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慢性肝不全に、なぜ分岐鎖アミノ酸(BCAA)が投与されるのだろう?
一言でいうと、非代償性肝硬変などの肝不全になると、フィッシャー比(BCAA/AAA)が低下してアミノ酸バランスが崩れるから。
※BCAA(branched chain amino acid):分岐鎖アミノ酸
必須アミノ酸9種のうち炭素鎖が枝分かれしているもの。バリン、ロイシン、イソロイシンが該当。
※AAA(aromatic amino acid):芳香族アミノ酸
文字通り芳香環(ベンゼン環)を持つアミノ酸。チロシン、フェニルアラニン、トリプトファンが該当。
アミノ酸は全部で20種もあるのに、なんでBCAAとAAAの6種だけが取り上げられる?
1976年フィッシャー氏が頑張って研究して下さって、「BCAAとAAAのモル比が有用だ」と報告してくれたから。
フィッシャー氏は、肝硬変患者ではBCAAが低下してAAAが上昇することを発見し、「BCAAとAAAのモル比」(フィッシャー比)が肝の代謝・予備能の指標、肝障害の重症度判定に有用であり、脳症と関連があることを報告した。
患者にBCAAを投与することで脳症が改善したことも報告している。
肝硬変患者においてなぜBCAAが減少するのかはまだ不明な点が多いが、以下の3点が考えられている。
1.肝硬変に伴う高インスリン血症による筋肉内へのBCAAの取り込み促進するため。
2.エネルギー基質としてのBCAA利用が亢進するため。
3.過剰になったアンモニア処理のためBCAAの消費が進んで枯渇するため。
※BCAAから生成するグルタミン酸はアンモニアと結合してグルタミン酸となり、アンモニアの解毒作用を有する。
三輪・臨床栄養 Vol.100,No.2(2002)より
(参考)http://www.hyoyaku.org/cntnt.php?cnt=805
本題:肝不全患者にはなぜBCAAが投与されるのか。
アンモニア脳症を防ぐため。
BCAAが筋肉のみで代謝されるのに対して、AAAは主に肝臓で代謝を受けるため、肝機能が障害されるとAAAが増えてしまう。
そうなると、肝不全では脳内に取り込まれるAAAが増え、アンモニア脳症を引き起こしてしまう。
※BCAAとAAAはBBB(brad brain barrier:血液脳関門)で競合するため。
BCAA製剤を投与してフィッシャー比をコントロールすれば、脳内に移行するAAAの量を減らすことができるのではないかという考え方。
また、肝不全(肝硬変)ではタンパク合成能が低下して血中アルブミンが減るので、たんぱく質を食事から摂取しないといけないのが、腸内細菌によるアミノ酸分解で生じたアンモニアが肝性脳症の引き金になってしまうというリスクがある。
さらに、アンモニアは肝臓の尿素サイクルで代謝されるが、肝機能不全ではそれがうまく機能せず、血中アンモニア濃度が高まっていく。
その点からも、フィッシャー比をコントロールして脳内へ移行するAAA量を減らすことは意味がある。
上記ジレンマ解消のために、低タンパク食とBCAA製剤の併用が行われている。
BCAA製剤
リーバクトは1回量(1包量)が4.15gと少ないが、アミノレバンENやへパンEDに引けを取らないほどのBCAA量が摂取できるので、効率がいい。
ただしリーバクトはBCAAしか入ってないが、アミノレバンEN・へパンEDは他の必須アミノ酸やビタミン類、微量元素類なども配合されていて栄養改善効果にも優れている。
※リーバクトは通常食、アミノレバンは夜食といったイメージ。
アルギニンも前述したグルタミン酸同様、アンモニア解毒作用がある。
尿素サイクル中間体のアルギニンを投与すると尿素サイクルが回復するから。
まとめ
肝硬変でアンモニア脳症が起こる経路3つ。
1.脳内へのAAA移行量の増加。
2.タンパク摂取による腸管からのアンモニア吸収増加。
3.肝でのアンモニア解毒能低下。
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