山堂)で引用されており気になってました。
化学療法による末梢神経障害(CIPN)と聞くと牛車腎気丸のイメージの方も多いかと思いますが、今回は人参養栄湯に関する金沢大学からの報告です。
ちなみに牛車腎気丸はGJG、人参養栄湯はNYTと略すみたいですね。
ちなみにオキサリプラチン誘発性のCIPNに対して、GJGは大規模な二重盲検ランダム化比較試験でNegativeとなっています。
NYTはin vitroで神経細胞保護作用を示し、in vivoでオキサリプラチン誘発性CIPNの保護効果を示したため、今回ヒトでのphase IIとなったようです。
ではPECO。
余談ですが皆さんはCapeOX・CAPOX・XELOX どの呼び方ですか?笑
個人的にはCapeOX派です。
最近ゼローダ飲んでる人あまり見ないよね。うちだけなのかな。
さて本題です。
大腸がん術後補助化学療法 CapeOX療法におけるCIPNの予防として、NYTの有効性を検討した報告です。
大前提として、セッティングは術後補助化学療法です。
再発予防として化学療法を行っているわけですので、RDIを高く保つことは極めて重要です。乳がんの周術期化学療法や悪性リンパ腫に対するCHOP療法なども同じような考え方をしますね。
一方、Stage IVや再発の場合、認容できない有害事象に対しては減量が原則となります。QOLを維持することが何より大事だからです。
まあ本研究はCIPNの予防なので、緩和的化学療法でも十分に恩恵を受けられる可能性もありますが。。。
また、今回使用したのはツムラのNYTです。
これは大事な情報なので本文中methodにもしっかり書いてあります。
というのも、漢方製剤は同じ名前の漢方でも構成生薬が異なる場合があるため(NYTはそんなことなさそうですが)、どこのメーカーの製品かは重要な情報となります。漢方の論文を読むときは注意して読みましょう。
結果の方は、NYTでCIPN予防効果あり、とのことです。
詳細を見てみると、解析に含まれる全例でGrade1以上のCIPNはありますが(そりゃあオキサリプラチンだもんね)、Grade2以上はNYT群で有意に少ないとの結果です。本文Fig1はそのほかの有害事象もまとめられていますが、CIPNだけではなく悪心や食欲不振もNYT群で少ないみたいですね。血小板減少だけNYT群で多いみたいですが、これは後述するRDIの影響でしょうかね。
RDI(単位時間当たりの治療強度、という概念です。治療延期などもRDIを低下する要因となります)はオキサリプラチン・カペシタビンともにNYT群で高いという結果でした。RFS・OSもどちらかというとNYT群の方で高そうですが、有意差はつきませんでした。RDIが高く保たれているので、再発予防効果もNYT群で高いような気がしますが、本研究ではそこまで結論付けることはできませんね。
NYTによると思われる副作用は1件で、低カリウム血症&下肢浮腫でした。
この研究で残念な点は2つです。
一つはプラセボが設定されていない事。ただし漢方製剤はプラセボの設定が難しいのでまあ仕方いのかな。
もう一つは、CIPNの評価は最終的に臨床腫瘍医(腫瘍内科医師、ということでしょうね)が評価していますが、評価者も盲検されていないことです。したがって、CIPNのGrade評価についてバイアスが生じている可能性はあります。これらはいずれも本文中でLimitationとして触れられています。n数が少ないのもLimitationですね。
以上を踏まえると、「まじか、明日からCapeOXやる人全例に人参養栄湯出してもらおうか」とまでは(個人的には)なりません。
漢方製剤は服用回数も多く、味も独特なので一定割合でアドヒアランス不良は生じうると思われます(本論文は臨床試験としてやっているので、おそらくアドヒアランスも厳しく管理されていたと思いますが)。ただ、人参と黄耆を含む参耆剤(補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯)はがん患者にとっていろいろメリットがありそうな報告が出ています。したがって、しびれ嫌!という人には考慮してもよさそうな気がしますね。予防の有効性の報告なので、症状が増悪する前に早めに手が打てるとよさそうです。本研究のクライテリアで”証”は考慮していませんので、どんな方でもメリットがある可能性がありそうです。もちろん、証がドンピシャであった方が効果あるんでしょうけどね。
というわけで今日の抄読会はここまで。
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